第872話 京都拉麵

 布哇ハワイ王国の件は外務省と国防省に任せて、大河は政務に戻る。

 今年は国を廃止し、新たに藩を導入する予定の為、当然、相当な反発が予想される。

(……本当は47都道府県の方が良いんだけどねぇ)

 執務室で悩んでいると、

「……?」

 足に違和感を覚え、見下ろす。

 豪姫がツンツンと指でつついていた。

「どった?」

「あしょぼ~」

 キラキラした目で将棋の駒を見せる。

「豪———」

「幸、いいよ。別に」

 幸姫が声を荒げる直前、大河は豪姫を抱っこする。

「将棋にハマってる?」

「うん。ぐんじんしょーぎ!」

「あれは俺の専門外だ。ごめんね」

 軍人将棋は、一般的な将棋とは別のもので、大河はあまりルールを知らない。

 馴染なじみが無い以上、一緒に遊ぶのは困難だ。

「じゃあ、こっち」

 豪姫が見せたのは欲しいものリストであった。

「これは?」

「おかいもの~」

「……分かったよ」

 仕事ばかりだと気分が滅入る為、こういう気分転換も良いだろう。

「幸、付き合ってくれる」

「はい。若殿」

 幸姫も内勤より外に出たかった為、快諾した。

「豪。摩阿と与免も呼んでき」

「え~。にぃにぃとがいい」

「平等じゃないと駄目だよ」

 1人を優遇すれば、他が不満を持つ。

 これが人間社会だ。

 大人の世界でも不平不満を買うのに、子供の世界だともっと複雑化するだろう。

 更に言えば、将来にリスクを背負う可能性も否めない。

「2人も一緒じゃないと行かないよ」

「わかったぁ」

 不満げだが、行きたい方が勝る為、豪姫は飛び降りて2人を呼びに行く。

「ごめんね。愚妹ぐまいが」

「いいや。賢妹けんまいだよ」

 豪姫が居ない間、大河は幸姫と接吻し、待つのであった。


「「あいびき! あいびき!」」

 豪姫と与免は手を繋いで連呼。

 この時点で既に逢引あいびき感は無い。

 それでも楽しさ優先だ。

「申し訳ございません。うるさくて」

「全然。にぎやかは好きよ」

 摩阿姫の頭を撫でつつ、大河は幸姫とも手を繋いでいた。

「何故、姉上と手を?」

「そりゃあ夫婦だからね」

「では、私も」

 空いていた手を摩阿姫は、握る。

 後ろで、姉妹が「あー!」と叫ぶがここは姉としての余裕だ。

「この席は譲らないわ」

「あねうえのけちんぼ」

「けち、けち!」

 2人は抗議した後、大河の背中に飛びつき、そのまま肩に居座る。

 豪姫は右肩、与免は左肩に。

「落ちるなよ?」

「「うん!」」

 2人は元気よく返事すると、大河の首にしがみつく。

 変な恰好かっこうだが、現状、これが1番平和的だ。

「んで、豪はどこの店に行きたいんだ?」

「まずは、はらごしらえ。昼食行こ~」

「何が食べたい?」

「らーめん!」

 丁度目の前にラーメン屋が鎮座ちんざしている。

 目の前にあったからなのか、事前に考えていたのか、今思いついたのか。

 定かではないが、豪姫の場合、前者の可能性の方が高そうだ。

「京都拉麺らーめんですね」

「摩阿はどれが好きとかある?」

 京都拉麺は、大別すると、以下の3系統になる(*1)とされる。


・あっさり系   :濃厚色醤油

・背脂系     :鶏ガラ主体

・こってり系   :鶏白湯ラーメン


 あっさり系は昭和13(1938)年、京都駅付近の屋台で(*2)。

 背脂系は戦後、銀閣寺地域の店で(*3)。

 こってり系は、白湯パイタンそのものが中国発祥だ。

 こってり系以外は16世紀の日本に存在しない為、史実とは確実に矛盾していると言えるだろう。

「どれも興味ありますね」

「じゃあ、小盛こもりで一つずつ注文するかね」

「ですね」

 初めての店な分、中盛ちゅうもり大盛おおもりが分からない以上、「小盛の方が良い」という理由もある。

「「らーめん♡ らーめん♡」」

 豪姫、与免の大合唱は、メインストリートに響き渡るのであった。

 

[参考文献・出典]

*1:田中貴『ラーメン狂走曲』ワン・パブリッシング 2021年

*2:新横浜ラーメン博物館

*3:朝日新聞 2021年10月17日

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