第755話 璃子ノ微笑

 璃子の天才ぶりは、すぐに城内の話題となり、その噂を聞きつけた朝顔、ヨハンナ、ラナが興味を持った。

 そして、拝謁がかなう。

 一応、璃子と彼女たちは、義理の母娘になる訳だが、それでも一応、身分差がある為、もう少し成長後に交流を始めるのが予定だったのだが。

 生後数日になるとは、誰が予想出来ただろうか。

 赤ちゃんながら、地味な着物の璃子は、3人に向かって頭を下げた。

三皇さんこうが直々にお呼びして頂き恐悦至極きょうえつしごくでございます」

 いつものこてこての関西弁は、鳴りを潜め、今回ばかりは敬語だ。

 朝顔は、驚きを隠せない。

「生後数日なのに……流石、橋の娘ね」

 ヨハンナも震えていた。

「奇跡よ……これは」

 唯一、ラナは冷静沈着だ。

「まぁ、橋の子供だからね。その力も受け継ぐでしょ?」

 意外なほどに現実的なのは、ラナが橋姫と仲が良く、日頃から魔術に接しているからだろう。

 人間、それがどれほど異常でも見慣れてさえしまえば、それが普通になってしまうことが多い。

「ご理解下さりありがとうございます」

 深々と頭を下げると、璃子は正座したまま3人に近づいた。

「「「!」」」

 まるでムーンウォークのようだ。

 無論、3人はムーンウォークを見たことが無い為、驚愕の色を隠せない。

「……それも魔術?」

「はい。ラナ様」

 首肯後、璃子は指パッチン。

 すると、隣に大河が現れた。

「うぉ?」

 突如、瞬間移動テレポーテーションされた大河だが、3人に気づくと、すぐに冷静になる。

 妻とはいえ焦った姿を見せたくない、という夫としての自尊心プライドがあるのかもしれない。

 そんな大河に璃子はしなだれかかる。

 まだ赤ちゃんだが、その所作はやはり母・橋姫に似ていた。

天道てんどうでも父上が母上を妊娠させ、その上、出産させたことが話題になっています。今後、我が家は神仏のご加護を受け、益々発展していくかと」

「「「……」」」

 朝顔たちは、首肯した。

 その後、璃子は大河を見た。

「父上にお一つお願いがあります」

「なんだ?」

「これまで以上に日ノ本の平和を維持して頂きたいのです」

「……そのつもりだが?」

「ですが、それは人間相手に限った話です」

「というと?」

「父上の性欲の強さを見込んだ魔族、特に淫魔が今後、刺客しかくを放ってくる可能性があります」

「……橋が守ってくれる筈だが?」

「そうですが、母上は、現在、出産したばかりなのでその力は弱まっています。その隙を突いた魔族が襲ってきたら幾ら母上でも太刀打ちは困難かと」

「「「……」」」

 朝顔たちは、沈黙。

 橋姫の魔力は確実に落ちている。

 時々、奇術マジックを披露してくれるのだが、妊娠以降は面会に行く度にその頻度ひんどは低下しており、披露してくれたとしても結構な確率で失敗しているのだ。

「今回、お三方にお願いしたいのは、母上の体力が復活するまでの間、私が父上の護衛の代理を担いたいのです」

「……気持ちはありがたいけれど、その……守れるの?」

 ラナの問いに璃子は、笑顔で答える。

「はい。無論、この姿では守りにくいので、変身はしますが」

「! 出来るの?」

「はい。その姿を見て、ご納得頂ければ幸いです」

 璃子が指パッチン。

 同時に彼女は光に包まれ、数秒後、変化へんげが終わる。

「「「「!」」」」

 数秒前まで赤ちゃんだった璃子は、艶やかな黒髪で着物が似合う撫肩なでがたの切れ長の色白美人になっていた。

 身長は158㎝、体重45㎏とBMIボディマス指数で言えば、適正体重よりも約10㎏も痩せている低体重に分類される(*1)。

「魔力は母上より受け継いでおりますが、武芸十八般ぶげいじゅはっぱん玄人くろうと並です」

 武芸十八般は「武芸全般」という意味がある(*2)のだが、もう一つ、武人に麩必要とされた18種類もの武芸を指す意味もある(*2)。

 その内容は、国や時代、集団などによっては違うのだが、日本では一般的には、以下を指している(*2)。

・弓術

・馬術

・槍術

・剣術

・水泳術

・抜刀術

・短刀術

・十手術

・手裏剣術

含針ふくみばり

長刀なぎなた

・砲術

捕手とって

・柔術

・棒術

鎖鎌くさりがま

もじり

しのび

 ――—

 武士の名家となった山城真田家では、CQC近接格闘と共に武芸十八般を有力視しており、七本槍などの忠臣も日々、鍛錬に励んでいる。

「御三方も私が魔力によってお守りしておりますので、ご安心下さい」

 橋姫に似た笑顔で、璃子は4人に安心感と恐怖心を与えるのであった。


[参考文献・出典]

*1:ke!san

*2:コトバンク

*3:ウィキペディア

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