第725話 心曠神怡

・阿国

・松姫

・お市

・謙信

・ナチュラ

・幸姫

・甲斐姫

・綾御前

・小少将

・早川殿

・鶫

 の合計11人を伴って大河は安産祈願で有名な神社の一つ、伏見稲荷大社に参拝する。

 平日にも関わらず、参拝客は多い。

 サッカー1チーム分もの人数の参拝の為、当然、結構な空間スペースを取ることになってしまう。

 なので、参拝客が少なくなった時機タイミングを見計らってのお参りが礼儀マナー」だろう。

 1人ずつお参りに行く中、最初に行った大河とお市、謙信、早川殿と近くの茶屋の個室でくつろいでいた。

「相変わらず、ここは人が多いわね?」

「京を代表とする神社だからね。しょうがないよ」

 寄りかかるお市に返しつつ、大河は膝の上の早川殿を優しく抱擁する。

「真田様♡」

「春、頬に黄粉きなこついてるよ」

「あ―――」

 手巾で拭う前に大河が接吻で取る。

 個室なので人の目を気にする必要はない。

「もう、真田様、意地悪です」

「だってねぇ。春が可愛いからねぇ」

 三十路の結婚歴のある経産婦を「可愛い」と評する大河に、早川殿は益々ますます顔を赤らめさせる。

 結婚して分かったことだが、大河の愛は非常に重い。

 結婚前、積極的であったお市やお江などが結婚後、その重さに若干引き気味なのが、その証拠だ。

 絡新婦ジョロウグモのように謙信は背後から絡みつく。

「私にも『可愛い』は?」

「はいはい。かわいいかわいい」

「何で投げやりなの?」

「参拝後にお神酒で酔っちゃって酒臭いから。それさえ無ければ、絶賛しているよ」

 謙信は参拝後、土産物屋で売られていたお神酒を爆買いし、その場で飲んで泥酔しているのだ。

 流石に鳥居の内側では自制しているが、出た途端、スイッチが入ったのか笑い上戸じょうごになった。

 かと思えば、今度は泣き上戸に変身し、情緒不安定が露呈したのだ。

 流石にこの状態での帰りは厳しい為、大河は止む無く茶屋に入り、酔いがめるのを待っているのであった。

「……意地悪」

「はいはい」

 軽く受け流しつつも、大河は片手を後ろに回し、謙信の背中をさする。

「あは♡」

 言葉とは真逆の対応に、謙信の笑顔は絶えない。

「愛してる♡」

「俺もだよ」

 酒臭さを我慢し、大河は振り返っては謙信と接吻する。

 身重みおもの妻を前にしてのこれは、気が引けるものがあるが、北条氏より上杉氏の方の家格が上の為、早川殿は苦笑いだ。

「いいこいいこ♡」

 上機嫌になった謙信は、大河の頭を撫でまくる。

 まるで飼い主が愛玩動物ペットに行うかの如く。

「済まんな。春」

「いえいえ。上杉様も大変かと思いますので」

 累の育児に追われる中、景勝への引継ぎもしないといけない。

 その上、大河は愛してくれ分、他の妻と過ごすことも多い。

 これでストレスが溜まらない訳がないだろう。

 その寂しさから酒に走っている可能性もある。

 出産の経験がある早川殿は、謙信をおもんばかっていた。

 謙信は前側に回り込み、早川殿の隣に座った。

「春みたいに抱きしめて♡」

「了解」

 引き締まった謙信のお腹をさする。

 経産婦は出産前の体型に戻すのに一苦労することをよく聞くが、謙信は酒以外は律しているようで、武将時代と殆ど変わらない筋肉質な見た目だ。

 大河の知らない所で相当、努力していることが分かる。

「謙信、い加減に―――」

「市」

 お市が苦言を呈す前に大河は動く。

 お市を抱き寄せる。

「一時のことだから」

「……貴方がそういうなら」

 酒嫌いの大河のことを想ってのことであったが、本人が気にしていない以上、他人が口出しする権利はない。

 そうこうする内に、松姫たちが大量のお守りを持ってきた。

 そして、大河を見るなり、空いている背後の位置を巡って壮絶なじゃんけん大会が繰り広げられるのであった。

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