第883話 莫逆之友(ばくぎゃくのとも)

 万和7(1582)年3月中旬。

 ラナ、ナチュラの帰りを待ち侘びつつ、大河は日常を送る。

「貴方」

「ほい?」

 本を閉じると、心愛を抱っこしたお市が入って来た。

「うー、ちち」

「うん?」

「ちち、ちち♡」

 抱っこを求め、大河は愛娘の願いを聞き入れる。

「うは♡」

「心愛の調子はどう?」

「元気よ。ただ、時々、泣いているけど」

「どうして?」

「貴方と一緒に居たいからよ。そろそろ子供と添い寝する時間も増やしたら?」

「そうだね」

 妻妾優先だったが、流石に子供との添い寝も増やした方が良いだろう。

「お昼寝する?」

「ん」

 心愛が頷いた。

 と、同時に背後で甲斐姫が布団を敷き始める。

「3枚でよろしいですか?」

「いいや1枚で。あと、可い」

「はい?」

「休憩で一緒に寝よ」

「分かりました」

 全然眠くは無いが、大河とイチャイチャ出来るのは嬉しい。

 甲斐姫は布団を1枚敷くと、枕を人数分用意した。


 4人寝る為、大河と心愛が真ん中、左右を甲斐姫とお市が陣取る。

 大河は心愛に腕枕した。

 これでは用意した枕の意味が無いが、心愛はそれでも大満足だ。

「心愛、仲良しの女官居る?」

「珠とつむぎ~」

「よく遊んでくれる?」

「うん~。おままごと~」

 心愛は笑顔で言うと、大河にしがみつく。

 それから目を閉じた。

「眠たい?」

「うん……」

「お休み」

 大河に頭を撫でられ、心愛は目を閉じた。

 心愛を起こさないように3人は手話で会話する。

『可い、心愛はおままごとで遊んでいるのか?』

『はい。あとは絵本をよくお読みになられます』

『いい子だ』

『この子、貴方が主人公の絵本を好んでいるのよ。ほら、めごが書いてる―――』

『あー……』

 愛姫は子供ながらベストセラー作家だ。

 御伽草子おとぎぞうしを専門分野にし、


・『吾輩は近衛大将である』

・『山城里見八猫伝』

・『山城大河伝』

 

 などの著作を出し、安土桃山時代一の女性作家として名を馳せている。

『よくそのとしで読めるな?』

『私が分からりやすいように改変して読んでいるのよ』

『読書家になるかな?』

『なりますよ。きっと』

 甲斐姫は断言すると、大河の背中に顔を埋めるのであった。


 心愛と仲良しな珠とつむぎは2人同士でも仲が良い。

 歳が近いのも理由の一つだろう。

 紬は洗濯物を干しつつ言う。

「最近、心愛様、おねしょが少なくなりましたね」

「一歩ずつ大人になっているのよ。きっと」

「成長は嬉しいですが、寂しい気持ちもありますね」

「まぁね」

 洗濯物を一足先に干し終えた珠は、紬のかんざしに気付く。

「あら、それは?」

「ああ、これはシー食わせるクヮースンです」

 シー食わせるクヮースンは沖縄方言(*1)だ。

 和名だと『平実檸檬ヒラミレモン』というが、沖縄方言に近い『シークヮーサー』の方が、多くの人々には聴き馴染みがあるだろう。

 その花言葉は『優雅』(*2)。

 珠は感心する。

「綺麗ね?」

「琉球ではよく栽培されているんですよ」

 シークワーサーはあまり知られていないかもしれないが、沖縄ででよく栽培されている(*3)。

 それに多く含まれるフラボノイドの一種ノビレチンには、


・がん抑制効果(*4)

・抗認知症効果(*5)

・抗肥満効果(*6)

 

 などがあるとする研究報告がある。

 その為、日ノ本の医学界でも注目のミカン属の一つだ。

「私も琉球のかんざし欲しいな」

「あんてなしょっぷで売っている為、そこがお勧めですよ」

「ありがとう。後で一緒に来て。お勧めなの知りたいから」

「分かりました」

 先輩後輩は親友の関係性を構築していた。


[参考文献・出典]

*1:沖縄言語研究センター

*2:GKZ植物辞典

*3:猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版 2012年

*4:^ Minagawa A, Otani Y, Kubota T, Wada N, Furukawa T, Kumai K, Kameyama K, Okada Y, Fujii M, Yano M, Sato T, Ito A, Kitajima M (2001). “The citrus flavonoid, nobiletin, inhibits peritoneal dissemination of human gastric carcinoma in SCID mice”. Jpn J Cancer Res 92 (12):

*5:東北大学超臨界溶媒工学研究センター

*6: 琉球新報 2015年5月22日

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