第716話 青色吐息

 緊急事態で混乱に見舞われた地域では、時に治安が急速に悪化する場合がある。

 アメリカでは、

 ――——

①ニューヨーク大停電 1977年7月13日

 店舗への襲撃 1616店(*1)

 放火     1037件(*1)

 逮捕者    3776件(*1)

 殺人       1件→未解決事件(*1)

②ロサンゼルス暴動 1992年4月下旬~5月初旬

 火災               3600件(*2)

 建物破壊             1100件(*2)

 店舗や企業への略奪及び打ちこわし 4500件(*2)

 被害総額             10億ドル(*3)

 ―——

 と起きており、2005年に甚大な被害をもたらしたハリケーン・カトリーナでは、性犯罪を確認されている。

 アメリカと距離が近いハイチでは、地震(2010年1月12日)では、人口の10分の1が被災し(*4)、急速に治安が悪化。

 │PKO《国連平和維持活動》を終えた国連軍が2017年に撤退後は悪化し、2020年には234件(国連の発表。現地の人権団体の見解では796件 *5)もの誘拐事件が発生している。

 翌年には現職の大統領が暗殺され、傭兵が逮捕されるなど政治的にも影響が出ている。

 日ノ本でも同様で周山街道が使えなくなり、孤立化した集落を山賊が襲い死傷者が出ていた。

 そういう対処も七本槍の仕事だ。

八丁はっちょうか」

品谷山しなだにやまに潜む山賊は、100人らしい。全員、浪人だ」

「職にあぶれた元武士か」

「境遇には同情するが、山賊に成り下がるのは頂けないな」

 脇坂安治、片桐且元、平野長泰、福島正則はそれぞれ話し合い、

「「「……」」」

 加藤清正、糟屋武則、加藤嘉明は登山の準備を進めていた。

 品谷山は881m。

 賤ヶ岳が421mなので、約2倍の高さだ。

 日ノ本(日本)には、1万6667山(*6)もある為、山岳戦専門の部隊は必要不可欠だ。

 現代だと陸上自衛隊の、

・対馬警備隊  (駐屯地:長崎県対馬市)

・第13普通科連隊(駐屯地:長野県松本市)

 がその代表例に当たるだろう。

 ギリースーツに身を包んだ彼らは、村民の名簿と照らし合わせつつ、山賊との区別を図る。

 山岳戦は平地よりも体力を要し、また遭難の可能性もある為、山賊に挑むのはこの7人だけだ。

 清正が問う。

「皆、準備万端か?」

「「「「「「応」」」」」」

 14個の眼球は、獣の目をしていた。


 七本槍が山岳掃討作戦を始めた頃、二条城に詰めていた大河は、着替えを持ってきた松姫、甲斐姫、稲姫、幸姫と共に、久々に夫婦の時間を過ごしていた。

 松姫と稲姫を膝に乗せ、左右に甲斐姫、幸姫を侍らせつつ、お茶を飲む。

「ふ~」

「お疲れ様です」

 甲斐国(現・山梨県)産の南部茶を夫に用意出来、松姫は嬉しそうだ。

「子供達は?」

「心愛様、類様は不機嫌です。デイビッド様、猿夜叉丸様は、愛王丸、井伊直政があやしている為、問題ありません。問題は……」

 急に幸姫の顔が曇っていく。

「……妹たちの癇癪かんしゃくが酷いです。伊万、与祢がなんとか抑えていますが……どこまで持つか……」

「……」

 天災前まで摩阿姫、豪姫、与免は下校直後、天守に上がり、大河に抱き着いていたほどだ。

 それが急に仕事でいなくなれば、精神的に支障をきたしてもおかしくはない。

「……3人を連れてきていいよ」

「! いいんですか?」

「癇癪起こして与祢たちの負担が増えるのはよくない。3人の精神衛生的にもね」

「……ありがとうございます」

 妹たちが優遇され、幸姫は嬉しがる。

 大河は幸姫を抱き寄せつつ、松姫の肩に顎を乗せ、稲姫を抱擁。

 そして、甲斐姫に寄りかかった。

「真田様。お疲れ?」

「そうだね。もう2~3日くらい寝てないから」

「! そんなに?」

「周山街道が気になってな。ただ、君たちが来てくれたから安心できたよ。ちょっと仮眠する」

「「「「はい♡」」」」

 大河の毛布と布団になれた4人は、笑顔で頷くのであった。


[参考文献・出典]

*1:ウィキペディア

*2: Stevenson, Brenda. The Contested Murder of Latasha Harlins: Justice, Gender, and the Origins of the LA Riots. Oxford: Oxford UP, 2013

*3:Jacobs, Ronald F., Race, Media, and the Crisis of Civil Society: From the Watts Riots to Rodney King, Cambridge University Press, 2000,

*4:読売新聞 2010年1月14日

*5:ロイター 2021年5月2日

*6:『日本山名総覧』

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