第6話 最近の詩
風船
堅く握った拳を
ひらくと
風船は飛んでいった
が
それを見ていた人は
確かにいたのだ
人々は口々に言った
「あれは鳥だ」
「あれは飛行機だ」
「あれはビニール袋だ」
「いや、あれは岩だ」
私は
手を離すまで
風船だった
それを
見送る
それは
もう見えなくなった
が風船のペルソナ
を一遍の詩と
名付けた
りぼんを糸にして
意図してほどいた
りぼんを糸にして
しまう程愛おしい
夕まぐれの駅前の
ようなさみしさも
悲しみも厭わない
恋の糸にしたいと
してしまいたいと
しまいたいとまだ
言い切れない
生きれない
息れない
切れな
いき
れ
い
まだ夜を知らない
薄桃色の朝の光が伝う涙に差し込んだ。
また泣いていた。
寝ている間に泣いているらしい。
涙の正体は悲しみか喜びか。
はたまた恐怖か。
きっと、どれでもない。
この涙は夜空に輝く星の光。
寝ている間に夜を瞳に閉じ込めたんだ。
朝が来る度に夜を偲ぶ。
夢の中はいつも夜。
星が優しく辺りを照らしてる。
月がぶつぶつ喋ってる。
「夜は呼吸する巨大な移動都市。
オイラは夜の操縦士。
さあさあ、星たちよ。
位置につけ!
宵闇を連れて気ままにお散歩さ」
私は星のひとつになって
みんなで行進。
いざ行かん!
だけど、いつも私だけ置いてけぼり。
薄桃色の朝の光が伝う涙に差し込んだ。
薄桃色の朝の光が伝う涙に差し込んだ。
薄桃色の朝の光が伝う涙に差し込んだ。
何度も何度も。
私も連れってよ。
朝の透明な月に手を伸ばして
虚空を掴む。
昨夜の月の声を思い出す。
「さあさあ、みんなついてこい!
夜はこれからだ!」
星の光を宿した涙が頬を伝う。
私はまだ夜を知らない。
覆い隠したのは
被害額は日本円にしていくら?
私の体を乱暴に貫くように
血と汗と涙の結晶が
降り注いだ
賠償は誰がしてくるの?
私を包み込むように
虚無と不安がきつく体に結びついた
先のほつれた結び目が気になる
刑事事件として扱うの?
隠した無数の傷口を暴く
名探偵なんていない
証言1
血と汗と涙の結晶が
降り注いぐ直前
私は静寂の中で
穏やかな風を束ねていた
証言2
虚無と不安を身に纏うのは
解き方を知らないから
ほつれた結び目を弄ぶしかできない
証言3
夥しい数の傷口が刻まれた体
私を好きになれるまで
きつく結びついた虚無と不安は
解けない
血と汗と涙の結晶に打たれた私は
虚無と不安を身に纏い
無数の傷口を覆い隠した
無数の傷口が覆い隠したのは
それはそれは
綺麗に磨かれた心の臓
綺麗な心の臓が
汚れてしまう前に
傷を癒すには
日本円でいくらかかる?
あの日の月は大きすぎて、
もっと近くにあると思っていたんだ。
満月の夜
泣いた夜
お月様は
裏側に行けそうなくらい
近くに見えた
満月の夜
泣いた夜
お月様は
何処へ逃げても
ついてきた
満月の夜
泣いた夜
お月様は
オレンジ色に色づいて
笑っちゃうほど大きくて
あの日の私を照らしてた
満月の夜
泣いた夜
手を伸ばしたら届きそう
届かないと知ってても
満月の夜
泣いた夜
呼んだら答えてくれそうで
聞こえないと知ってても
満月の夜
泣いた夜
あの日の私とお月様
二人仲良く
さあ、眠れ
無題
水たまりに落ちた男が
迷い込んだのは底なしの迷宮
麦わら帽子を被った水夫に拾われて
一命を取りとめる
水夫の麦わら帽子はボロボロ
網目は破れ、ほつれてる
ほつれ目に男は
語るに足らぬ無尽蔵の
カタルシスを得た
水夫は言う
この迷宮は出口が入口に繋がっている
出たければオーディションに受かることだ
男は破れた麦わら帽子のほつれ目に
視界が吸い込まれていた
迷宮突破オーディション!
派手に飾られたステージ
水中に浮かぶステージに立つ男
その他にも老若男女
面接官の声がどこからか響く
君たちが落ちた水たまりは果てして
水たまりかい?
さあ、センスのいい回答したものだけが
合格するオーディションだ
男の心は凪いでいた
ただ彼は水夫の麦わら帽子にみた
無尽蔵のカタルシスに
思いを馳せる
水たまりは果たして水たまりかい?
出口が入口に繋がった迷宮で
麦わら帽子の水夫
ぷかぷか船に揺られている
通り雨が作った水たまり
男が一人消えたあと
バシャッと水が跳ねる音
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