第870話 薪尽火滅(しんじんかめつ)

 布哇ハワイ王国の火事の原因は、山火事であった。

 日ノ本とて、それは文字通り、対岸の火事ではない。

 歴史的に日本も山火事を経験しているからだ。


 昭和46(1971)年4月27日、呉市山林火災

 犠牲者 :18人(戦後最悪)

 類焼面積:340 ha

 原因  :焚火による失火


 令和3(2021)年2月21日、令和3年足利市山林火災

 犠牲者 :0人

 類焼面積:167 ha(*1)

 原因  :たばこ(*1)

 ……


 1haは1万㎢なので、呉市のは340万㎢、足利市のは167万㎢焼いたことになる。

 オアフ島の殆どを焼き尽くし、死者1万人以上を出した山火事の避難者は、ハワイ島に逃げのびる。

「水、水……」

 限りある水を追い求め、

「バカ野郎! それは俺のだ!」

「譲ってちょうだい! 子供が居るのよ!」

 食料品の奪い合いが各地で起きる。

 布哇ハワイ王国軍が出動するも、生きるか死ぬかの人々には、自制が効かない。

 相手が軍人だろうが、飲食物を持っていたら飛び掛かる。

「うわ! なんだこいつ!」

「寄越せー! 寄越せー!」

 普段、温厚な現地人でも極限の空腹になると、文字通り目の色が代わり、相手が誰であろうがお構いなく窃盗や強盗が相次ぐ。

 力なき老人は殺され、泣き叫ぶ子供は暴徒に踏みつけられ、女性は暴行に遭う。

 常夏の島は、地獄と化していく。

 そんな島に、旭日旗と日章旗を掲げた船舶が到着した。

「散れ! 散れ! 馬鹿どもが!」

 着艦ちゃっかんと同時に船から武装した軍人たちが降りて来た。

 彼らは暴徒と目が合うと、M16を水平射撃。

「ぐわ!」

「うご!」

「ぎゃあ!」

 連射を浴び、暴徒は次々とたおれていく。

 指揮官は加藤清正。

 副官は福島正則。


・脇坂安治

・片桐且元

平野長泰ひらのながやす

糟屋武則かすやたけのり

加藤嘉明かとうよしあき


 は、現場だ。

「暴行犯、窃盗犯、強盗犯、総じて殺すぞ?」

「「「「えいえいおー」」」」

 安治の掛け声の下、4人は雄たけびを上げ、銃剣突撃。

「「「「「万歳!」」」」」

 暴徒の集団は大パニックだ。

「うわ! なんだ?」

「やべーぞ!」

「逃げろ!」

 大河の早い決断により、布哇王国の治安は劇的に改善するのであった。


 日ノ本からは船舶と空輸で食糧が運ばれていく。

 家族作戦オペレーション・オハラと名付けられたその作戦は、3・11のトモダチ作戦オペレーション・トモダチを彷彿とさせるものであった。

「これは?」

「和菓子。子供達に」

「ありがとうございます!」

 母親は子供に配給された和菓子を配っていく。

 妊婦や若母には、赤子の為に牛乳を。

 その他、肉や魚、白米、野菜もだ。

 更に後続の船からは大工が材木を肩に担いで下りてくる。

 木の種類は杉だ。

 この表面を少し焼いて、敢えて炭化させ、焼杉やきすぎにすることで燃えにくくする手法である(*1)。

 杉は花粉の問題があるが、焼杉にすれば火事に強い。

 戦後、焦土化した日本でも木不足になり、海外から杉を輸入したことで杉が一般に普及した。

 その分、花粉症が国民病の一つになってしまったが。

 兎にも角にも、今の布哇王国は、終戦直後の日本と同じ状況であった。

 本当ならば、現地の自然に合った木を植えた方が良いのだが、生憎あいにく山火事直後なので時間がない。

 こうして布哇王国に杉が植樹されていくのであった。


 ラナの親族はハワイ島に避難し、無事だったが、それでも逃げ切れなかった者も居る。

「……一時帰国していい?」

「いいよ」

 大河は涙ぐむラナを抱き締めたまま、答えた。

「ナチュラ。護衛についていってくれ」

「はい」

 治安が改善したとはいえ、まだまだ行かせたくないのが本音だ。

 しかし、布哇人はを欲している。

 3・11の時、当時の天皇陛下が被災者と言葉を交わしたように。

「「「……」」」

 朝顔とヨハンナ、松姫もそれぞれ、神社、教会、寺院で布哇王国の為に祈っている。

「与祢」

「はい」

「寄付金はいくらが妥当だと思う?」

「若殿の思うがままによろしいかと」

「……ありがとう」

 感謝し、その頭を撫でると、与祢は抱き着いて膝に頬ずり。

「……疲れた?」

「はい。現地からの凄惨な報告を確認して……疲れました」

「休んでていいよ。あと、伊万も休み」

「ほえ?」

 伊万も休みを貰い、振り返る。

「大人でも読みたくない報告書だ。子供が見るもんじゃない」

「子供扱い―――」

「「う」」

 強い口調で言われ、2人は固まった。

「な? 休むのも仕事だ」

 笑顔で強制休暇を言い、大河は本件に関する侍女の労働を厳しく制限するのであった。


[参考文献・出典]

*1:天然住宅の読みもの HP 2019年11月1日

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