第892話 三国国割

 史実において、豊臣秀吉は大陸に関してある計画を考えていた。

 ———『三国国割さんごくくにわり』。

 これは、


・日本

・中国

・朝鮮半島


 を統一国家にするものであった。

 内容としては、北京に進軍後、


①天皇皇帝化計画

 後陽成天皇(1571~1617 107代在: 1586~1611)を明の皇帝として北京に迎える(*1)


②天皇への人事介入

良仁かたひと親王(後陽成天皇の第一皇子 1588~1648)

 or

 智仁としひと親王(1579~1629)

 を天皇にする(*1)


③自身の海外移住計画

・寧波に秀吉が住む(*2)


④進軍計画

天竺てんじく(現・インド)まで進軍し、征服する(*2)


 というものだ。

 荒唐無稽こうとうむけいな話だが、日本軍は朝鮮半島において、釜山プサン上陸後、僅か20日で首都を陥落させた(*2)為、秀吉はこれを根拠に自信を持ったのだろう。

 その後、


・明の大軍の到着

・朝鮮兵の立ち直り

・義兵民の蜂起


 など(*2)によって、文禄ぶんろくの役は失敗に終わった。

 現代だと政治家が皇室を政治利用するするようなものだが、それほど当時の朝廷の力は弱く、逆に豊臣政権(1585/1590~1603)の力が強大であったことが伺えるだろう。

 秀吉がこれほど暴走したのは、諸説あるが、やはり、


・年齢

・病気


 の可能性は大きいだろう。

 文禄の役(1592~1593)時点で秀吉は50代中盤。

 現代だとまだまだ活躍出来る年齢だろうが、『人間50年』の当時からすると、もう隠居してもおかしくはない年頃とも言える。

 更に50代半ばの時点で既に、老衰の為か無意識の内に失禁したこともある(*3)というのだから、既に戦争開始時点で既に限界を迎えていた可能性は否定出来ない。

 その上、


痢病りびょう(赤痢・疫痢の類)(*4)

脚気かっけ(*5)

腎虚じんきょ(*6)

感冒かんぼう(藤堂高虎同様、桔梗湯ききょうとうを処方(*7))


 などが死因に挙げられている。

 このどれか、若しくは複合型なのか、はたまた違うのが死因なのは今となっては分からない。

 だが、後世の診断で様々な病気の可能性が指摘されていることも考えられると、身体的にもやはり限界を迎えていたのだろう。

 

 万和7(1582)年4月1日。

 後世では暴走し、晩節を汚すことになった秀吉が、京都新城を訪れていた。

「若殿、久しぶりです」

「久しぶりです」

 大河はにこやかに応じるが、その傍には姫路殿が。

 力関係を周囲に見せつける為、敢えて秀吉の前妻をはべらせているのだ。

「「「……」」」

 秀吉の配下は明らかに不快な表情だが、力関係は否定出来ないし、主君も作り笑顔で対応しているのでここはスルーだ。

「実は若殿にご提案が御座いまして」

 秀吉が顎で示すと、家臣が中国大陸の地図を持ってきては広げた。

 中国大陸は現状、正統な政府が存在しない為、真っ白だ。

「……提案とは?」

「大陸への介入です。大陸が平和にならなければ貿易が安全には出来ません。ですので我が国が平和の使者として大陸に―――」

「却下です」

「何故ですか?」

 食い入る秀吉。

 しかし、大河はにべもない。

「過去に大陸では戦国時代がありました。その時、我が国には何の問題もありませんでした。現在は貿易がありますが、布哇ハワイ王国や暹羅シャム(現・タイ)などに重点を置き、国民生活も自給自足のお陰で何も問題ありません」

「う……」

「我が国が大陸に関わる正当な理由は見当たらないかと」

「……」

 大河のど正論に秀吉は押し黙るのであった。


[参考文献・出典]

*1: 豊臣秀吉を学ぼう!生まれや死因・ゆかりの城・子孫・年表など HP

*2:日本大百科全書(ニッポニカ)

*3:『駒井日記』

*4:『日本西教史』

*5: 若林利光『寿命戦争 - 武将列伝』かりばね書房 2009年

*6:平凡社『大百科事典』

*7:曲直瀬玄朔『医学天正記』

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