第676話 瓜葛之親

 妻と過ごす日々の中でも、大河は連れ子とも積極的に交流していく。

 万和6(1581)年4月26日。

 過越祭、復活祭の翌日。

 大河は、朝から井伊直政と飲み交わしていた。

義父上ちちうえは、お酒を1滴も飲まれないんですね?」

「苦いし不味いからな」

 と言っても、2人が飲んでいるのはお茶だ。

 未成年者飲酒禁止法が無かった戦国時代、未成年者の飲酒は合法だった。

 その為、アルコール依存症患者が多く、急性アルコール中毒で死亡する若者も多かった。

 その状態を取り締まったのが、大河だ。

 未成年者飲酒禁止法を制定し、飲酒に関する規則を作ったことで、一気に減っていた。

 制定した本人が、義理の息子と酒を飲み交わすのは、二重基準ダブルスタンダードであり、国民の耳に届けば反感を買うことは間違いない。

 大河の隣には、直虎が居た。

「真田様♡ 三河茶をどうぞ」

「ありがとう」

 直虎が持ってきた三河茶を飲む。

 反対側には、稲姫も居る。

 大河に抱き着いては、三河国(現・愛知県)名物の瓦煎餅かわらせんべいを頬張っている。

「直政、授業で分からないことは?」

「ありません。国定教科書の御蔭です」

 国定教科書は、文部科学省に居る彼の家臣が作ったものだ。

 物理や化学などは、日ノ本でトップクラスの科学者(化学者)たちが集まり、激しい議論の末、作られ、国語の教科書もやはり、

一色直朝いっしきなおとも(? ~1597?)

木山紹宅きやまじょうたく(? ~1597)

飛鳥井雅春あすかいまさはる(1520~1594)

里村紹巴さとむらじょうは(1525~1602)

・細川幽斎(1534~1610)

近衛前久このえさきひさ(1536~1612)

徳大寺公維とくだいじきんふさ(1537~1588)

今川氏真いまがわうじざね(1538/1539~1615)

里村昌叱さとむらしょうしつ(1539~1603)

乗阿じょうあ(1540~1619)

円珠尼えんじゅに(1543頃~1582)

西洞院時慶にしのとういんときよし(1552~1640)

中院通勝なかのいんみちかつ(1556~1610)

冷泉為満れいぜいためみつ(1559~1619)

飛鳥井雅庸あすかいまさつね(1569~1616)

木下勝俊きのしたかつとし(1569~1649)

里村昌琢さとむらしょうたく(1574~1636)

 と、同時代を代表する連歌師などの歌人が集まって作成された。

 問題は、歴史の教科書だ。

 愛国的に作れば民族主義を煽ることになり、自虐的になれば国力が衰退しかねない。

 公正中立が最良なのだが、作り手次第ではどちらにも寄りかねない為、均衡バランスが難しいのだ。

 なので、歴史のみ大河が直接関わり、極力、公正中立になるように調整している。

 無論、歴史は常に最新の資料が発見され、掲載当時は定説だった場合でも、後年には否定される可能性があることは否めないが。

「侍の君には、悪いがこれからは、勉学も大事な時代だ。最終学歴は任せるが、せめて義務教育は卒業して欲しい」

「分かっています」

 世の中には「大学を目指せ」と叱咤激励する親が居る中、大河は子供の最終学歴にこだわりが無い。

 何処どこを目標地点にするかは、子供次第なのだから。

「私は、軍学校に通って欲しいな。将来は、士官(少尉~大将)に―――」

「直虎、親が子の道を強要するな。俺達の仕事は、

①見守ること

適宜てきぎ助言すること

 だよ」

「はい♡」

 注意されても直虎は、デレデレだ。

 文字通り、『恋は盲目』である。

「今の時点で夢は決まっている?」

「は。首都防衛の担いたいです」

「じゃあどの道、士官を目指さないといけないな?」

「はい」

「採用基準は規定上、言えないが、兎に角、頑張れ」

「は」

 親として子供を応援したいが採用基準を言うと、公私混同になり、汚職の源泉になってしまう。

 大河が必要以上に法令を遵守しているのは、直政も分かっている為、無理に聴くことはしない。

 稲姫が囁く。

「(私には、お教えください)」

「(無理だよ。知らないから)」

「(え? そうなんですか?)」

「(俺と人事は別だから。人事がどんな奴を採用しようが、不採用にしようが、知らんよ)」

 当初、人事部は、

①志願者は絶対不採用採用(→諜報対策の為)

②最終学歴は、大学の法学部が望ましい(→法律家であれば、法的に対処可能)

③言動や思想的な問題点があってはならないこと

④スポーツの実績は全国大会出場以上

 などの案を大河に出したのが、彼は「採用基準は任せる」とし、介入を拒んだ。

 この結果、人事は自由な裁量を得た一方、重責を担うことになった為、当初以上に採用基準が厳格化になった、とされている。

 先の4点は現在も目安かどうかは定かではない。

「稲も入りたい?」

「千様を御守りする為には、今以上の成長が必要だからね」

「流石だ」

 感心しつつ、稲姫と直虎の2人を膝に乗せる。

 それから抱き締め、2人の間から直政を見た。

「母のことは俺に任せて文武両道ぶんぶりょうどうを精進するんだ」

「は」

 義父の助言に素直に頷く直政であった。


 直政と別れた後、大河は呼吸するかの如く、2人を抱いた。

 徳川家康の重臣である2人は、あまり恋を知らない。

 直虎は結婚し、直政を養子にしたものの、激しく愛された事は無い。

 稲姫も初めての恋で、その手の話に耐性が無い。

 その為、2人は、大河の激し過ぎる愛に悪戦苦闘だ。

 何とか2人して迎え撃つも、膃肭臍オットセイ並に性欲の塊である大河に勝てる訳も無く明け方には、

「「……」」

 折り重なるように2人は、布団の上で倒れていた。

「精進することだ」

 笑顔で大河は、寝室を出ていく。

「お早うございます。お疲れ様です」

 鶫が挨拶した。

「お早う。待った?」

「いえ。若殿は相変わらず元気ですね?」

「若いからな」

 鶫と手を繋ぐ。

「……誘っていますか?」

「ああ。嫌か?」

「いえ。嬉しいです♡」

 握り返し、鶫は微笑む。

 相当、寝不足な筈なのに愛してくれるのは素直に嬉しい。

「お風呂では、珠、ナチュラもお待ちです」

「分かったよ」

 大河は益々、握力を強めていく。

「若殿、軍事に関してご相談なんですが……」

「風呂場でゆっくり聞くよ」

「あ♡」

 大河にお姫様抱っこされ、鶫は赤らむ。

「鶫、好きだよ」

「私もです♡」

 中身0の会話をしつつ、2人は風呂場に意気揚々と向かうのであった。

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