第724話 賢母良妻

 昼間は大学生の、

・松姫

・千姫

・アプト(体調に配慮しつつ通学)

・井伊直虎

・茶々

・お初

・珠

・マリア

 高校生の、

・楠

・お江

・姫路殿

・朝顔

 小学生の、

・摩阿姫

・豪姫

・与祢

・伊万

 幼稚園の、

・与免

 が国立校に通学中の為、京都新城は静かになる。

「阿国、松。今日、授業は?」 

「「自習なのでないです♡」」

「……大丈夫か?」

「舞踏には時に休憩も必要なので♡」

「時には自分で仏典を開いて解釈を話し合う機会も必要かと思いまして♡」

「……はぁ」

 大河の休暇に合わせて自習にした感が凄いが、授業は各講師に委任している為、彼もこればかりは口出し出来ない。

 2人は左右から大河を抱き締め、両側からそれぞれ、頬に接吻する。

「真田様、外に出たいです♡」

「買い物にお付き合いして下さい♡」

「四条河原町?」

「いえ。城下町を散策したいです♡」

「3人で♡」

「3人は難しいかな」

 大河は2人を抱き締めつつ、チラリと少し開いた障子を見た。

 覗き込む眼球は全部で16個。

 それぞれ、

・お市

・謙信

・ナチュラ

・幸姫

・甲斐姫

・綾御前

・小少将

・早川殿

 だ。

 子を持つ母親は、普段は子供優先なのだが、今回は侍女や乳母に預けて大河との外出を望んでいるようである。

「「えー……」」

「済まんな。その代わり好きなの買い」

「なんでもいいんですか?」

「松? 尼僧の癖に物欲の塊だな?」

 苦笑しつつ、大河はその頭を撫でる。

「まぁまぁ♡」

 松姫は嬉しそうに微笑む。

 と、同時に障子の方から送られてくる嫉妬の視線が、大河の背中を突き刺すのであった。


 平等に接することを公約マニフェストに掲げている以上、大河は特定の妻を優先することはない。

 城に残っていた10人と共に外出する。

 皇族ではない為、御料車ごりょうしゃは使用せず、1ランク下のリムジンのような長い馬車を使う。

「済まんな。鶫。休日出勤させて」

「いえいえ。本望ですから♡」

 鶫に接吻後、運転席に送り出す。

 それから、車内に乗り込む。

 車内では、既に10人が着席しており、大河の空間スペースを用意していた。

「「ここ♡」」

 お市と謙信が、その空間を優しく叩く。

「……はいよ」

 家格からすると、この2人が現状のメンバーの中で上位なので、他の8人からの異論は出ない。

 大河は指示通り、2人の間に座る。

「春はこっちよ」

「お市様、ありがとうございます♡」

 早川殿は頭を下げて、大河の膝に座る。

 大河はその大きくなったお腹に手を添えた。

「もうすぐだな?」

「はい。多分、年齢的に真田様との子供は、この子が最初で最後になるでしょう」

「……」

 早川殿は33歳。

 35歳で急速に妊娠出来る確率が落ちていく為、年齢的にギリギリの時機であった。

「春は第二子を考えていない感じ?」

「はい。お市様。もう年齢的にも体力的にも厳しいと思うので」

「私はまだ産みたいけどね」

 お市は元気らしく、大河に寄りかかる。

「貴方はどう?」

「そりゃあ良いけど、高齢出産は母体にも危険が及ぶから、そこはあんまり乗り気じゃないな」

「じゃあ、心愛が最後ってこと?」

「多分そうなるな。子は欲しいがそれ以上にお市を失いたくないから」

「……うん♡」

 真顔で言われ、お市は恥ずかしくなったのか髪の毛を搔き上げて、視線をらす。

 早川殿は不安になった。

「ということは私もそうなるでしょうか?」

年子としごはあまり良くないから、春次第だけど、再来年、35歳が最後の好機かなと思ってる」

「では……望んでもいいんですね?」

「いいけど、あくまでも体調次第だからね。そこは計画的にだよ」

「……はい♡」

 早川殿としては、難産死してでも第二子を望んでいたのだが、大河が第二子よりも自分を心配している為、大事に思われていることを知り、頬がほころぶ。

 謙信も寄りかかった。

「じゃあ、私も35歳までは好機があるってこと?」

「そうなるな。勿論、皆にも好機があるからね」

「やった♡」

「よし♡」

「頑張ります♡」

「頑張るよ♡」

「えへへへ♡」

「35歳かぁ♡」

「まだまだあるね♡」

・ナチュラ

・幸姫

・甲斐姫

・綾御前

・小少将

・松姫

・阿国

 はそれぞれ、ガッツポーズを決めたり、微笑んだり。

 皆、妊娠を望んでいる為、当然の反応だ。

 運転席から聞き耳を立てていた鶫も自然と笑顔になる。

(35歳、か……)

 馬に鞭を振るいつつ、大河の子供を妊娠する未来を想像するのであった。

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