第735話 緑葉成陰

 三条河原は、平安時代末期から明治時代初期まで処刑場であった。

 執行された者には豊臣秀次(1568~1595)などが居る。

 そんな処刑場が若者に人気なデートスポットなのは、不思議なことだろう。

 東京でもバラバラ殺人の遺体が発見された井の頭公園でも、同じような状態なので西も東もあまり変わらないことが示されている。

 若者がこういう場所に行くのは、無知な側面が大きいだろう。

 大河もあまりこういう場所には積極的には行かないのだが、京でも人気なデートスポットなので「物は試し」とばかりに来たのである。

 鴨川の岸には、大学生のカップルが大勢居た。

 彼らは、等間隔とうかんかくで座っている。

 街灯が明るい場所ではカップルの間隔は広く、暗い場所ではそれが狭い。

 夜ということもあり、大河が集団で来ても、誰も気にはしない。

 大河は川岸に在るお茶屋に入り、その縁側で鴨川鑑賞を行う。

 膝にお市、左右にお初、お江を侍らせた状態の大河は、

「……うん。いいな♡」

 護衛の4人にミニスカメイド服を着させ、満足気だ。

「恥ずかしいです……♡」

「変態」

「はぁ……」

「主、絶対領域ですよ?」

 直虎は羞恥心でスカートの裾を摘み、下着を隠し。

 幸姫は汚物を見るような目で見下し。

 稲姫は嘆息。

 小太郎は白い太腿を露わにアピール。

 女官の楠、珠はセーラー服だ。

 お茶屋とコスプレは、遠いのだが、大河は満足していた。

「何で私、女学生の制服なの?」

 楠は、不満たらたらながらも酌婦しゃくふになる。

「嫌?」

「嫌とは言ってないよ。可愛いし」

 セーラー服はネクタイが四つ葉のクローバーの形にしたもので、今年の「女子高生が選ぶ可愛い制服ランキング」では、堂々の第1位を獲得している。

「兄者~。私もあれ着たい」

「じゃあ、注文するよ。———珠?」

「はい。では、お江様、採寸しますのでこちらに御出おいで下さい」

「うん」

 お江は立ち上がって、珠と共にて消えていく。

 お江が不在の間、彼女の空席は、妻妾たちの激戦地なる。

「「「「「……」」」」」

 直虎、幸姫、稲姫、小太郎、楠は目配せしあった後、

「「「「「じゃ~んけ~んぽん!」」」」」

 勝者は幸姫に微笑んだ。


 お江の代わりに権利を得た幸姫は、露出が激しいメイド服に嫌悪感を示しつつも、大河に寄りかかる。

 大河は片手で抱きしめ返しつつ、もう1本の腕でお初を抱擁する。

くすぐったいんだけど?」

「可愛いからしゃーない」

「もう……」

 呆れつつも、お初は大河に触れられつつ、パフェを食べる。

 膝のお市は、八つ橋に夢中だ。

「貴方も食べる?」

「ちょうだい」

「はあい♡」

 お市が八つ橋を箸で切り分けて、大河の口元に運ぶ。

「どう?」

「美味しいよ。お市の味がする」

「どんな味よ?」

 苦笑いしつつ、お市は大河と接吻する。

 そして、幸姫を見た。

「幸?」

「はい」

「茶々たちと仲良くしてくれて、ありがとうね?」

「いえいえ」

 幸姫は会釈する。

 実母は芳春院であるが、山城真田家に入って以降は、義母・お市と交流することが多い。

 お市からすると、実の娘である茶々、お初、お江以外に前田家三姉妹が義理の娘になった為、一気に6人姉妹の母親になった訳である。

「分かっているとは思うけど、妊娠に年功序列は関係ないからね?」

「!」

 お初がぎょっとした。

「母上?」

 てっきり、茶々の次に妊娠するのは自分、と考えていたお初には寝耳に水な話だ。

「勿論、貴女も妊娠して孫を見たいわ。でも、貴女は今、学生。学業が本業よ」

「……姉上は?」

 茶々は18歳で夜叉丸を産んだ。

 学生のうちに妊娠し、出産しているのだから、お市の論理には矛盾が生じる。

 しかし、お市は負けない。

「茶々は長女だからね。世継ぎの為には、そこは早めにしないといけないから」

「……」

「貴女やお江には学生生活を謳歌して、学業に集中してほしいの」

「……最近、兄上からの同衾が少ないのは、母上の指示?」

「そうよ」

「……」

 お初は大河を睨んだ。

「兄上……」

「済まんな。そういうことだ」

 国立校では女子生徒が妊娠しても、学校側がバックアップしてくれる為、休学や退学する必要はない。

「……う~ん」

 複雑そうにお初は大河の胸板に頬ずりする。

 学業優先は理解出来るものの、早く妊娠したいという気持ちもあるのだ。

 大河は優しくその頭を撫でる。

「あくまでも頻度ひんどが低くなっただけから禁止という訳じゃないよ?」

「そうだけど……」

「済まんな」

 謝りつつ、大河はその額に接吻していく。

「「「「「……」」」」」

 それを見守る5人の視線は、優しいものであった。

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