第744話 四国御遍路計画

 北条高広爆殺(表向きには、瓦斯ガス爆発による事故死)後、上杉家家臣団は、一つにまとまった。

 家中一の軽率者であったが、一応は身内だ。

 不運な死を遂げたが、それを糧に家臣団の士気は高まっていく。

 ―——

『———北条高広氏事故死後、家臣団は、越後国(現・新潟県)の北条きたじょう(現・同県柏崎市)に弔問ちょうもんに出発した。

 帰京は、今月下旬になる模様』

 ―——

「んしょ♡」

「んちょ♡」

 大河が瓦版を読んでいると、お市が背後が抱き着いた。

 前側からは、心愛も。

「……何?」

 瓦版を放り、大河は心愛を抱っこする。

「ちちうえ?」

「うん、そうだよ」

「ちょいねしたい」

「添い寝?」

「うん♡」

 大河に押し相撲し、押し倒す。

 その拍子で大河は、お市を下敷きにする。

「大丈夫か?」

「大丈夫よ。愛の重さだし♡」

 お市は大河の重さを感じつつ、喜ぶ。

 流石に愛妻を下敷きにするのは忍びない為、大河は心愛を抱擁したまま横に一回転。

 3人は川の字になった。

「ちちうえ、おねむ?」

「うん。眠たいね」

 目ギンギンなのだが、心愛に合わせる。

 どこまでも子煩悩な大河にお市は、上機嫌だ。

(長政様、私たちは幸せですよ?)


「「zzz」」

 お市と心愛が寝静まった時機で大河は、起き上がる。

 ずーっと添い寝したいのは本音だが、大河とて予定がある。

 2人に毛布をかけた後、そっと部屋を出た。

 廊下では鶫、珠が待っていた。

「「(おはようございます)」」

「寝てないよ」

 大河が苦笑いで応じつつ、2人を左右の手で繋ぐ。

「今日の予定は?」

「1刻(現・2時間)後に宮内庁御用達の業者の品評会が、大会議室であります」

「その後、景勝様と昼食会を予定しています」

「今日は景勝か。楽しみだなぁ」

 微笑む大河だが、2人の反応はあまりよろしくない。

(若殿は、あの無表情な方とどうやって会話されているのでしょうか?)

(不思議です……)

 鶫、珠の2人には、景勝の評判は良くない。

 というか女官全体から低評価だ。

・無口

・無表情

 であり、更には身辺に女性を一切近づけない女性嫌い(*1)であることが理由だ。

 もっと女性嫌悪ミソジニーは誤解で単純に思春期な分、異性を意識してしまい、更には元来の性格が拍車をかけてしまっただけなのだが、一度ついた心象イメージは中々払拭出来ない。

 こういった事情から女官の間では、景勝は苦手意識の対象なのであった。

「可い、こう、阿国、松、綾は?」

「呼んできましょうか?」

「珠、頼む」

「は」

 指名された、ということは今日の相手なのだろう。

 珠が居なくなった後、大河は鶫の腰に手を添える。

「痛くない?」

「湿布のお陰でなんとか……」

「無理をしちゃ駄目だよ? 体が資本なんだから」

「はい……♡」

 おもんばかってくれることに鶫は、嬉しがる。

 愛人の関係だが、正妻の居ない場所では正妻よりも優遇してくれる為、非常に心地よい。

 大河に寄りかかり、鶫は接吻する。

「昨日は若殿との夢を見ました♡」

「どんなんだった?」

「若殿と四国を旅していました♡」

「あー。それはいいかもな」

 夢の内容の癖に意外と付き合ってくれる大河。

 それ所か、乗り気だ。

饂飩うどん食べたいな。あと、お遍路」

「お遍路ってご経験ないんですか?」

「無いねぇ。上京する時、経路次第で四国を経由しても良かったかもな」

 誾千代、楠と九州地方から北進していく際、四国には寄らず、中国地方を突っ切って、上京したのだ。

「では今夏、予定に入れますか?」

「いや、難しいだろうな。出産で忙しいし」

 8月は誾千代、早川殿、橋姫、アプトが出産予定だ。

 身重の妻たちと共に旅行するのは危険であるし、出産後、疲れた妻子を連れ回すのも忍びない。

 旅行するには、

・主治医の許可

・妻子の体調

 が絶対条件であろう。

「愛妻家ですね?」

「愛妻家だよ」

 鶫を抱き寄せて、大河は再び接吻。

 それから珠が5人を連れてくるまで、2人はイチャイチャするのであった。


[参考文献・出典]

*1:『奥羽永慶軍記』

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