第636話 天覧試合

 下馬評では、丹波橋高校有利と見られていたが、試合開始後は、御国高校が優勢となる。

 ボール支配率7割の下、猛攻を仕掛け、丹波橋高校は防戦一方だ。

 当然、この状況に丹波橋高校のフーリガンは、激怒する。

「攻めんかい、あほ!」

「あんた、ええ加減にしよし!」(*1)

「何しとうやす! 阿呆あほう見るで」(*1)

「大概におしやす!」(*1)

 自尊心が高い京都至上主義者達は、事実上の本拠地ホームで地元校が悪戦苦闘している姿に鬱憤うっぷんが溜まっていく。

 それが相手が高校生であっても、だ。

 怒号の一部は、御国高校応援団にも向けられ、言わずもがな、彼等も応戦する。

「この馬鹿ふうけもんが!」(*2)

殴るうったくぞ?」(*2)

 ほぼ毎回、決勝トーナメントで顔を合わせ、しのぎを削る分、両校の対決意識は、非常に強い。

 野球の例

・早稲田大学対慶応大学

・読売巨人軍対阪神タイガース

・ニューヨークヤンキース対レッドソックス

 等

 サッカーの例

・レアルマドリード対FCバルセロナ

・浦和レッズ対ガンバ大阪。

 等

 と、伝統の一戦ダービーマッチが存在するが、両校はそんな感じなのだろう。

 尤も、日ノ本の場合は、深刻な地域格差も影響している。

 国会の予算は、何かと大都市圏が優先される為、基本的に何事も京阪に大規模な予算が充てられ、地方は後回しになり易い。

 その為、都会はどんどん先進的になり、地方の発展は遅れ易い。

 たちが悪いのは、これに目を付けた京都至上主義者が過度に地方を見下す現象だ。

 何かと「田舎者」と馬鹿にし、縁談でも相手が地方出身だと判ると白紙になる例もある。

 そういった事から、一部の地方出身者や地方在住者には、京都という所は、余り評判が宜しくないのであった。

 遂には、フーリガン同士が取っ組み合いを始めた。

 グラウンドには、発煙筒や花火が投げ込まれ、試合は、中断せざるを得ない。

 エリーゼが、デイビッドを抱っこしつつ、呟いた。

「まるで永久の試合ヴェチティ・デルビね」

 エリーゼが例えたのは、”欧州ヨーロッパで最も危険な伝統の一戦ダービーマッチ”と称されている、

 フドバルスキ・クルブ・ツルヴェナ・ズヴェズダ(英名:レッドスター・ベオグラード)

 対

 フドバルスキ・クルブ・パルティザン(英名:パルチザン・ベオグラード)

 の事だ(*3)。

 両チームとも英語名に「ベオグラード」という地名が入っている事から、セルビアのクラブである事が分かるだろう。

 両チームの対決は、1947年以来、行われ、その対抗意識の熱さから、

エターナル・ダービーヴェチティ・デルビ

ベオグラード・ダービーベオグラズキ・デルビ

セルビア・ダービースルプスキ・デルビ

 と呼ばれている(*3)。

 試合前に発煙筒が焚かれたり、1997年には観客席から観客席にロケット弾が撃ち込まれ、死者が出る(*3)等、事件も絶えない。

「フーリガン対策はしているのよね?」

「勿論だよ」

 大河は、大きく首肯した。

 見飽きた与免を膝の上で寝かしけつつ、姫路殿と幸姫を左右に侍らせた状態で。

「ほら」

 顎で示すと、機動隊が突入し、フーリガンを鎮圧していく。

 警棒で頭の形が変わる位のタコ殴りだ。

 現場の指揮官は、明智光秀である。

 大河の命令の下で動き回っている。

 大河がフーリガンを問題視しているのは、その過激さも然る事ながら、「外国人排斥を掲げ、宗教差別的態度を採っている」(*4)(*5)事だ。

 純日本人が99%な日ノ本では、外国人に数でマウントを取る悪い日本人も居る。

 又、耶蘇教排斥論者も居る為、これらの勢力は、フーリガンと結びつき易い。

 現代でも差別横断幕事件(2014年3月8日)が起きた様に、日本でも実際にその様な事件は起きている。

 多様性を重んじる大河が、警戒を強めるのは、当然の事であった。

 

