第885話 噬指棄薪(ぜいしきしん)

 花見の夜。

 大河は橋姫、璃子と共に橋姫神社(現・京都府宇治市)に参拝に来ていた。

 近くの平等院鳳凰堂は、観光客と参拝者で沢山だ。

「おかんの神社、ここなんだ?」

「凄いでしょ」

「うん。おとん、わてにも神社造ってぇな?」

「橋と一緒じゃ駄目なの?」

 参拝後の家族は、近くの出店でみせ綿菓子わたがしを買う。

「ほら、璃子」

「子供扱いしないでよ」

「要らない?」

「そうは言ってないで」

 大河から綿菓子を奪いとり、頬張る。

「ほら、おとん、おかんとくっつき」

「もうあおらないの」

 璃子に手刀を叩きこむ橋姫だが、大河に手を握られると、微笑む。

「橋♡」

「貴方♡」

 愛娘そっちのけでイチャイチャしだす。

 熱い接吻を何度も交わす。

 宇治にも大河の愛妻家ぶりは轟いている為、皆、見て見ぬふりだ。

 若夫婦に至っては、娘を隠す。

 大河に見つかると、奪われるのでは? と危惧した結果だろう。

 それくらい、大河の女性好きは宇治でも有名になっていた。

「璃子もあんな感じだし、第二子も検討する?」

「いや、まだ早いんじゃない? 璃子も臍曲げるかもしれんし」

「おとん、ほんま娘思いやねぇ」

 璃子は笑顔で大河と手を繋ぐ。

 璃子とて、まだ父親を独占したい気持ちもある。

 第二子が生まれたら、それも難しくなるのは必至だ。

「あら? 大人でも父親が大好きなのね?」

「おかんと一緒よ」

 大河の手を引っ張り、璃子は実母に物申す。

「言うても、おとんのことは、おかん以上に大好きやからね」

 その妖艶な笑顔は、橋姫似だったことは言うまでもない。


 京都新城までの帰り道。

 大河は車内で橋姫と愛し合った。

 半刻(現・1時間)、獣のように貪った2人は、座り直す。

「本当、獣だねぇ」

 全てを見ていた璃子は、苦笑いだ。

 大河は橋姫を抱擁しつつ、そのうなじに口づけ。

「あ♡」

「だって、橋が可愛いからね」

「おかんも少しは節度を保ったら?」

「そうだけど……拒否出来ると思う?」

「……まぁ」

 一度火が点いた大河は、非常に面倒臭い。

 拒否したらしたで、侍女としてついてきている鶫や甲斐姫、珠、井伊直虎を抱くだろう。

 それはそれでいいのだが、妻である以上、目の前で夫が他の女性を抱くのは耐えられない為、橋姫は拒否出来なかったのだ。

 ただ、今回の橋姫は、満更まんざらでもない様子である。

 何度も交わった癖に、今尚いまなお何度も接吻を行っているのを見たら明らかだ。

「璃子、いいこと教えてあげる」

「なんや?」

「この馬鹿は膃肭臍オットセイだけど、妻を幸せにしてくれるの」

「うん。見てたら分かるよ」

 家事や育児に積極的で、高収入。

 子供にも優しい。

 女癖が悪い所以外は、完璧な夫だろう。

「璃子もこういう男と結婚しなさい」

「そうだけど、女癖の悪いのはねぇ」

「この世に完璧なのは居ないの。聖職者だって不倫するし、罪を犯す時もある。だったら、最初から悪い所分かっている方が良いじゃない?」

「まぁねぇ」

 納得(?)しつつ、璃子は大河の頭に手を置く。

「でも、おとんより完璧な男ってこの世に居るん?」

「さぁ? あと、璃子」

「うん?」

「子供は、もう寝る時間だから早く寝なさい」

「……こういう時は父親なんだ?」

 納得できないが、実年齢としては、睡眠が大事な時間帯な分、この場合は大河の方が正しい。

「じゃあ、膝借りるで」

 赤ちゃんの姿になった璃子は、大河の膝に飛び込む。

 そして、目を閉じた。

「ほんま、かわええわぁ」

「私に似て?」

「どっちもだよ」

「あは♡」

 再び接吻され、橋姫は鼻の下を伸ばすのであった。

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