第683話 愛情表現

 大河の教育方針は、『金は出すが、口は出さない』である。

 しかし、「100%介入しない」という訳ではない。

「会食ねぇ……」

「駄目ですか?」

 ウルウルとした瞳で尋ねる男性講師。

「残念だが、規則は規則だ」

「……分かりました」

 肩をすくめて男性講師は、去っていく。

 姫路殿が首を傾げた。

 何故? と。

「この学校では、教職員と生徒の会食は厳禁なんだ。友達みたいな友好関係であってもな?」

「……犯罪対策?」

「まぁ、そうだな」

 教職員と生徒が密会すれば、それこそ、今後の試験において依怙贔屓えこひいきが行われたり、男女の仲になることも考えられる。

 両者が仲良くするのは、大河も理解しているが、それ以上の可能性があると、その部分は流石に非合法に指定せざるを得ないだろう。

「卒業した後は、幾らでもしていいが学生の内は学業が優先だよ」

「……貴方は、生徒と結婚しているのに?」

「でも、査定には関与していないよ。妻がどんな点数や授業態度かは知らないし」

言いくるめられている感が否めないが、実際、大河は本当に査定に関与していない。

 まるで興味が無いくらいに、だ。

 講師や教授の中には、低い身分の者も居る。

 才ある者は差別しない大河の方針に則ってのことだ。

 この為、先生と生徒が恋仲になった場合、貴賤恋愛となる。

 低位の家は喜ぶが、真逆の高位な家の者は「乗っ取り」や「家格の低下」などを不安視して猛反対するだろう。

 それに巻き込まれない為に大河は、「そういうことは、卒業後、勝手にやってくれ」という方針である。

 現代日本でも、生徒同士の恋愛に親が眉をひそめ、学校側に説明責任や賠償を求める場合が見受けられる。

 学校が「学びに行く場所」であって、恋愛する場所ではないのは確かなのだが、それでも生徒の私的までも学校側に責任を負わすのは、流石に酷だろう。

「じゃあ、累や心愛に恋人が出来たらどうしますの?」

「そりゃあ、ここに招くよ。未来の息子になるかもしれないんだから」

 嫉妬深い大河にしては、大人な対応だが、実際には、今にも人を殺しそうな目なので恐らく圧迫面接するのだろう。

「娘に嫉妬する前に、妻を大切にすることですよ」

 姫路殿は囁くと、戒めるように大河の頬に接吻するのであった。


 京都新城の女性陣は基本的に自由行動が出来る。

 城内は執務室以外などの部屋を除けば、何処でも入れる。

 大河の私室もだ。

 これが城外ともなると、流石に一般人に偽装カモフラージュした兵士がつくが、それでも禁忌タブーは無い。

 日帰り旅行や遠出も可能である。

 それでも女性陣が城内にこもるのは、

・立花誾千代

・早川殿

・アプト

・橋姫

 のベビーブームが理由であった。

 若いアプトを除いて厳しそうな3人を無事、妊娠させたのだから大河と一緒に居ればその好機がある、ということだ。

「真田様、野沢菜漬けと信州蕎麦です♡」

「おお、美味そうだ」

 与祢、伊万、与免を抱っこしていた大河は笑顔になる。

「若殿、食事介助を―――」

「いいって自分で出来るから」

「えー……」

 与祢は不満げだが、大河は大真面目だ。

「良いんだよ。座っとき。君らが居るだけで、癒しになるんだから」

「本当ですか?」

 伊万は、両目をキラキラさせる。

 居るだけで仕事になるのは、非常に楽なことだ。

 直後、与祢が睨む。

「伊万」

「あ、申し訳御座いません」

「素直で良いよ。与免、蕎麦食べれる?」

「うん! でも、きって!」

「分かってるよ」

 箸で蕎麦を細切りにすると、与免の口元に運ぶ。

「うん。おいちぃ♡」

山葵わさびは?」

「いらない!」

 断言すると、与免は「次! 次!」とせがむ。

 父娘のような光景に、甲斐姫は微笑む。

(こんな子が欲しいな)

 メリハリがしっかりしている大河との家族生活は、非常に生活しやすい。

 大河の隣に座ると、その肩にしな垂れかかる。

「ん?」

「駄目ですか?」

「いや」

 再び微笑み、大河は甲斐姫の腰を抱く。

 膝の3人を片手で抱擁しつつ、大河は甲斐姫と何度も接吻を行う。

 他人が居ようが居まいが、情熱的なのがこの家の方針だ。

「あは♡ 皆見てます♡」

「恥ずかしい?」

「まぁ……はい♡」

「可愛いなぁ。いは」

「そんな……♡ もう♡」

 与祢と伊万は苦笑い。

 与免は興味津々に見つめている。

 大人たちが行う謎の行動の意味をあまり理解していないようだ。

「さなださま、それなに?」

「夫婦の愛情表現だよ」

「ふ~ふ? あいじょう~?」

「うん。与免も結婚したら旦那さんとするかもね?」

「さなださまと?」

「俺かどうかは分からないけどね」

 苦笑いしつつ、与免の頭を撫でる。

「む~。すきなのに」

「ありがとう」

 与免の好意をありがたく受け止めつつ、大河は甲斐姫とイチャイチャ続けるのであった。

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