第五章 空の治世
一
「私はわかるんですけど、なんで呪術司の
「それは私は聞きたいくらいだ」
愛妾お披露目の途中に、帝が姿を消した。
疑いは愛妾である
帝を襲った
草と戦っている間に帝を失い、藍は悔恨の思いでいっぱいだった。責めを受けても仕方がないと諦めていた。しかし、師の典が牢屋に姿を見せた時、何か陰謀の匂いを感じた。
「典様の何の罪なんですか?」
「共謀罪だってさ。弟子の君を使って帝をたぶらかし、誘拐した罪だって言ってたけど」
「……おもしろいことになってますね」
「そうだね」
師と弟子は鉄の柵越しにお互いの顔を見つめる。
草と凜は別の場所に拘束されているようだった。
帝が何者かによってさらわれたというのに、宮は藍達を拘束するだけで、その捜索には力をいれていないように見えた。
「典、藍殿」
そうふいに声がして、男前の警備隊長が現れる。その表情は硬いものだった。
「宮がおかしいことになっている。父上…将軍が何者かに操られているようだ」
「将軍が!」
親友の言葉に典の顔が曇る。
帝の次ぎに権力があるのが軍部の長である将軍だ。将軍は
帝が消えた今、強と共にその捜索に当たっているはずなのだが……
「臨時の帝に
「?!そんなに早く?」
「ああ、そしてお前の後任は
「おもしろいね」
典は目を細めて後に微笑む。
空が帝――
わかりやすい話だが、危険な状態だった。
「典、藍殿。俺は表だってお前達を助けることができない。宮の上層部がおかしい。下手に動くと俺も拘束される」
「強様が?!だって警備隊長ですよ!」
「それでもだ」
(信じられない)
藍は起きていることが信じられなかった。
しかし、藍の向かいの牢に入っている典は楽しげだ。
「典?何か策があるのか?」
危機的状況のはずなのだが、全然焦っていない、むしろ面白そうな表情を浮かべる典に強が眉を潜める。
「私と藍は警備隊長を襲い、脱走。そして帝の救出に向かうっていうのはどう?」
「帝は生きてるのか?」
「多分ね。空は帝を殺せない。だからどこかに幽閉されているはずだ」
「でもどこにいるのかわかるのか?」
「凜に聞く」
「凜?ああ、あの草と一緒に拘束されている呪術師か」
「そうだ。私と藍は君を襲った後、凛と草を連れ、宮を出る。そして帝を探す」
「俺を襲うって……」
親友の言葉に警備隊長は苦笑する。
「だって、そうしないと君の地位があぶないだろう?君には宮でやってもらうことがあるから、拘束されたら困るんだ」
「そうだな」
「そ、そういうこと」
典はにっこりと笑うと手に気を込める。
「待て、ちょっと心の準備と言うものが…!」
そんな強の言葉は騒音によってかき消される。
ドオオオン!
音がして鉄格子が壊れ、警備隊長の体が吹き飛ぶ。
「強様?!」
その体は向かいの藍の牢の鉄格子を壊し、牢の壁に叩きつけられる。
「何事だ?!」
音を聞きつけ、牢屋の番人が降りて来る。
「典様…やりすぎです」
壁の近くで倒れこむ強が息をしていることを確認し、藍はほっとしながら師を睨む。
「そう?でもこれくらいやらないと信じてくれないだろう?」
しかし美しき宮の呪術司は優雅に笑うだけだった。
(性格悪すぎ。っていうか、もし強様が死んだらどうする気なんだろう。この人……)
「さあ、行くよ。藍」
典がぐしゃりと曲がった鉄格子を越え、牢屋から出る。
兵士たちが集まり始めていた。
「皆さん、大人しく逃げないと怪我しますよ!」
無駄だとわかっているが藍は兵士に向かってそう叫ぶ。
空によって、宮が変わろうとしていた。
(無駄な犠牲は出したくない)
藍はそう思いながらも、手の平に気を込める。
「藍、手加減するんだよ」
「わかってます」
呪術司と弟子は気を高めると兵士に向かって飛んだ。
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