第658話 錦上添花

 万和6(1581)年3月9日。

 国立校にて、卒業式が行われる。

 国立校には、

・幼稚園(管轄者:文部科学省)

・保育園(管轄者:厚生労働省)

・初等部

・中等部

・高等部

・短期大学

・大学

・大学院

 が存在する為、各所では賑やかだ。

 大学生ははかまで着飾り、高校生以下はブレザーなどで集まっている。

「はい、ちーず」

 カメラで思い出の写真を撮る卒業生が居る中、大河は愛妻と過ごしていた。

 今回、妻達の中で晴れて卒業を迎えるのは、

・幸姫  →大学

・甲斐姫 →大学

・珠   →高等部

・朝顔  →中等部

 の4人。

 この内、幸姫と甲斐姫は、大学生の集まりで現在は、別行動だ。

「真田は、卒業式、参加するのか?」

 腕を組む朝顔が、そう尋ねた。

「いいや。学生の晴れの舞台に大人は邪魔だよ」

 こういう場面でよく校長などが長話をするが、内容次第では時間の無駄だ。

「「「陛下~」」」

 中等部の女子中学生たちが手を振る。

「あ、友達。ちょっと行っていい?」

「気にするな。楽しんで来て」

「ありがとう」

 朝顔は大河の手から離れて学友の輪の中に入っていく。

 空いた手を今度は、珠が握る。

「陛下も楽しそうですね?」

「親友らしいからな。俺の出る幕は無いよ」

 見た所、集団は、朝顔と冗談を言い合い、写真を撮り合っている。

 肩書は「上皇」だが、中身は15歳なので、年相応と言えるだろう。

 頭上には空軍機が飛び交い、ブルーインパルスの如く、スモークを見せる。

『卒業おめでとう』と。

「珠」

「父上?」

「来たよ」

 明智光秀がスーツで来て、珠を抱き締める。

「卒業おめでとう」

「今日、仕事は?」

「真田様のご配慮で無いよ。だから、呉服屋で仕立ててもらった」

「まぁ」

 振り返ると、大河は、手を振って離れていた。

 父娘水入らず、と判断したようだ。

「もぉ若殿ったら……」

「感謝だな」

 光秀は笑顔で珠を抱き寄せ、上司であり義理の息子を見送るのであった。


 珍しく1人になった大河は、自販機前のベンチに座る。

 喧噪はやがて静かになっていき、卒業生の姿も見えなくなっていく。

 各体育館で式が始まったのだ。

「……」

 ボーっと、空を見上げていると、

「失礼します」

 隣に鶫が座った。

「今日は、非番では?」

「だからこそ遊びに来ました」

 ふと目をやると、周囲を、

・小太郎

・姫路殿

・稲姫

・阿国

 が囲んでいた。

「失礼します♡」

 大河の膝の上に阿国が座る。

「おいおい、俺は椅子じゃないよ」

 と、言いつつ、大河は阿国を抱き締める。

 何だかんだで、妻が傍に居ないと生きていけない寂しん坊な軍人なのだ。

 残りの3人もベンチに腰掛ける。

 皆、今日は非番なのだが、卒業式を見に来たようだ。

 卒業式に無関係な生徒は、授業は無い。

 なので、卒業式の間は、手持無沙汰てもちぶさたである。

 そんな彼らを標的にしているのが、国営の飲食店だ。

 卒業式には、人が集まる=商機しょうきだ。

 国営企業の屋台が集まり、

・焼き鳥

・唐揚げ

・おでん

・ホットドッグ

 など、多くの食べ物が香ばしい匂いで誘っている。

「真田様♡」

 阿国が頬ずりし、たこ焼きを指さす。

「あれを買って下さいな♡」

「よしきた」

 阿国をお姫様抱っこしつつ、立ち上がる。

「皆も欲しいのあれば買うからな?」

「「「「はい♡」」」」

 稲姫、姫路殿、小太郎、鶫は笑顔で首肯した。

 彼女達もお金を持っているのだが、あまり使わず、貯金するようにしている。

 その理由は、

・化粧

・子育て

 などである。

 女性は男性と違い、化粧をする機会が多く、その分、美容にはお金がかかりやすい。

 一応、国営企業が安価で高品質なものを売っているのだが、民間企業も良い商品を売り出すようになった為、女性陣は高級品のそちらの方に興味津々なのだ。

 子育ての方は、「最高の教育」を受けさせたい為である。

 名家出身者が多い分、子供に、

・ピアノ

・柔道

・水泳

 などの習い事を受けさせたい親も多い。

 学校教育は無償だが、これらの習い事は、有償ゆうしょうだ。

 講師や内容によっては、受講料も高くなる。

 大河に頼めば出してくれる可能性が高いが、いつも頼りっきりな為、流石にこういうのは出したい。

 そんな風潮が、山城真田家の女性陣の間には、浸透していた。

「たこ焼き、6人前お願いします」

 卒業式が静かに行われる中、大河は、阿国達と屋台を見て回るのであった。

 