 発煙筒と花火の影響で一時中断になったが、半刻(現・1時間)後には、試合が再開する。

「うまうま♡」

 最初に興味を示したお江は、今や飽きてケータリングのお菓子に夢中だ。

 お市も心愛に抹茶のお菓子を食べさせている。

 前田家四姉妹もそちらの方に行っている為、大河の下に居るのは、楠、直虎、綾御前、小少将、阿国、松姫の6人。

 其々それぞれ

 膝の上→楠、小少将

 右隣 →直虎

 左隣 →綾御前

 背後 →阿国、松姫

 と位置だ。

 大河は背凭せもたれと化した阿国、松姫は、彼を抱き締めて後ろから胸筋を撫で回す。

 お江は花より団子だが、彼女達は花より筋肉の様だ。

「若殿、胸筋、気持ちいいです♡」

滑々すべすべです~♡」

「いや、触ってくれるのは嬉しいが、試合観ないの?」

「「試合より筋肉です♡」」

 2人は、尚も撫で回す。

 大河はそれを受け入れつつ、綾御前と直虎を抱き寄せつつ、膝の楠と小少将から食事介助を受ける。

「団子、お食べ♡」

「貴方♡ 御野菜です♡」

「有難う」

 野菜を先に、次に団子を食べる。

 その後、直虎、綾御前と接吻する。

「えへへへ♡」

「うふふふ♡」

 2人が微笑んだ時、主審が笛を鳴らす。

 ピー!

 前半終了の合図だ。

 御国高校の猛攻を丹波橋高校は45分間耐え忍び、0対0でハーフタイムに入るのであった。


 蹴球の起源は、諸説ある為、一概に特定の場所とは言い難いのだが、世界最古のサッカーリーグは、EFLイングリッシュ・フットボールリーグでその創立は、1888年3月22日である。

 同年、日本では、

 4月30日、黑田清隆が第二代内閣総理大臣に就任

 10月1日、小田原馬車鉄道(現・箱根登山鉄道)開業

 11月30日、日墨修好通商条約締結

 12月3日、香川県が愛媛県より独立

 が起き、とてもサッカーのプロ化の様な雰囲気は微塵も無い。

 又、Jリーグが平成3(1991)年なので、イギリスの方が103年進んでいる事になる。

 それに対し、日ノ本だが、野球に続いて、蹴球もプロ化していた。

 高校蹴球がこれ程、大人気なので当然、興行に成り得る、と考えた関係者が集まり、万和6(1581)年時点では、既にリーグ戦が始まっていた。

 Jリーグよりも410年、EFLよりも307年早い状況だ。

 フーリガンによる妨害ぼうがいはあったものの、後半は平和的に進む。

 そして、

「あ」

「これ……行けるかな?」

「! 入った!」

 地元・丹波橋高校の先制ゴールに、朝顔、ヨハンナ、ラナは大興奮だ。

 生まれて初めて見るゴールに喜び、ハイタッチを行う。

 マリアも表情には出さないものの、

「……」

 その手は、汗で濡れていた。

(公務は成功だな)

 上皇、元教皇、王女の琴線に触れたのだ。

 今後、日ノ本のサッカーリーグは、御上おかみ御墨付きという事で更なる発展を遂げるだろう。

 大河は、背凭れを堪能しつつ、直虎の接吻しながら思うのであった。 

 

 [参考文献・出典]

*1:大日本観光新聞 2018年5月16日

*2:自家製長崎弁辞典

*3:ウィキペディア

*4:『ワールドカップを100倍楽しむための フーリガン完全対策読本』

   安藤正純 石田英恒 ビジネス社 2001年

*5:『フーリガンの社会学』ドミニック・ボダン 訳・陣野俊史 相田淑子

   白水社〈文庫クセジュ〉 2005年



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