第646話 前田最上紛争
最上義光は、愛娘・伊万を溺愛していた。
それ故に、よく会う。
週末の休日。
久々に屋敷に戻って来た愛娘と父親は、語り合う。
「伊万、最近、近衛大将によくされている?」
「はい。父上。基本的に仕事の9割が暇な位、好待遇です」
鶫、小太郎、ナチュラ、直虎、楠の武人系侍女とは違い、文官に近い侍女は、基本的に
仕事と言えば、
・洗濯物
・調理
・掃除
位で唯一忙しいのは子育てなのだが、それも輪番制や母親自身が看る事もある為、長時間従事する事は無い。
「暇な時は何を?」
「勉強です。和歌や調理、歴史、政治等を」
蹴鞠等で遊んでも良いのだが、山城真田家では、資格手当がある為、侍女はそれ目当てに勉強を惜しまない。
資格は難易度によっては手当の額が違う為、当然ながら難易度が高いものは、猛勉強が必要だ。
「近衛大将は、
行基(668~749)は、奈良時代、東大寺の建立に関与した1人だ。
困窮者の救済も行った事から、後に歴史家・北畠親房(1293~1354)が著した『神皇正統記』《じんのうしょうとうき》(1339~1343)にて、
・聖武天皇(45代天皇 701~756 在位:724~749)
・
・
と共に『四聖』に数えられている(*1)。
「東北は?」
「伊達殿と開発しているよ。近衛大将が主導された『白銀計画』の御蔭だ」
奥州藤原氏以来、東北地方では最盛期が遠のき、貧困化が進んでいたが、北海道同様、特別開発地域に指定され、多額の予算が投入されていた。
その結果、仙台を中心に東北地方は、急成長。
今やコンクリートジャングルになりつつあった。
所得倍増計画も成功し、民衆の懐にも余裕が出来、以前の様な反乱や暴動は、極端に減っている。
この為、東北地方の大名は、統治がし易くなっていた。
最上義光もその内の1人だ。
「いつか若殿を地元に御招待したいですね」
「そうだな。それと伊万。前田殿の御令嬢はどうだ?」
「あー……」
伊万の顔が俄かに曇る。
「摩阿様は
「そうか……」
摩阿姫は、他家でも警戒されている。
武田家、最上家等は、秘かに彼女に関する情報を集めている程だ。
「伊万、分かってると思うが、君は我が家と山城真田家を繋ぐ希望の橋だ。近衛大将とは、極力仲良くする様にな?」
「はい♡」
父娘の会話は、夜遅くまで続く。
翌日の日曜日。
伊万は、京都新城に入った。
毎週末の土日は必ず休めるのだが、伊万は金曜日の夜に屋敷に戻り、日曜日の朝に登城する様にしていた。
理由は、単純明快。
恋敵が多い為である。
日本では、性的同意年齢が強制猥褻罪及び強制性交等罪により、13歳以上と定められている。
―――
『第176条【強制猥褻】
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて
13歳未満の者に対し、猥褻な行為をした者も、同様とする』(*2)
『第177条【強制性交等】
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする』(*2)
―――
大河はこれを基に日ノ本版を作り、性的同意年齢を16歳以上に引き上げた上で、日ノ本版強制猥褻罪及び強制性交等罪を作った。
朝顔が「同衾するのは、16歳まで待って」との意向に沿った形である。
尤も、諸外国では、概ね16~18歳に設定(*3)され、2008年には国連が日本に対し、引き上げる様に勧告している(*3)事から、場合によっては、日本も将来的には、勧告に従って引き上げるかもしれない。
話は日ノ本に戻るが、この法律がある為、伊万の恋敵は、16歳未満の者に限られる。
筆頭は朝顔(15)だが、上皇を恋敵と見る程、彼女は愚かではない。
その為、注目しているのは、
・与祢(10)
・摩阿姫(8)
・豪姫(7)
・与免(4)
・千世(1)
の5人。
この中で与祢が最速で16歳に達し、大河の寵愛を得る筈だ。
この結果、与祢も除外され、同世代である前田家四姉妹が、最も警戒されるべき仮想敵であろう。
その証拠に日曜日にも関わらず、大河の周りを囲んでいる。
流石に千世は、芳春院の下に居る為、この場には居ないが、残りの3人は、当たり前の様に居る。
3人は、大河の膝を陣取り、笑顔だ。
「真田様、これは何て書いてますの?」
「『
「にぃにぃ、物知り~♡」
「あ~い~♡」
3人は、キャッキャッしながら洋書を
大河の右脇には井伊直虎、左脇には小少将。
背後には、楠、阿国が其々抱き着いては、一緒に読書を楽しんでいる。
「若殿は、物知りですね。次は、直政に御教授お願いします♡」
「では、私は愛王丸に♡」
2人の寡婦は、自身の子供への教育を願い出る。
直政、愛王丸は共に国立校で最高の教育を受けているのだが、大河が講師だと学習意欲が違うのかもしれない。
「分かったよ。時間が合えばな」
一見、無理なお願いかもしれないが、大河にとっては直政、愛王丸は義理の息子に当たる為、父親が子供に教育する様なものだ。
世の中には、連れ子を虐待する親も居るが、一切、彼にはそんな空気は無い為、連れ子も安心して京都新城で遊ぶ事が出来る。
尤も、直政、愛王丸は、母親が余りにもイチャイチャする為、気を遣って(というか、余り見たくない為)殆ど京都新城に来る事はあっても天守には中々来る事は無いが。
「……」
周囲には、与祢や珠が居ない。
恐らく、伊万同様、実家に一時帰宅しているのだろう。
キョロキョロしていると、
「おお、伊万。お帰り~」
大河が手招き。
「あ、は~い♡」
直々に指名されるのは、子供ながらの特権だ。
一方で、甘やかされている感じが否めず、「1人の女性」として接してもらいたい伊万には、複雑でもあった。
「与免、済まんが、ずれてくれ」
「は~い♡」
素直に与免は、少し空間を作る。
「与免様、有難う御座います。失礼します」
伊万がそこに座った。
これで大河の膝の上には、
・摩阿姫(8)
・豪姫 (7)
・与免 (4)
・伊万 (8)
が鎮座する。
4人の平均年齢は、6・75歳。
大河の年齢からすると累と同じ世代なので、彼女同様、子供の様に接しているのだが、4人の正確な肩書は婚約者。
現代社会では、とても容認出来ない関係性であろう。
「若殿は先程から何をお読みなので?」
「これだよ」
大河が表紙を見せた。
『ろみお と じゅりえっと』
敵対関係にある家柄に生まれたロミオとジュリエットの悲恋の物語である。
作者は愛姫で、原案者はヨハンナとマリアだ。
最近出された新作で、『源氏物語』を
直近の戦国時代、同じ様な事例があった為、現代日本人よりかは感情移入し易いのだろう。
「ろみお様、若殿に似てます?」
「ほんとうだ。にぃにぃ似!」
伊万の指摘に、豪姫も続く。
「そうみたいだな」
大河は、苦笑交じりに肯定する。
「にぃにぃは、ろみお♪」
謎の歌を歌い出す豪姫。
それに釣られて与免も歌う。
恋敵で睨み合う冷戦ではあるが、大河が居る前では、平和な雰囲気が醸し出されるのであった。
[参考文献・出典]
*1:コトバンク
*2:WIKIBOOKS
*3:ウィキペディア
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