 世間的に大河は、

・朝顔の夫

・近衛大将

・日ノ本一の英雄

 といった心象イメージが根強く、近寄りがたいのだが、生徒には「気のいい兄ちゃん」「優しい先輩」のような感じだ。

「「「せんぱ~い♡」」」

 卒業式で暇な分、女子生徒たちの標的は大河に向けられた。

 大学3回生、高校2年生、中学2年生の集団が囲う。

「あ、奥様と一緒?」

「「「ひゅ~ひゅ~」」

「熱いねぇ~」

 集団はからかい、阿国は赤くなる。

 日ノ本一の踊り子のその反応に女子生徒たちは、更に面白がった。

「「「阿国さま、かわいい~♡」」」

「もう、次の単位、あげないよ?」

「あ、照れてる~♡ 普段は、鬼教師の癖に」

 戦前までは、日本の教育では教員は神様のように見られ、体罰も横行していた。

 しかし、日ノ本では体罰を全面的に禁じ、教員と生徒の壁を取り払っていた。

 阿国が焦った顔で見る。

「真田様、鬼教師というのは生徒の嘘でして……」

「生徒を嘘つき呼ばわりするのか、教員なのか?」

「うえ……」

 タジタジの阿国。

「「「……」」」

 ニヤニヤの女子生徒たち。

「……もう」

 阿国は、恥を忍んで大河の胸板に顔を埋め、その視線から逃れる。

 後にこの出来事は、『鬼教師羞恥しゅうち事件』として長く校内で語り継がれるのであった。


 外見上、平和な卒業式だが、国立校の周辺は、私服警官が大量に動員された厳戒態勢である。

 これは、学校への襲撃事件への対策であった。

 学校と言う場所は、

・子供が多い

・教職員が非武装

 という面から犯罪者やテロリストから標的になりやすい。

 事実、古今東西、学校襲撃事件は、数多く発生している。

 21世紀以降、10人以上の死者が発生した事件は、以下の通り(*1)。

 ―――

 2002年4月26日 独 エアフルト(死者16 犯人射殺)

 2004年9月1~3日 露 ベスラン学校(死者355 犯人31)

 2007年4月16日  米 バージニア工科大学    (死者33 犯人自殺)

 2008年9月23日 フィンランド 職業訓練学校(死者10 犯人自殺)

 2012年4月29日 ナイジェリア バエロ大学    (死者約20)

 2012年12月14日 米 サンディフック小学校(死者26 犯人自殺)

 2013年9月29日 ナイジェリア 農業大学学生寮(死者40)

 2014年9月17日 ナイジェリア 教育大学   (死者13)

 2014年12月16日 パキスタン ペシャーワル学校(死者147 犯人7死亡)

 2015年4月2日  ナイジェリア ガリッサ大学 (死者147)

 2016年8月14日 アフガニスタン アメリカン大学(死者13)。

 2018年2月14日  米 マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校

        (死者26 犯人逮捕)

 2018年5月19日 米 サンタ・フェ高校(死者10 犯人投降)

 2022年5月24日 米 ロブ小学校銃  (死者21 犯人射殺)

 これら全てが日本国外で起きており、日本人の多くは「対岸の火事」と捉えているかもしれない。

 しかし、日本でも少数ながら起きている。

 1999年12月21日 京都市H小学校(死者1 犯人自殺)

 2001年6月8日  大阪府I小学校 (死者8 犯人死刑執行)

 ……

 ―――

 なので、「日本では絶対安全」とは良いがたいのが現実だ。

 大河が気にするのも事実だろう。

「「「……」」」

 大河子飼いの家臣団は、市民に偽装カモフラージュし、出入りする人々の一挙手一投足を監視するのであった。


[参考文献・出典]

*1:ウィキペキディア

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