第653話 内閣総理大臣・羽柴秀吉
『【史上最高の成功者の誕生】』
『【百姓から首相へ】』
『【織田王朝終焉へ】』
『【長浜ではお祭り騒ぎ】』
……
羽柴秀吉の首相就任は、号外になるほどであった。
民衆は、口々に言い合う。
「前首相は、どうなるんだ?」
「貴族院議員におさまるらしい。政治では地味だったが、最後に外交で大手柄だからな。功労者には相応の要職だろう」
「外交って……噂じゃ近衛大将が裏で手引きしたって話だが?」
「外交の専門家だからな。少し位は助言はあるだろうね」
世間の信孝の評価は、『
国内政治では、それ程目立った功績は残せなかったからだ。
その代わり、外交では、
・台湾共和国での治安維持の協力
・太陽王国との外交関係樹立及び保護国化
・新大陸保護国化
等、活躍を見せたが、それでも国内では何もしていなかった感が否めない。
その為、国民も退任には、それ程同情的ではなかった。
史実では本能寺の変の翌年の天正11(1583)年、賤ヶ岳合戦にて、柴田勝家に
①『
(=母の名を戴いて付けた梓弓よ、私が稲葉の山で亡くなろうとも、秀吉を射取ってくれ)
②『昔より
(=野間は、源義朝が家来に討たれた場所であり、その男も義朝の子・頼朝に殺されたから主家筋の自分を殺した秀吉もその様な目に遭うぞ)
と辞世の句を詠み(どちらの出典も江戸時代である事から創作の可能性もあり)、壮絶な割腹自殺を遂げた信孝であるが。
この世界線では、幸せな隠居生活が確定路線となった。
世間ではそんな空気感の中、黒幕・大河はというと。
「姫、そこを宜しく」
「はい♡」
姫路殿に肩を揉ませつつ、瓦版を読んでいた。
読んでいるのは、愛姫が連載している新聞小説だ。
肩もみを中断し、姫路殿が肩に顎を乗せて覗き込む。
「愛様の面白いですか?」
「う~ん。よく分からないが、親としては気になるからな」
「子供想いですね♡」
「当たり前だよ。大事な子供なんからな」
愛姫と大河は、養子と養父の関係性だ。
にも拘わらず、これ程までに愛情を注ぎこむのは、虐待が目立つ世の中からすると、珍しい事だろう。
「先日、発表された絵本、増刷が決まった様ですね?」
「らしいな。歌舞伎の演目にも採用されるらしい。天才だよ。
感心しつつ、大河は、新聞紙を閉じた。
新聞読了後、姫路殿と混浴した後、大河は、私室に戻ると、
「あれ?」
「あら?」
2人の声が重なった。
それもその筈、大河の寝室で綾御前とお市、それに豪姫と与免が寝ていたから。
「……俺、昨日、寝たっけ?」
「いえ。昨晩は、
姫路殿以外は、早朝、珠や小太郎、鶫、楠が搬送した為、居ないのだが、まさか別の4人が入れ替わりで来ているとは思いもしなかった。
恐らく入浴中に侵入し、待機中に睡魔が訪れ、そのまま二度寝したのが、真相なのだろう。
4人の内、綾御前が目を覚ます。
「……」
そして、呆けた顔で2人の間を素通りし、厠へ向かう。
「……寝ぼけてるな?」
「寝ぼけてますね」
通過時、酒の臭いがした為、昨晩は謙信辺りと
厠で用を済ませ、寝室に向かおうとした時、
「……あ」
「「あ?」」
綾御前は、大河の顔をマジマジと見詰め、
「……あ、な……た?」
と言い、抱き着いた。
そして、落涙しながら接吻する。
「……!」
驚く姫路殿とは対照的に大河は至って冷静で、
「……」
接吻を受け入れ、その身を抱き締める。
綾御前がこの様な状態に陥ったのは、まだ夢の中に居るのだろう。
要は、寝惚けて前夫・長尾政景と誤認しているのだ。
「貴方、貴方♡」
泣きじゃくりながら綾御前は、大河を強く抱き締める。
段々と声が大きくなってきた為、このままだと熟睡中の3人を起こす可能性が出て来た。
「……」
大河は指パッチンすると、天井裏から楠が出てきては、
「失礼」
綾御前の首筋に手刀を叩き込む。
「!」
瞬時に意識を奪われた綾御前は、前のめりに。
「よっと」
それを大河は、抱き留めた。
「良い具合だ」
「
楠は眠いのか手を振って、天井裏にパルクールの要領で戻っていく。
自室を用意されているにも関わらず、そこを
余談だが首に手刀を加えるのは、力加減を間違えてしまうと殺傷しかねない為、素人には、難しい技術である。
気絶した綾御前を大河は、御姫様抱っこする。
「……これからどうするんで?」
「そりゃあ部屋に運ぶさ」
綾御前の部屋に行くと、案の定、謙信も居た。
2人して遅くまで晩酌していたのだろう。
居間の机や布団の周囲には、酒瓶が転がっている。
2人は、身内であると同時に悲しい過去を持った者同士だ。
綾御前は長尾政景、謙信は伊勢姫と其々、死別している。
そんな悲恋な過去を持つ者同士が同じ男を共有しているのだから、絆は強い。
「……伊勢……」
謙信も夢の中で伊勢姫と再会している様だ。
酒は、時に現実を忘れさせる。
2人が酒に手を出しすのは、その辛い過去がフラッシュバックする為、忘れようとしたり、飲む事によって幻覚の中で再会しているのかもしれない。
「……」
「若殿?」
段々と、大河の顔付きが険しくなる。
「あんまり過去の事はとやかく言わんが、やっぱり目の前でされると、寝取られた気分になるわな」
「!」
口角を耳元まで吊り上げ、大河は嗤った。
本能から危機を感じ取った姫路殿は、後ずさり。
「あ、用事を思い出した為、今日はこれにて―――」
「駄目だよ♡」
無邪気な子供の様な可愛らしい声を出しつつ、大河はその手首を掴んだ。
「ひ!」
「本当、駄目だよなぁ。俺は。重いね。本当に」
ブツブツと呟きつつ、片手で綾御前を御姫様抱っこしたまま。
もう一つの手では、姫路殿を掴んだまま、大河は、熟睡中の謙信の下へ行く。
そして、器用にも(?)足で襖を閉めるのであった。
[参考文献・出典]
*1:『天正記』
*2:『太閤記』『勢州軍記』等
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