第3話 ユズルの死、過去への旅

イツカとアイハは待ち合わせのファーストフード店にほとんど同時に着いた。


だから店の入り口でお互い気づき、店には入らずに歩くことになった。


夕暮れの風と光が辺りを染めている。


アイハは何も言わずにイツカの手を握り、小さく歌を歌った。ハミングなので、なんの曲かわからない。


そのままユズルの家に向かうと、お通夜が始まろうとしていた。


お通夜。


本当にユズル君は遺影になっていた。


もちろん親族ではないので、家の中には入るのを遠慮したけど、読経を聞いていると涙が次から次へと流れた。


アイハは突然叫んだ。


「ユズル! アイハだよ! 来たよ! ユズル! 最後までカッコよかった!」


その言葉が空に溶けていく。


最後?


どんな最後?


夜になった道をイツカとアイハは手を繋いで歩いた。


「ユズル君の最後って、アイハさん一緒にいたの?」


「秘密」


ひみつ?


この二人って?


「ユズルはバスケット部で、夕方練習してた。この時から倦怠感があったみたい。だりーんだ、俺、今日は、と私を呼び出して耳打ちした。病気のことは私と先生達しか知らなかった」


「なんの病気?」


「糖尿病は知ってると思うけど、それには実は2つあるの。一型と二型。私達が知ってるのは二型と呼ばれてる生活習慣病からなるもの。食べ過ぎとか甘いものを取りすぎたりしてなるもの」


「でもユズル君痩せてた」


「ユズルは一型。ウイルスで膵臓がダメになって、インシュリンと呼ばれる薬を注射してた。子供の頃からずっと」


「子供からずっと」


ほんの小さな公園の見つけた。ブランコと滑り台しかない三角形の公園。


そこでふたりで、アイスクリームを食べた。


イツカはブランコに座り、滑り台に立ったままアイハはじっと凭れた。


「ユズルが死んだのは私のせい」


ポツリとアイハは言った。涙を隠すために食べているアイスクリームをゴミ箱に投げると、見事に入った。


「イエイ」


とアイハはガッツポーズをした。


「ユズル君は運動はしてよかったの?」


「ユズルは病気を誇りに生きてた。この病気を前向きに感謝してて、普通に挑戦してた。明るかった。カッコよかった。その強さが。でもこの病気は合併症で出る危険性がいつもあった」


「合併症?」


「血管がモロくなるから、心臓には負担がかかるの。10万人に一人の病気。昨日は心臓大事にするべきだった。私が、部活休むように言うべきだった」


アイハはイツカの手を取り言った。


「ユズルのいない未来に来ちゃったね」


「でも明日の早朝、あの電車の3両目に乗ってみる。普通にユズル君はいるかもしれない」


「いたら、キスしちゃいな」


「まさか」


そのまさかが起こったらあなたならどうする?

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