第684話 父ノ愛、母ノ愛
この日の夜、大河は、
・楠
・稲姫
・甲斐姫
・綾御前
・松姫
と、
「くちゅん」
「風邪?」
「多分」
楠は小さく
「熱は……無いな?」
額同士を合わせて確認するも、若干高いくらいで、「病気」とは言いにくい。
それでも心配なのは事実だ。
「薬飲む?」
「多分、大丈夫」
「分かった」
本人が望まない以上、薬の強要は出来ない。
楠の頭を撫でつつ、胸板に顎を乗せる、
・稲姫
・甲斐姫
・松姫
と、右肘を枕にする綾御前に接吻する。
外は未だに季節外れの長雨で、振り続けている。
信玄堤が発揮している為、流石に決壊するのは考えにくいが、それでも懸念するのは良いことだろう。
「稲、可い、先日の武術の講師、ありがとうな?」
「「はい♡」」
「松も仏教の授業、評判良いよ。多分、契約更新だろうな」
「本当ですか? 嬉しいです♡」
最後に綾御前だが、
「……」
既に寝ぼけまなこだ。
寝る前に少し
「寝酒したな?」
「……」
フルフルと小さく首を振る。
「全く。寝る前に飲むなよ。厠、近くなるぞ?」
「……」
「この野郎」
イラっとした大河は、綾御前を抱き寄せては、囁く。
「綾が厠に行く時間すら惜しいのになぁ。残念だよ」
「!」
綾御前は目を見開き、大河を見た。
「……我慢する」
「漏らすなよ?」
「善処する」
そう決意表明すると、綾御前は大河と熱烈な接吻を行うのであった。
万和6(1581)年5月1日。
学生たちを見送った後、大河は、
・井伊直虎
・綾午前
・小少将
と部屋に入った。
この3人なのは、子供に関する話し合いを持ちたかったからだ。
立会人には大河の侍女である、
・幸姫
・甲斐姫
・鶫
・珠
・楠
・小太郎
・ナチュラ
の7人。
夫婦の話し合いに立会人が居るのは、
こういうことは、現代でも外交の場の会談を行う時、首脳同士以外に第三者(例:通訳など)を証人用に配置するのが規則だ。
「真田様、私に子供は居ないのですが?」
綾御前の子供は、2男2女。
それぞれ史実では、
長男・義景→10歳で早世
次男・景勝→謙信の養子へ
長女・? →上杉景虎室(定説)
次女・華姫→畠山義春室(定説)
となっている。
「これからの話だよ」
「! ……はい♡」
今までは義母妹・謙信に配慮していたが、累を出産して以降、その優先度は綾御前に移りつつある。
綾御前を膝に乗せ、小少将と直虎を左右に侍らせつつ、話を進める。
「君達の同期である春は妊娠した。残りは君達だ」
「「「……」」」
「無論、阿国などもまだだが、君達は
「「「……はい」」」
徳川家康が性病対策の為に
大河もまた、性病対策の観点からも彼女達のような元人妻を
綾御前を抱き締めつつ、大河は続ける。
「生まれてきた子供には、無関係に好機を与えたい。年齢も性別も生まれた順番も無関係にな?」
「! それって?」
真っ先に小少将が反応した。
「そうだよ。この家の継承者だ」
「「「!」」」
今まで大河は、あくまでも「子供の将来は子供が決めること」という信条によって後継ぎに自ら言及することは少なかった。
「誾たちとも既に話し合っているよ。だから、積極的に
直虎が挙手した。
「後継ぎの基準は御座いますか?」
「・才ある者
・人格者
・希望者
「……三つだけ?」
「ああ。じゃなきゃ、認められないな」
「「「……」」」
基準が明らかになったのはありがたいことだが、大河が挙げた二つとも具体的な話ではない。
最終的な判断を下すのはやはり家長の大河なので、彼の好む「才ある者」「人格者」なのだろう。
「希望者、というのは?」
「子供の人生は子供が決めることだ。親が決めるものではない。子供が本気で志すのであれば、俺はその心意気を
「……直政はどうですか?」
「直政が望めばな。ただ……」
「ただ?」
「あいつは血気盛ん過ぎる。それが問題点だ」
「……はい」
武勇に秀でる直政だが、唯一、大河が問題視しているのは、その人格だ。
直政は、史実において有能な武将だが、その分、軍規には非常に厳しく多くの家臣が
例
・
・
・
これほど沢山の家臣が離れるほど軍規が厳しかったのは、井伊氏が外様だったからだろう。
井伊氏が今川氏の家臣になったのは、今川氏が建武3(1336)年に遠江国の守護職を得た時期からだ。
以来、今川氏の家臣としての歴史を作っていくのだが、
・花倉の乱(1536年 今川家の家督を巡るお家騒動)
・河東の乱(1537~1545年 今川氏対北条氏の合戦)
で井伊氏は、この両方で反義元派に属すなど、決して忠臣とは言いがたかった。
これらの経緯が影響しているのかは定かではないが、直虎の父・井伊直盛が桶狭間合戦で戦死後、その養子である直親は
その後、井伊氏は徳川家に服属したが、元々、今川氏側だった為、信頼を勝ち取る分、家臣に厳しい姿勢を強いたのだろう。
これが功を奏したのか、井伊氏は、徳川家の元で着実に力をつけ、江戸時代には彦根藩主の地位を得るまでに出世している。
長期的に見れば成功例だろうが、近場の家臣には心理的圧力が大きく、大河もあまり評価はしていない手法だ。
「先日の体育でも騎馬戦で1番槍したそうだな?」
「……はい」
「ああいう所は上に立つ人間には似つかわしくない。改善すれば検討の余地はあるけど、流石にあれはなぁ」
上を失えば組織は総崩れする可能性がある以上、あまり推奨できないことだ。
大河の理路整然とした言葉に、直虎は首肯するばかりであった。
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