民王 著書 池井戸 潤
今回の本はこれまで紹介してきた本とジャンルが違い、ガチガチのフィクションである。
もちろんそのことは読む前から分かっており、今回の本はここで紹介する予定はなくただの自分の趣味だったのだが、終盤にかけての展開と読み終わった後のすっきりとした充実感を少しでも忘れないようにここに書き記しておきたいと思った。
ここまで読んでもらってなんだが、今回の感想&紹介には小説という特性上、多少のネタバレが含まれていることをご了承願いたい。(もちろん小説の肝となる部分は避けます。)
まず、題名である「民王」という単語は正直聞き覚えのない言葉であったが、意味は容易に推測することができる。
それは「民の王」すなわち「人民を統べるもの」という意味である。
そしてわざわざ民王と漢字で書かれていることから、今回の本は総理大臣のことがかかれているのでは、なんていう完璧な推理を題名を見た時点で気づけばかっこよかったのかもしれないが、実際は読み終わってこの文章を書き始めてやっと気づいた鈍感さに自分自身呆れると共に、作者の考え抜かれた題名をつけるセンスには素直に脱帽します。
次は内容の方にごく簡潔に触れていきたいと思う。
内閣総理大臣である武藤泰山は党内議員の問題発言の対応を国会で求められ腹を立て、同時刻その息子武藤翔は六本木のバーで女と言い争い腹を立てる、まったく状況の違うが似たような感情を抱いていた親子がその瞬間中身だけが入れ替わり、翔は国会、泰山はバーへと意識が飛んだのだった。
それだけだとアニメや漫画にありそうなテンプレートな、もはやありふれたネタの気がするかもしれないが、今回の小説は一味違うのだ。
というのもその意識交換自体が他国まで巻き込んだ巨大な陰謀の一端であり、霧の中に隠れる真実を見つけ出すために二人は周囲の人間を巻き込み、奔走するという非常にわくわくし、思わず鳥肌が立つ内容なのである。
加えて驚くべきことにこの小説にはこのようないわば王道展開と並び立つ形で展開されるもう一つの物語があるのだ。
詳しくはネタバレになるので詳細は言えないが、私は武藤親子に焦点を当てたこのもう一つの物語に強く惹かれた。
というのもただ主人公がかっこよくある物語は読んでいて面白いと思う反面、どこかつまらなさというか一種の人間臭さを感じることがないことからあまり記憶に残らず、謎の高揚感だけが取り残されてしまう。
しかし、今回の小説は武藤親子の人間らしさというのを、意識が入れ替わったことにより変化する心情や考え方によって表現し、多くのユーモアの下で描かれる確かな真実は自分の身に翻って考えさせられる。
また、そこで示される人間のかっこよさは良い意味で異常で他の小説とは一線を画すものがあると思います。
今回の本はあとがきで有権者必読書と書かれているが、有権者でなくとも読む価値が大いにある興味深い本です。
いま外に出れない日々を過ごすと思いますが、そんな時だからこそぜひ読んで欲しい一冊です。
今回の本 民王
著者 池江戸 潤
出版社 文春文庫
読書紀行 唯ノ 鳥 @tadanomeityou
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