第733話 情緒纒綿

 ロコモコ丼を完食後、大河はラナと大使館を後にする。

「♡」

 激しく愛されたラナは、車内で大河の膝にまたがり寄りかかっていた。

 大使館職員に見送られ、馬車は発車する。

「次、妊娠するのは私かもね?」

「そのことなんだが、王位継承権って発生するのか?」

「さぁ? 父上に確認しないといけないから分かんないけど。多分あるんじゃないかな?」

「こっちとしては、将来の外交問題になる可能性を避けたいから、そういうのは辞退したいな」

「そう? 父上は友好の為にもお喜びになるかもしれないけど」

「外交問題になった時、苦しむのはその子だよ」

 歴史上、常に友好関係にある国同士は存在し得ない。

 明治政府、オスマン帝国の時代から友好関係にある日本とトルコだが、第一次世界大戦中はそれぞれ連合国と同盟国に分かれた。

 直接戦火を交えることは無かったが、万が一、直接衝突していたら、エルトゥールル号遭難事件(1890年9月16日)以来の両国の友好関係は薄れ、1985年のトルコ側からの恩返しも違った形だったかもしれない。

「サナダは、心配性だね?」

「妻子には必要以上に心配するさ」

 ラナを抱き締め、額に接吻する。

「もう。痛いよ」

「御免な?」

 重すぎる愛に、ラナは圧倒され気味だ。

 馬車は教会に立ち寄り、ヨハンナ、マリア、珠と合流する。

「あ、聖下———」

「いいよ」

 ラナが離れようとするも、大河がその手を握って離さない。

 再び膝に座らされる。

「え? でも―――」

「いいから。ヨハンナはここ」

 いざなわれ、ヨハンナは膝に座る。

 右膝にラナ、左膝にヨハンナが跨っている形だ。

 そして、左隣、右隣にはそれぞれ珠、マリアが着席。

 大河は両手を大きく広げ、左右の2人を抱き寄せる。

 珠が尋ねる。

「あ、若殿。お昼食べられました?」

「うん。大使館で食べたよ」

「では夕食は、城で食べられますよね?」

「その予定だけど? 何かある?」

「はい。京北より納豆が届いた為、今日の献立にしようかと」

「納豆かぁ……」

 珍しく大河は、渋い顔になる。

「苦手ですか?」

「臭いがねぇ」

 納豆は、臭い食べ物ランキングの常連の一つである。

 レベル的には、

 ―——

 1位、開栓直後のシュールストレミング 8070Auアラバスター

 2位、ホンオフェ(和名:洪魚膾こうぎょかい) 6230Au

 3位、エビキュアーチーズ 1870Au 

 4位、キビヤック(海燕ウミツバメの発酵食品) 1370Au

 5位、くさや焼き立て               1267Au

 6位、鮒酢                     486Au

 7位、納豆                     452Au

 8位、くさや焼く前                 447Au

 9位、沢庵の古漬け                 430Au

 10位、臭豆腐                    420Au

 11位、魚醬ニョクマム              390Au

 Au=アラバスター単位(臭みの強さを計る機械の単位)

 ―——(*1)

 と、平成14(2002)年の段階で、TOP10に入っている。

 大河も人間なので、好き嫌いは当然ある。

 豆や豆腐は食べれるが、納豆はどうしても臭いが先に来て食べることはほぼ皆無だ。

「では、若殿のは他ので替えておきますね?」

「ああ、頼んだ」

 大河がこうなので、彼は子供達に好き嫌いがあっても無理に矯正きょうせいはしない。

 あくまでも自主性に重んじているのだ。

 ヨハンナが、寄りかかりつつ尋ねる。

「貴方、京北街道はどうなったの?」

「廃止案が劣勢だね。維持が理想だけど」

 付近の住民の為には、維持した方が良いのだが、予算を握る大蔵省(現・財務省)が吝嗇家りんしょくかなので余程よほどのことが無い限り、予算を出すことは無い。

 議案を通す為には、吝嗇家・大蔵省への根回しも必要なのだ。

 京北地域は、中心地から離れている為、当然その裏工作も厳しい。

「現状、若狭国(現・福井県南部)からの品々は、周山街道以外の鯖街道さばがいどうを用いるしかないな」

 公家や大蔵省が周山街道を廃道するのは、他にも経路があるからだ。

 ―——

①琵琶湖経由(*2) 現・滋賀県高島市今津町~京(*3)

②西近江路     現・国道161号/福井県敦賀市~滋賀県大津市(*4)

③若狭街道・敦賀街道 現・国道27号(丹後街道)~国道303号~国道367号(*4)

④鞍馬街道 現・福井県道35号久坂中ノ畑小浜線~現・高島市朽木小入谷~洛中

⑤雲ケ畑街道

 現・福井県小浜市~京都府道370号佐々里井戸線~府道61号京都京北線

⑥小浜街道

 現・福井県おおい町~京都府道369号八原田上弓削線~府道107号雲ヶ畑下杉坂線・鷹峯街道~洛中

 ―——(*5)

 これほど代わりの経路がある為、大蔵省や公家が周山街道を軽視するのも無理はないだろう。

「若殿にも弱点はあるんですね?」

 マリアが微笑んで、寄りかかる。

「人間だからな」

 肯定した後、大河はマリアに接吻する。

 ヨハンナたちは察した。

 今晩のお手付きは彼女だ、と。


[参考文献・出典]

*1:『発酵は力なり』NHK人間講座 小泉武夫 2002年

*2:『鯖街道』 編・上方史蹟散策の会 向陽書房 1998年

*3:浅井建爾 『道と路がわかる辞典』(初版)日本実業出版社 2001年

*4:著・佐々木節 石野哲也 伊藤もずく 編・松井謙介

  『絶景ドライブ100選[新装版]』学研パブリッシング2015年

*5:ウィキペディア

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