第884話 瓊葩綉葉(けいはしゅうよう)

 万和7(1582)年3月20日。

 この日、大河は浅井家三姉妹+お市と前田家三姉妹+幸姫と共に河川敷に来ていた。

「にぃにぃ。お花、きれ~」

「そうだね」

 豪姫は大河の手を引っ張って桜の下へ。

 幅5m、高さ10mはあろうか。

 巨大な桜だ。

「おおっきぃ」

 与免も圧倒されるばかりだ。

「おはなみ~」

 お江も上機嫌である。

 サンドイッチを頬張り、大河を座らせる。

 そして、食事介助も忘れない。

「これ、作ったんだよ。食べて~」

 ツナマヨおにぎりを口に押し込む。

「……うん、美味しいな」

「でしょう? でしょでしょ」

 自慢げに胸を張ると、お江は頬ずり。

「これ、早朝に起きて作ったんだ」

「そりゃあ頑張ったな?」

「でしょでしょでしょ~?」

 頭を撫でられ、お江は微笑む。

「お江、嘘吐かないで。貴女、寝坊したじゃない?」

「ぐへ」

 ハリセンで、お江は思いっきりどつかれる。

 犯人は、お初だ。

「私が前日から準備して、貴女を起こしたけど、二度寝したから全部私が作ったのよ」

「そうだったのか」

「全くもう」

「お江、嘘は駄目だよ。お初、ありがとう。美味しかった」

「兄者、御免ごめん

 お江は素直に謝り、

「ええ」

 優雅にお初は微笑む。

 そして、大河の膝に座った。

義兄上あにうえ、昨日は誰と寝ましたか?」

「昨日? 昨日は可いと阿国、松だよ」

「まぁ、3人も?」

「夜這いに来たからね。返り討ちにしたよ」

「……相変わらずですね」

 膃肭臍オットセイ並の性欲の強さに呆れるほかない。

 お初の頬に吸い付くように接吻した後、彼女を抱き締める。

「痛いですよ?」

「まぁまぁ」

 再度、接吻した後、更に抱擁。

 ツナマヨおにぎりのお陰で大河は、イチャイチャモードになったのだが、夫婦愛は必ずしも相思相愛とは限らない。

「変態。死ね」

「ぐえ」

 張り手を食らい、大河は悶絶。

「こらこら。家庭内暴力はしないの」

 お市が大河を抱き締めて、癒す。

「この人の変態は不治の病なの。もう少し優しくしてあげて」

「分かってるけども」

「お市~。お初がいじめるの~」

 お市に抱き着きつつ、大河はお初をチラ見。

「うう……」

 自分でいた種だが、それでも嫌なのは仕方ない。

「姉上……」

「ほら泣かないの」

 涙目で抱き着くお初を、茶々は優しく慰めるのであった。


「おちゅし、おちゅし♡」

 与免は、大河が握った手巻き寿司を堪能する。

 大河用には摩阿姫まあひめが握り中だ。

「真田様、どうぞ」

「ありがとう」

 大河としては、摩阿姫が与免のを握って欲しいのだが。

 それでも苦ではない為、この状態でも良い。

「あー、摩阿?」

「はい?」

「済まんけど、もうちょい醤油しょうゆとワサビ、多めで」

「分かりました」

 自分でしたい所だが、両手が塞がっている以上、頼む他無い。

「真田様は魚で苦手なのとか御座います?」

「食べれるけど、イクラが苦手かな」

「意外ですね」

「そうか」

「特権階級の方ですので、イクラはお好きなのかと」

「全然」

 大河は笑って、摩阿姫の頭を撫でる。

「イクラも納豆も酒も苦手だよ」

「……偏食へんしょくなんですか?」

「多分ね」

なおそうとは?」

「その気はないね。直したらその成功体験を皆に押し付けるかもしれないから」

「……」

 それはそれで問題だ。

 摩阿姫は、頷く。

「その方がありがたいです」

「素直でよろしい」

 大河に褒められ、摩阿姫の口元は目に見えてゆるむのであった。


 花見の後、摩阿姫たちは眠くなったのか、ブルーシートの上でお昼寝タイムだ。

 その間、茶々たちは花見を楽しむ。

 幸姫は大河を抱擁する。

「……平和ですね」

「そうだな」

「……武人としては退屈ではありますが」

「まぁなぁ」

 理解を示しつつも、大河は答える。

「でも、平和じゃなきゃ、こんな暮らし出来ないし」

「ですね」

 幸姫の腹部に触れる。

「変態ですね」

「そうだね」

 肯定した大河は、幸姫と濃密な接吻し、木の陰に移動するのであった。

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