第704話 酒池肉林

 万和6(1581)年5月17日。

 江戸から徳川家康が、千姫、元康と共に登城する。

「近衛大将、久々にお招き下さりありがとうございます」

「いえいえ。開発の方は?」

「順調です」

 家康は元康をあやしつつ、答えた。

 一方、大河は久方振りの千姫との再会に喜び、家康の方を殆ど見ていない。

 千姫を抱擁しつつ、その頬に何度も情熱的な接吻を行う。

「もう、山城様ったら♡」

 千姫もよろこんで受け入れている。

「うー……」

 母親を奪われた元康は、不満顔だ。

「元康、じいじが居るよ」

「じいじ、いたい」

 家康に抱き締められ、元康はジタバタと暴れる。

 今回、家康が上京したのは、江戸開発計画の進捗しんちょく報告と休養を兼ねてだ。

 莫大な資金を投じられた江戸の工事は、24時間の3交代制で進められ、公休日以外の休養日が余りない状況であった。

 そこで大河は、気分転換を兼ねて、数週間の休養日を計画に加えたのだ。

 現場作業員は大喜びし、千姫も元康を連れて大手を振って帰京出来る。

 大河も妻子と会える。

 双方のWIN WINが成立した形であった。

「内府殿。移動でお疲れでしょう。今晩は、天守の方でお休み下さい」

「近衛大将のご配慮、謹んでお受けします」

 江戸から京都までは、新幹線で約2時間半。

 車でも約5時間(東京IC~京都南IC)かかることから、移動だけでも相当な時間がかかる。

 又、家康の場合は幼い元康も来ている為、彼の体調に合わせてゆっくり移動しなければならない。

 元康を抱っこし、家康は宿泊用に用意された部屋に行く。

 もう少し大河と話したかった様子だが、疲労はあったのも事実であり、イチャイチャしている千姫と彼に配慮したのもあった。

 残された2人は、

「「……」」

 見つめ合い、濃厚な接吻を交わす。

「山城様のことを毎晩思っていました」

「俺もだよ」

「他の方々を抱いた状態で?」

 少し睨む。

「おいおい。怒るなよ? 忘れた訳じゃないんだからさ」

「忘れていたら尚更なおさらですわ」

 元康を育児している真っ最中の千姫だが、第二子を望んでいる。

 頃合いを見て妊活に励むのも良いだろう。

「山城様、混浴を御願いしたいのですが?」

「分かったよ」

 千姫を抱っこしつつ、大河は自室の風呂場に向かうのであった。


 その日の晩は、

・稲姫

・松姫

・阿国

・井伊直虎

・甲斐姫

・綾午前

 と共に過ごす。

 無論、千姫も一緒だ。

 綾御前が苦笑いで寄り添う。

「今日も与免が大暴れよ。『あにうえにあいたい』って」

「済まんな。苦労をかけて」

「もう慣れたわ。ね? 松?」

「うん」

 松姫も反対側から寄りかかる。

 千姫、直虎は其々それぞれ右脇と左脇。

 阿国、稲姫は胸板という布陣だ。

「若殿は今日、千様と混浴を?」

「そうだよ。阿国もしたかった?」

「はい。誘って下さいよ~」

 阿国は最近、妊活に熱心だ。

 大河に今まで自由にしてもらっている分、としての本業を果たしたいのである。

 もっとも、大河は妊活の時機タイミングは妻に任せており、「子供を産みたくない」という妻が居れば、その気持ちを尊重するつもりだ。

 嫌々いやいや産んだ場合、その子供が純粋な愛情を受けられない可能性がある。

 だったら、最初から産まない方を選ぶ。

 言わずもがな出産後に気持ちが変わり、愛情を注ぐ可能性も考えられる。

 が、それは賭けであって失敗した時のリスクの方が遥かに高い。

 出産するかしないかは、妻次第なのだ。

 そういった事からも大河は、妻達はを感じ、幸福に暮らすことが出来る。

「今日、歌劇団の稽古けいこが入っていただろ? そんな状態では出来んだろ?」

「でも、背中くらい流してほしかったです」

「襲われて過労死かろうししても知らんからな?」

「その時は腹上死ふくじょうしでお返しします♡」

 阿国は、大河の頬にかじりつく様に接吻する。

 松姫が呆れた。

「夫になんてことを……真田様、大丈夫ですか?」

 赤くなった頬を撫でる。

「大丈夫だよ。元気だし」

「「「「あら♡」」」」

 稲姫、甲斐姫、直虎、綾御前の声が重なった。

 それからは、酒池肉林の世界が広がったのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る