エンディング
エンディング
10年後‥。
イツカは27歳の結婚記念日に久しぶりに実家に戻ったのは、ウェディングドレスをもう一度、見るためだった。
母親と一緒にウェディングドレスを出して、飾った。
綺麗ねー、と母親が言うので、イツカは大きく頷いた。
純白のウェディングドレスが窓から入ってくる夏の光に映えた。
イツカはトントントンと、いつかのように自分の部屋への階段を上った。
そっと扉を開く。
誰もいないよね?
そこには学生時代のデスクがそのままに残されていた。
その椅子に座り、しばらく頬杖をついた。
引き出しから思い出のノートを出して、沢山の自分の詩を読んだ。
夕暮れになり、やっぱり書こうとイツカはノートの最後のページにペンを走らせた。
【拝啓、ユズル君。
元気かい?
私があなたと付き合い始めて10年が経ちました。
思い出の7月13日を忘れちゃいないよ。
あの時の早朝の電車を忘れちゃいないよ。
あの時の君を忘れてはいないよ。
静けさのロックバンドの話、楽しかったね。
あれは君なりのプロポーズだったの?
今となってはもう確かめることも出来ないのが悔しいけれど。
多分、今も恥ずかしくて訊けないけれどね。
多分、あれはプロポーズ。
私達がそうなることをわかってたんだよね?
きっと、そうだよ。
ギターが君で、ベースが私で、ボーカルがアイハ‥。
アイハとは、今でも友達だよ。
彼女も来年、結婚するとお知らせが来ました。
二人でアイハを祝いたかったよね?
君はさぞ悔しいんじゃないかな?
君にとってアイハは魂で繋がった友達だもんね?
私がどれだけ嫉妬したかわかる?
多分、アイハは君の心の中心にいて、私を君は外の世界へと背中を押し出したかったんじゃないかな?
違う?
これからも不安になったら君を見るよ。
そうしたら、前へ進めたよ。
ありがとう、君。
君は自分が死んでいくところを見せるのを嫌がってたよね?
でも私は見ちゃった。
ずっと看病したよ。
6年前、亡くなる時も側にいたよ。
強く、亡くなる姿を見たよ。
見せてくれたね?
あなたは凄かったよ。
最期の最期まで戦って亡くなったよね?
私のママが病院でずっと君を見守ってくれたのも感謝だね?
ママが教えてくれたこと。
私はひとつだけ嘘をついてました。
秘密にしてました。
幼い君とアイハに注射器や測定器の使い方を教えたのは実は若い時のママとパパだったんだよ?
ママからずっと秘密って言われてたけど、こういう形で伝えるのは、よかったのかな?
だから死んだパパは君の膵臓の中で生きてた。
ずっと、君の膵臓の中で。
幼い頃の宝物は君とアイハだけの世界だよね。
これからも、アイハは君を愛していくでしょう。
ねえ、アイハの気持ちに気付いてた?
君を一途に想ってた。
女の子だもんね。
私には幼い二人が見えて、幻の中で二人が微笑むので泣いてしまいます。
泣き虫でごめんなさい。
いつも泣いてたよね、私って人は。
そして君は大切な宝物を残してくれたんだ。
ありがとうございます】
イツカはトントントンと階段を上がってくる足音に気付いた。
扉が開く。
イツカがその姿を見て微笑むので、娘も微笑んだ。
風のように入ってきて、イツカの膝の上に楽しそうに座った。
イツカは大切に抱きしめる。
そして続きを書き始める。
【君のくれた宝物は4歳になりました。
君はもうひとつ素敵なものを残してくれてたんだね。
娘の名前‥。
ミライ。
最近、気付いたよ。
イツカ、ミライで、会おう。
そういう意味だよね?
じゃ未来で。
私は幸せだったよ。
そして、今‥。
私は‥。
君のいない未来に来ました】
おわり
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