第743話 一筆抹殺

 北条高広の私兵は、70人。

 一方、大河側は七本槍のみ。

 単純計算で10倍差の兵力だ。

 しかし歴戦の猛者である、

・加藤清正

・福島正則

・加藤嘉明

・平野長泰

・脇坂安治

・糟屋武則

・片桐且元

 には、そんなことは関係ない。

 化粧メイクアップかつらにより偽装カモフラージュした便意兵べんいへいとして難なく侵入する。

「なんだお前たちは?」

「私たちは、市役所の水道課です。水道管の定期確認に着ました」

「ふむ……」

 けんがとれた清正の演技に、守備兵は然程さほど気にせず、中に通す。

 こうなったらもう七本槍のペースだ。

 7人は各部屋に散り散りになった後、水道管を確認する振りをして、爆発物を設置する。

・市役所への確認

・身分証の提示

 をしないことから、守備兵の練度の低さが伺い知れるだろう。

 水道管の真横に爆発物を置いた後、7人は再び集結する。

 そして、平和裏に私邸を後にするのであった。


 数刻後、ドーン! という大きな爆発音と共に私邸が吹き飛ぶ。

 オレンジ色の光と共に煙がその周囲一帯を覆う。

 七つの爆弾が同時に炸裂したのだ。

 守備兵70人と私邸内に居た家臣は、断末魔を上げることなく、爆死する。

 当然、酒蔵に用意されていた農薬入りの葡萄酒もその熱で一気に蒸発。

 北条高広も吹き飛んだ。


 あまりにも大きな爆発だった為、爆心地には窪みクレーターが出来上がり、殆どの死体も損傷が激しく身元の特定は困難であった。

 謙信は跡地を訪れ、供花する。

 作戦自体は、大河から事前に説明を受けていた為、驚きは無い。

 しかし、葬儀の場では、アカデミー賞並の演技力が必要だ。

「家中一の粗忽者であったが、無双の戦士であったことは忘れはしない」

 人格的に問題はあったものの、武勇に秀でたことは事実の為、葬儀中はそこを強調する。

 日ノ本には、春秋戦国時代の呉の武将である伍子胥ごししょ(? ~紀元前484)が父兄の仇である楚の平王(? ~紀元前516)の死体に300回鞭を打った、所謂いわゆる『死屍に鞭打つ』文化は無い。

 謙信との間に何もいさかいが無かったことを内外に示しつつ、葬儀は進んでいく。

 この間、大河は葬儀には出席せず、京都新城に滞在していた。

 欠席したのは、理由がある。

「そうぎ、きらい」

「まぁな。長いよなぁ」

 膝の上で不機嫌な累に大河は、同意する。

 結婚式は羽目を外すことは許されるが、葬儀は笑顔の一つも許されないほど厳粛な空気だけあって、元気な子供には苦痛の時間帯だ。

 しかも、火葬も数時間かかる為、その間、待っているだけでも退屈である。

 今回は親族ではない為、累に出席の義務は無いのだが、両親共々出席すれば当然、彼女も欠席は難しい。

 なので均衡バランスを取って出席は謙信と綾御前、景勝のみ。

 大河は子守りということで京都新城に残ったのである。

態々わざわざ若殿がお残りにならなくても」

「私たちが子守りしますが?」

 与祢、伊万がおもんばかるも、大河は首を振った。

「気持ちは嬉しいけれど、君たちは豪、与免の相手だからね。これ以上は、過重労働だよ」

 現代日本では、1か月80時間の残業が過労死ラインとされている(*1)。 

 ホワイト企業・山城真田家では職員スタッフが多く、休みやすい体制が採られている為、過重労働にはなりにくいのだが、子守りは別だ。

 動き回ったり暴れ回ることが多い分、その担当の女官は短時間労働でも、フルタイム並に疲れている。

 与祢、伊万コンビの担当は、毎日元気120%の豪姫、与免の姉妹だ。

 義母・お市、指導係・松姫、長姉・幸姫が居る為、普段はそれほど暴れはしないが、監視の目が届かなくなると、たがが外れたように遊びまくる為、コンビは毎日、激務である。

「あーまた、にぃにぃ、わたしたちを子供扱いにしてる!」

「だんこ、こーぎする!」

 与祢の髪の毛をクシャクシャにする豪姫は怒り、与免は覚えたて(?)の台詞を口にして、大河に抱き着いた。

「元気だな? 2人とも?」

「にぃにぃがいるからね~」

「あにうえがつみなおとこなの~」

 姉妹は、大河の膝に飛び乗ると、累の頭を撫で始めた。

 累目線だとそれぞれ、豪姫は3歳年上、与免は同年齢の義母になる。

 元服後の正式な手続きが済めば、の話であるが。

 それでも不思議な光景だろう。

 大河は累を抱っこし、姉妹に挨拶した。

「ほら、未来のお母さんだよ」

「「累さま~♡」」

 姉妹は累に左右から頬ずり攻撃。

 一方、累は、苦笑いでそれを甘んじて受けるのであった。

 

[参考文献・出典]

*1:ハタラクティブ 2022年1月18日

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