第703話 孟母断機

 京都に再び平和が戻った頃、世界は変化の時代を求めていた。

 遠くアフリカでは、

「白い者を追い出そうぞ!」

「「「ウォオォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」

 日ノ本の隆盛を商人から聞いたアフリカ人達が、列強に反旗を翻し始めていた。

 各地では教会が焼き討ちに遭い、白人支配層が虐殺され、これに怒った列強が反撃を始め、アフリカ人と欧米列強の大戦争が始まった。

 優秀な武器を持つ列強であるが、数ではアフリカ人の方が多い為、直ぐに鎮圧は難しい。

 これにアフリカへの進出を狙っていたオスマン帝国も介入し、アフリカでは、

 欧米列強VS.反乱軍VS.オスマン帝国

 の三つ巴の争いとなった。

 オスマン帝国と友好関係にある日ノ本でも、その報せは届き始める。

 万和6(1581)年5月15日。

 駐日オスマン帝国大使館からの使者が、京都新城に登城する。

「―――武器の供与、ですか?」

「ハイ。友好国トシテ御願イデキマスカ?」

「……分かっていると思うが、我が国は、永世中立を掲げている。貴国の戦争には、中立の立場だよ」

 将来的な利益を考えたら介入し、アフリカの支配も出来るだろうが、日ノ本は、不用意な争いには手を出さない。

 領土拡大政策を採る気も無い。

 内は内、外は外なのだ。

阿弗利加アフリカハ資源ノ宝庫デスゾ?」

「知ってるよ」

 現在のシエラレオネ等の地域では、金剛石ダイヤモンドが産出される様に、アフリカは、資源の宝庫だ。

 欧米列強が我先われさきに進出するのは、経済的には分からないではない(人権的には理解不能であるが)。

 然し、日ノ本は侵略政策は行わない。

 北米大陸のように友好的に交流し、統治することも出来なくは無いが、如何せん距離が遠すぎる。

 交流は出来ても、統治は現実的ではない。

 様々な要素から考えると、アフリカには手を出す長所メリットが見いだせないのだ。

「共ニ利益ヲ―――」

「気持ちはありがたいが、我が国は外には出ない」

「……残念デス」

 大使が帰ったのと行き違いで、今度はアフリカ人商人が登城する。

 彼らの言い分は何処も一緒だ。

「「「我ガ国ニ支援ヲ」」」

 大河は気持ちを理解しつつも「永世中立」を理由に全て断るのであった。


 1日に100人以上をさばいた大河は、夕方にはゲッソリしていた。

「若殿、お疲れ様です」

「ああ、癒してくれ~」

 やつれた大河は、珠を抱き締める。

 それから、膝に座らせた。

「他の方に外務大臣を任せられないんですか?」

「外国に詳しい人が俺以外少ないからな」

 政権を担う武将の多くは、戦国時代、国内を駆け回っても、国外は未経験だ。

 半面、商人や僧侶の方が詳しい。

 然し、商人は損得勘定で、僧侶は信仰宗教に沿って、其々それぞれ動く可能性がある為、あまり外交には向いていないだろう。

 その点、大河は国益のみでしか動かない。

 外務大臣には、彼しか適任者は居ないのだ。

 珠に頬ずりし、側近として控えている光慶を見た。

「武芸以外にも学力が居る時代だ。早く勉強して外務大臣になってくれ」

「「!」」

 後継者に推す発言に2人は、ギョッとした。

 何故なら組閣の人事権を握るのは、首相の羽柴秀吉だから。

「……若殿、本気ですか?」

「半分ね。早く隠居したいんだよ。家族と過ごしたいから」

「あ♡」

 珠の首筋に顔を埋め、大河は甘えに甘える。

 義弟を目の前に、その姉を抱きそうな勢いだ。

「……義兄上あにうえの御希望とあれば―――」

「いや、強要はしないよ。光慶のやりたいことをすればいい。俺のはただの願望だから」

「然し―――」

「じゃあ、上書きするよ。『やりたいことをやれ』―――それが俺の希望だ」

「……は」

 光慶は平服しつつ、納得する。

(これは、義兄上流の人心掌握術か……)

 本人は意識していないのかもしれないが、権力者である癖に、これ程自由にさせてくれるのだから家臣は非常にありがたい。

 これまで離反者が出ていないのも、その証拠だろう。

「兄上♡」

「兄者♡」

「にぃにぃ♡」

「あにうえ♡」

 大河を兄としたう妻と婚約者が勢揃い。

 皆、学校やお稽古けいこが終わった時機タイミングが被ったようだ。

「あ―――」

「良いよ」

 珠が離れようとするも、大河に抱擁され、身動きが取れない。

「兄者、妻より侍女が優先なの?」

「皆、平等なの」

「あは♡」

 頬に接吻され、お江は笑顔を見せる。

「あにうえ~。見て見て~♡」

「お~。俺?」

「うん♡」

 絵心があるのか、与免は大河の、

・童顔

・眼帯

 という特徴を捉えた似顔絵を見せた。

 綾御前や松姫が、教師なのだろうか。

 少し絵の筆使いタッチが似ている。

「にぃにぃ。私も~」

「お~。満点だな? よく頑張った」

「褒めて褒めて~♡」

「あいよ」

 豪姫の頭を撫でつつ、最後にお初を見る。

「初」

「うん♡」

 手を引かれ、お初は上機嫌に大河の膝に座る。

 普段は厳しい彼女だが、恋敵より優先されると何よりも嬉しい。

「兄上、地理の授業でちょっと分からない所があるの」

「分かった。何処どこだ?」

「ここなんだけどね?」

 大河に寄りかかりつつ、お初は実妹や義妹が居る前で滅茶苦茶甘えるのであった。

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