第5話 初戦、見えないチカラ

「「さあ、死神の夜の始まりだ!」」


 シナトスとリームはそう叫ぶと、相手に突っ込んでいった。


【生者! 生者二死ヲ! 生者二死ヲ与エン!!】


 馬に跨る化け物は相変わらずの狂った声を上げながら、頭上で回転させた鉄球をシナトスに向けて振り下ろした。

 が、シナトスはそれをジャンプして避け、さらには鉄球の鎖に着地。

 地面に突き刺さり、ぴんと張った鎖をゴムのように扱い、反動を生かし相手に向かって勢いよく斬りかかる!


【ヌア!?!?!?!】


 しかし、化け物の首は飛ぶことはなく。

 血のような紫色の何かが飛び出した首は、まだついていた。


「ぬぅ……。すまん、お嬢。斬り込みが甘かった」


「いいわ、次で落とす」


 冷静に物騒なことをいいながら、シナトスはもう次の行動をとっていた。

 ようやく鉄球を引き抜いた化け物が、シナトスのほうを振り返るがそこにはもう誰もいない。


【????】


「遅い!!」


 シナトスはもう既に馬の下を潜り抜け、再びその首を斬るべく反対側にまわっていたのだ。

 が、今度は化け物もそう簡単には斬られず、鉄球を初めのように思い切り振り回す。

 すると、ヤツの周りに小さな竜巻のようなものが巻き上がり、シナトスを吹き飛ばしてしまった。


「シナトス!!」


 俺はつい叫んでしまったが、彼女はこれぐらいでやられはしない。

 空中で上手く体をひねると、初めて俺の前に現れた時のようにリームにまたがり、難なく着地。

 しかし、化け物は手を緩めることなくシナトスに竜巻を斬りつける。


 シナトスはその竜巻を、器用にかわし続ける。

 時には、戦いに巻き込まれ綺麗なお辞儀をする電柱を利用し、

 また時には、地面を斬り上げてアスファルトの壁を作る。


「凄い……!」


 その間、俺はと言うと、ただただ見ることしか出来なかった。

 人のレベルを明らかに逸脱した戦い。

 さっきまで一緒に戦うつもりだったのが、恥ずかしくなってくるぐらいだ。

 なら、俺は俺にできることをしなければ、それは――


「確か、スマホで写真を撮るとか言ってたよな……」


 最初に言われた通り、情報収集しかない。

 シナトスが戦いに集中してる間、俺はヤツの情報を少しでも多く集める。

 それしか俺には出来なかった。


「……。あれ? 何で電源が付かないんだ?」


 ところが、なぜかスマホの電源はつかなかった。


「なら、頭で覚えるまでだ!」


 目の前で超次元の戦いが起きているんだ。

 何かでスマホが壊れていても不思議じゃない。

 今はそれに狼狽えるよりも、俺にできることをしなければいけない。



 戦いは俺が少し目を放している間に、かなり進展していた。

 化け物の周りの竜巻が消え、かわりに足元には残骸のようなものが散らばっている。

 一方シナトスは少し疲れてはいたが、戦いに支障をきたすほどではなく、まだまだ戦える。


「勝てる……!」


 俺も彼女もそう確信したのか、シナトスは初めのように化け物に勢いよく突っ込んでいった。


【アアアアア!】


 化け物はクナイのようなものを投げつけたが、シナトスには当たらない。


「これで終わりよ!」


 そして、化け物の首を斬るべく高く飛んだところで――


「危ない!!!」


「え?」


 俺がそう叫んでも、もう遅かった。

 無防備だったシナトスの背中に、襲い掛かったもの。

 それはさっきかわされ、飛んで行ったはずのクナイだった。

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