4:探偵、金に困れば頼るもの。

「いやぁー、本当に助かったよ! あ、コレ謝礼ね!」

 ニコニコの笑顔で厚めの茶封筒をナジリマさんに渡す壮年の男性がいます。

 彼は、私たちの依頼主です。

 今日、ついに久しぶりの依頼が来たのです!


「いえ、慣れてますので。財布探し。」

 そう。

 彼の依頼は、『失くした財布を探してほしい』というものだったのです。




「ありがとうございましたー」

 事務所のドアまで見送ってから、私は事務所内に戻ります。

「ナジリマさん、いつもの財布探しより報酬多くないですか? いつも1万とかくらいなのに。こんなにもらっていいのでしょうか?」

「7、8、9、わ! 10万円! いいと思いますよ。少なくとも、こっちが要求したわけではないので」

 ナジリマさんは、その茶封筒にシャーペンで文字を書いていきます。

「や・ち・んっと」

「ナジリマさん! もしかしてですけど、今回の依頼で家賃って……!」

「えぇ、もちろん。これで……!」


「今月の家賃が払えますね!」

「先月の家賃が払えますよ!」


「え?」

「ん?」

 2人の間の空気が凍ります。




「なんで先月の家賃払ってないのですか!」

「先月は先々月の家賃を払ってしまったので……」

「なんで先々月の家賃払っていないのですかぁ……」

「先々月は先々々月の家賃を……」

 まさに無限地獄。

 さかのぼっても、さかのぼっても、これの数が増えるだけです。




 家賃をどうするのか話し合っていると、事務所の掛け時計から鳩が飛び出してきました。

 12時です。

「わかりました。私はお昼を作るので、ナジリマさんはどうするか考えてください」

「はい……」

 しょぼんとしたナジリマさんは新聞を取り出し、求人広告欄を見始めました。




「ナジリマさーん、出来ましたよ」

 私がお昼ご飯のチャーハンを、ナジリマさんの机の上に乗せたとき。

「これだぁ!」

 ガタっ、とナジリマさんは急に椅子から立ち上がりました。

「な、なにかあったのですか? ナジリマさん」

 私は恐る恐る聞きました。

「これ! 見てください!」

 ナジリマさんが指をさしているのは、先ほどから見ていた新聞の求人広告欄です。

「バイトです!」




「えっと、『急募。メイド募集。1月26日から3日間の期間限定。住み込み。報酬は5万。我が屋敷でパーティーを開催することになったが、雇いのメイドも執事も足らないため、臨時募集を行うこととした。応募される方は、以下の住所に自分の住所と応募人数を書いた手紙を。此方で必要書類を送ります。日本 帝都 ×××地区××-××-××× ×××号室。』ですか……」

 今日が1月17日なので、8日後ですね。

「えぇ、これです」

「あれ? でも、家賃って9万ちょいでしたよね、足りなくないですか?」

「2人で働くんですよ」

「え? 私もですか?」

「そうです」

 私、メイドなんてできないです。

 そう、ナジリマさんに言いました。

 すると。

「大丈夫です! 練習すれば何とかなります」

 そんなうまく行かないですよ……。


 またしても、ナジリマさんに押し負けてしまい、バイトをすることになってしまいました。

 私たちは冷めてしまったお昼ご飯を食べてから、応募の手紙をしたためて、事務所近くのポストに投函しました。




 楽観的なナジリマさんの提案によって、まさかあんなことになるとは。

 この時の私は、思いもしていませんでした。




 -side:ナジリマ-

「うーむ、おかしいですね」

 Eジョシュさんが帰った後の事務所。

 彼女には、私が今日ここに泊まることを伝えています。


 私が気にしているのは、求人広告。

 世界的に有名な地図サイトで例の住所を検索したところ、出てきたのは古いアパートでした。

 間取りを調べてみたものの、6畳一間でした。

「うーむ……、まさかこんなところでパーティーを催すとは思えませんね」

 こんなに狭いのであれば、メイドも雇う必要がありません。

 まず、こんなところに住むような人がメイドなど雇うでしょうか。

「考えられるとしたら、家の場所を知られたくない、でしょうかね」

 ありえます。

 そして、もう1つ気になるところ。

 それは、手紙の文章です。

「文末が整っていない……。敬語だったり平語へいごだったり……」

 ただのミス、あるいは。

「海外の方……?」

 しかし、今の帝都にわざわざ?

 空を巨大な城が飛んでいるのですよ?

 普通では考えられません。

 では。


 ワクワクしてきました。

 探偵の勘が、警鐘を鳴らしています。

 事件の、においです。

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