第871話 雲心月性(うんしんげつせい)

 ラナとナチュラを乗せた戦艦が大坂港から出ていく。

「……」

 波止場はとばからそれを見送った大河は、車に乗り込む。

 車内にはお市が待っていた。

「別れは済んだ?」

今生こんじょうの別れじゃないよ」

「知ってる」

 お市が顎で示すと、前の座席から三姉妹が顔を出す。

「真田様♡」

義兄上あにうえ♡」

兄者あにじゃ♡」

「皆、居たのか?」

「(`・∀・´)エッヘン!!」

 お江は自慢げに胸を張ると、身を乗り出し、大河の膝の上に座る。

「行きは鶫に頼んで隠れていたの」

「鶫」

「申し訳ございません。無理に頼まれたので……」

 運転手の鶫はバックミラー越しに謝る。

「全く……お初もおいで」

「私は~?」

「茶々も」

「何そのみたいな扱い?」

「そうは言ってないよ」

 お江、お初、茶々と、来た順に接吻していく。

「兄者、布哇ハワイの復興は時間かかる?」

「多分ね。報告書通りなら数年はかかりそうだよ」

「じゃあ、募金しなきゃね。兄者はした?」

「したよ」

「どのくらい?」

「7500万両(約3億円)」※1両=4万円計算

「兄者、太っ腹!」

 布哇王国は日ノ本と比べて、経済がそれほど発展していない為、向こうでの3億円は日ノ本と同価値ではない。

 なので、3億円でも沢山の人々が救われ、布哇王国の復活に役立つだろう。

「私もそれくらいした方がよろしいでしょうか?」

「茶々。俺を基準にしちゃ駄目だよ。あくまでも善意だから。張り合うのは違う」

「そうですね。身の丈に合った金額を寄付します」

 茶々も本気を出せばそれくらいは捻出ねんしゅつ出来る。

 しかし、大河が既に3億を出した以上、向こうでは有難迷惑ありがためいわくの可能性も否めない。

 また、お金はいさかいのもとにもなり得る。

 寄付する際は、感情的になるより、そういう所も考えた方が良いかもしれない。

 大河は運転中の忠臣に指示を出す。

「鶫」

「はい」

「城に帰った後で良いから、布告ふこくを」

「なんと?」

「『今年中の布哇ハワイ王国への訪問は支援のみとする。

  観光等で訪問した場合は死罪とする』」

「分かりました」

 お初が尋ねた。

「何故、観光は死罪に?」

「島民が復興に集中する中、横で遊んでたら顰蹙ひんしゅく買うだろ?」

「あ……」

 実際、これは令和5(2023)年の山火事で問題視されている。


『【韓国の女優、山火事の被害広がる中ハワイでの旅行写真を投稿…批判殺到で削除】』(*1)

『【ハリウッドスター 山火事被害マウイ島でのバカンスに非難殺到 夫とのキス写真流出「最低」「無知」の声】』(*2)


 本人たちには悪意は無かったのかもしれないが、ハワイで被害が広がる中、その行動は被災者の感情を逆撫さかなでしかねない為、良くは無かっただろう。

 大河が危険視したのは今夏、公家が観光で来て、被災者の居るすぐ真横の海で泳ぐなどする行為だ。

 公家に悪気は無くても、生活や再建に必死な島民にしたら、「何遊んでるの?」と怒らせる可能性が高い。

 折角、親日国になっている以上、無駄に敵を作るのは良くはない。

 布哇王国は日ノ本が掲げる海洋国家建設の為の重要な拠点の一つである。

 島民を怒らせるのは、外交上、短所デメリットなのであった。

 全てを見通す大河に、お市はメロメロだ。

「貴方は天才ね。まるで諸葛孔明みたい」

「彼ほどじゃないよ」

「じゃあ山本勘助?」

「どっちも伝説。俺は平凡」

「またまた~」

 お市は大河の肘を指でつつく。

 大河は伝説の2人に敬意を払っているのだが、お市には2人以上に見えるようだ。

「外交も戦略も戦闘も全部、完璧じゃない?」

「全然」

謙遜けんそんは時に嫌味いやみになるよ?」

「だって、本当に2人の方が凄いと思うから」

 お市の魔の手から逃れる為に大河は、お江を抱っこし、盾にする。

「もう母上、くすぐったいよ」

「お江、最近、真田様と何回寝た?」

「う~ん、5回かな」

「敵」

「痛いって」

 実母に指を噛まれ、お江は涙目になる。

 その間、大河は茶々とお初の間に座り、彼女たちの体をベタベタと触っていた。

「帰ったらまた一緒に寝ようね?」

「「変態」」

 姉妹は両側からグーパンチをお見舞いするのであった。


[参考文献・出典]

*1:Kstyle 2023年8月16日

*2:よろず~ 2023年8月16日

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る