第697話 明智光慶

 光秀と守備兵による軍団の無人航空機ドローンは、現在の国道162号線(起点:京都市右京区~終点:福井県敦賀市)の周山街道しゅうざんがいどう(京都市右京区福王子~福井県小浜市街)を下る宇津長成とその軍勢を発見する。

「目標、捕捉ほそくしました」

「では、攻撃の許可を」

「待て。間者と非戦闘員への誤射は避けるんだ」

「は」

 焦る家臣を抑え、光秀は策を巡らす。

 発砲等の許可は、既に大河から貰っているのだが、問題は事後処理だ。

 いきなり長成が消息不明となれば、政府によるテロが疑われねない。

 あくまでも「政府は無関係」というのが定石だ。

「「「……」」」

 光秀の家臣団は、画面を注視する。

 宇津兵が急坂急カーブが連続する難所の栗生峠くりおとうげ(現・京都市右京区京北細野町)に差し掛かった頃、

「撃て」

 遂に攻撃の許可が出た。

 と、同時に家臣団は、操縦桿コントローラーを握る。

 森の中に隠れていた無人航空機の一団が、一斉に姿を現した。

「「「!」」」

 宇津兵達は騎馬を止める。

 その刹那、家臣達は、操縦桿のボタンを押す。

 無人航空機の下部に設置されていたブローニングM2重機関銃が火を噴く。

 ドドドドドドドドド……

「鬼だ! 鬼が来た―――ぐへ!」

「逃げ―――!」

「!」

 断末魔を上げる時機タイミングすら貰えず、宇津兵は肉塊にくかいを作っていく。

 映画でもその威力が表現されているように、ブローニングM2は、人間を簡単に屠殺場とさつじょうの豚のように仕上げていく。

 そもそも宇津兵は、戦国時代を経験した老兵揃い。

 森林に逃げ込む素早い動きは、出来なかった。

 あっという間に宇津兵は全滅する。

 死体やその一部が斜面を滑り落ち、桂川は真っ赤に染まっていく。

「……光慶、長成を探せ」

「は」

 目を凝らして、光慶は長成を探す。

「……居ませんね」

「逃げたか?」

「恐らく。もしくは別動隊だったのか」

「……」

 京北から京に下るのは、周山街道を使うのが手っ取り早い。

「……ん?」

 家臣の1人が画面から違和感を覚えた。

「……殿、あれは火事では?」

「!」

 光秀は慌てて、画面をズームする。

「そんな……」

 燃えているのは、山国荘やまぐにのしょうの付近であった。

 皇室財産が炎上している状況に光秀達は、

「「「……」」」

 言葉が出ない。

 家臣が呟く。

常照皇寺じょうしょうこうじに火の手が……」

 光厳天皇こうごんてんのう(1313~1364 北朝在位:1331~1333)が貞治元/正平17(1362)年に開山かいざんした由緒正しい朝廷と縁深い寺に、猛火が迫っていた。

「至急、消防隊を! 我らも急行だ!」

「「「は!」」」

 光秀の指示に家臣団は慌てて、指令室を飛び出すのであった。


 常照皇寺は、何とか現地の住民によって家事が防げられた。

 しかし、山国荘の一部が焼け、木材の不足が予想された。

「……若殿、申し訳御座いません」

 光秀は真っ青な顔で大河に謝った。

 姫路殿、珠を手を繋いでいる義理の息子は、意外なことに冷静沈着だ。

「表向きには、山火事として処理したんだろ?」

「は、はい……」

「上出来だ」

 朝廷に敬意を払う大河にしては余りにも感情的にならない為、光秀は内心吐き気をもよおすほどである。

 2人を抱っこした大河は、次に光慶を見た。

「君が明智の後継ぎか? 義兄の真田大河だ。宜しく」

「宜しくお願いします」

 2人は握手する。

 珠は恥ずかしいのか、光慶とあまり目を合わさない。

 その為、珠越しに2人は会話する。

「今後も光秀殿を支えてくれ。期待しているよ」

「は!」

 身内とはいえ、相手は近衛大将だ。

 貴重な経験と言えるだろう。

「光秀殿、申し訳無いが、山国荘の再興に尽力して頂きたい」

「再興、ですか?」

 首都防衛から外された事に、光秀の自尊心は傷つく。

 確かに山国荘の火事を防げなかった責任の一端は、否定出来ない。

 だから、自分の失策は自分で挽回ばんかいしようとやる気満々だったのだが、外されるのは、やはり気分が悪い。

懲罰ちょうばつじゃないよ」

「では、何故?」

 大河は、疑問には必ず説明してくれる。

 日本では部下が上司に疑問を口にするだけで左遷になるくらい、厳しい縦社会な場合があるが、大河は徹底的に話し合うタイプだ。

 理由も無しに懲罰を受けるより、マシの為、こういう所が大河が「理想の上司」として評価されている理由の一つである。

「京北の人々は、元領主である光秀殿の手腕による復興を望んでいる。それに貴殿は、あそこの地域に詳しい。木材が不足すれば、今後の住宅供給等に悪影響が出る。分かりますよね?」

「……は」

 これ以上の反論は困難なほど、納得出来る理由であった。

「では、長成の方は?」

「そこは光慶に頼みたい」

「「!」」

 名指しされた光慶は、目を剥く。

「初陣、ですか?」

「そうなるな」

「……何故、父上ではなく私なんです?」

「初陣も飾らずに名家・明智氏の次期当主には相応しくないだろう?」

「!」

 花を持たせよう、という大河の配慮に光慶は感激する。

義兄上あにうえ、有難う御座います!」

 それを見て、光秀の不満は更に払拭された。

(なるほど。息子に一任させたかったんだな……婿殿に年甲斐としがいも無く敵愾心てきがいしんを抱いてしまった。反省しなければ)

 それから、心の中で猛省するのであった。

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