第4話詩

浮く


犇めく音

犇めく声

犇めく肉体

それら街の組織とは

結合できずに遊離している


どこにも足跡を残せない

誰の足音も聞こえない

杭をいくら打っても

ぐらついたままで

繋がることはない

浮動をし続けて

行く宛もない


漂うものは藁を掴む

街の浮遊物は

笑ってほしいよと

願ってしまった

犇めく音

犇めく声

犇めく肉体

顧みるものはいない



沈む


澄んだ水の底

私は沈澱物である

見上げればどこまでも続く透明

もがけどもがけど

体の自由が利かず

浮かび上がることはない

水圧に負けないだけの

浮力を身につけたく

身にまとった嘘の鎧を脱ぎ捨てる

だけど

美しくなりたい

この気持ちだけは

捨てることができなかった

どこまでも続く透明

君が手を振る




度重なる雨降りのおかげでできた遠い記憶の瘡蓋はしょっぱくて笑えた




地平線を描く


地平線を描くには

何が必要か


地平線の

終わりがみたくて

旅にでた旅人が

いたとかいないとか


地平線を

見てみたくて

気球で飛んだ科学者が

いたとかいないとか


ぼくは地平線が

どこまで続くのか知りたくて

地面にまっすぐ伸びる

直線を描いてみた


何年経っただろうか

ぼくはまだ

ぼくの地平線を

見たことがない



封鎖


複数箇所

封鎖してあります

どうでしょう?

解放してみますよ?

聞こえませんか?


「何かにつけて、私が悪かったって言う割にあなたって人は自分のせいにして逃げてばかりね。ちっとも成長しない」

「そんなにかまってほしいなら、素直にかまってって言えばいいのに」

「自分の言いたいこと言った途端に居なくなるってどんだけ私を便利に使えばいいわけ?」

聞けたものではないですね

みんな同時に話すから耳が痛いや


このように声が喧しく聞こまえすので

封鎖しています

ですが、定期的に開けてあげないと

身が持たんのですよ

というのも、先程の声声が反響して

心の臓を破らんとしますものですから

時折、解放してやるのです


ええ、そうです

私も随分歳をとりました

老け込んだものです

ええ、ええ

そうなんですよ

封鎖する時が来たんです

私も口煩くなる前に

そっと扉を締めましょう


いやいや、新人だからって

何も心配はいりません

開け閉めするだけですよ

なに、簡単なことさ

え?

私が?うるさいって?

ご冗談を

だって、わた…



守れなかった約束


守れなかった約束の数だけちぎって投げた花びらが風にひらひら舞いあげられて春が来た



溺れる


零れる涙に溺れる夜の空は星が見えない



さらさらと春かたまけて呼びあえど

泣きたい夜がたまにある




つぎはぎだらけの青い空


空の青が無くなって

毎日雨ばかり


ぼくは海の青を切り取って

縫い合わせてやろうとしたけれど

海をすくうと足早に

青はどこかへ消えてった


海の青が逃げるなら

ぼくが海を作ってやろう


ぼくはハサミをもってきて

雲をジョキジョキ切り裂いた

雲の隙間に涙を溜めて

縫いつけたなら

ほら完成


つぎはぎだらけの青い空

ぼくの瞳はからからで

何も見えなくなったけど

空の青さが熱になり

死んだ瞳を照らしてた



待ち合わせ(心に関する短い話)


心ここに在らず

名乗るなもない

生き物いっぴき

立ち尽くしては

泣きはらすのみ


待ち人を知らぬ命

何の為にあらんや




宿生木 克服


幼い私は闇を怖れ

開いた扉を愛すしかなかった

瞬きの瞬間に世界は変わり果てる

眠ることは許されない


夜が優してしてくれたから

闇は乱暴じゃないと思えた

おやすみなさいを

言えるようになった

瞬きをしても

世界はいつも変わらずにいてくれる

それだけの事が嬉しかったんだ




ぼくたちの革命前夜


「もう、一人で大丈夫だよね?」と言って出ていった君はどこまでも続く空洞に見えた。


酷く蒸し暑い日。

腐った植木に水をやる。

ひとしきり胸に空いた空洞を咀嚼する。

私は一人でも大丈夫

私は一人でも大丈夫

耳元で幾重にも声が重なる。

私は一人でも大丈夫


君がいなくなってから

私は喪服に身を包み

どこかの誰かの死を悼んだ。

私は一人でも大丈夫と

笑って応えられるようになるまで

誰かの死に心を傷めなくてならない。


今日も日が沈む。

君がいない部屋にも夜がくる。

私は一人でも大丈夫

そんなことなんて少しもなかった。

今どこかの誰かが死んだ気がする。

私は胸の空洞を一思いに食いちぎる。

ねえ、もう一人で大丈夫だなんて言わないで



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