第6話 身の程知らずは恐怖しない
「くっ……!」
背中にクナイを刺されたシナトスは、その場で膝をついてしまった。
クナイに毒でも塗ってあったのか、敵の目の前だというのに体を震えさせて動こうとしない。
【死ヲ! 生者二死ヲ!】
化け物は容赦なく、動けないシナトスに鉄球を振り下ろしたが――
「ヒカル!?」
間一髪、なんとか俺はシナトスを助けることができた。
そのまま俺はシナトスを抱え、ビルの陰に隠れる。
ここならしばらくは見つからないはずだ。
「お嬢、しっかりしろ!! ……。良かった、傷は浅い……。毒も解毒したから、しばらくすれば治るだろう」
それを聞いて俺もとりあえずは一安心だ。
だが、状況は最悪と言ってもいい。
なら今すべき判断は一つ。
「リーム、シナトスを連れて逃げよう! このまま、ここに居続けるのは危険だ」
逃げるしかない。
怪我が浅くとも、体を動かせないのでは結局危険なことに変わりはない。
しかし、二人は俺の意見には賛成しなかった。
「城内 光。確かに極限まで危険になればそうするつもりだが、我々はそう簡単に逃げるわけにはいかないのだよ」
「どうして!?」
「ヒカル、よく聞いて。クロカゲはね、夜の間しか姿を現さないの。だから、見つけた今のタイミングで仕留めとかないと、次いつどこでアイツを倒せるのか分からない」
「病の蔓延を少しでも防ぐために、我々は極力その場で処理をする必要があるのだよ」
クロカゲは夜の間しか活動できない。
一度逃がせば、次いつ見つけられるか分からない。
だから逃げるわけにはいかない。
なるほど、確かに二人の言う通りだ。
なら、俺は別の方法をとる。
「シナトス、少しの間リームを貸してくれないか?」
「え?」
「なら、毒が回復するまで俺が時間を稼ぐ」
「な、何を言ってるの!? まだ、あのクナイの謎も解けてないのに、そんなことしたら死んでしまうわ!!」
「大丈夫、クナイの謎はもう解けた」
「何!? 城内 光、それはどういうことだ!?」
やはり、二人は気づいていないようだ。
傍から見ていた俺にしかわからなかった事、それは――
「多分、謎の答えは『磁力』だと思います」
「磁力?」
不思議そうな顔をする二人に、珍しく堂々と俺は説明する。
「まず、これを見てくれ」
そう言って俺が出したのは、電源が付かなかったスマホだ。
「スマホ?」
「これ電源が付かないんだ。最初、俺はどこかにぶつけたのかとも思った。でも、多分これアイツの磁力のせいでバグってるんだよ。精密機械って磁石が近くにあるとおかしくなるし」
「でも、それだけで断定するのは……」
まあ、そう言われても当たり前だ。
でも、俺にはもう二つ確証があった。
「それにあの電柱、考えてみてくれ。内側で戦ってるのに、内側に曲がるのはおかしいだろう?」
「!」
「多分あれも、磁力で引っ張られて曲がったんだ。あと、アイツの周りにやけに残骸が落っこちてたのもそれが原因だと思う」
「なるほど……。クナイも投げた後に磁力に引っ張られて戻ってきたというわけか」
「おそらく」
シナトスは少しの間、驚いた顔で俺を見ていた。
しかし、途中でハッと表情を変えると俺に質問する。
「で、でも! いくらチカラの正体が分かったからって危険すぎることに変わりはないわ!! 無茶すぎる!!」
シナトスはもう半分泣きそうな顔になっていた。
できるならこの顔を笑顔にしたい。
そう思いもしたが――
「確かに『無茶』だけど『無理』じゃないだろ? それに、最初逃げようって言った俺が言うのもあれだけどさ」
それは、死神に言うにはあまりにもふざけたセリフだった。
「もう、誰も死なせたくないじゃないか」
目を見開くシナトス。
そう言い残すと、シナトスを残して俺は化け物の前に飛び出す。
【生者?】
と、俺が持つリームはあくまで機械的に問いただした。
「吾輩は道具だから持ち主に従うが、やはり時間稼ぎと言っても君にはいささか荷が重すぎないかね?」
「大丈夫」
もちろん、俺だって何の対策もなく時間稼ぎ役に名乗り出たわけじゃない。
多分、シナトスもリームも知らない『次元眼』のチカラの力を俺は知らず知らずのうちに覚醒させていた。
「アイツの攻撃は、もう見切った」
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