第625話 金亀換酒

 万和6(1581)年1月4日。

 大河は稲姫、姫路殿を連れて元康に会いに行く。

「元康。お早う」

「だ!」

 元康は、元気よく手を上げ、大河の足にタックル。

「3歳になったな?」

「うん」

 力士が鉄砲柱に向かって突っ張りを行う、所謂いわゆる鉄砲てっぽう』の様に突っ張りを繰り出す。

「お相撲さんになりたい?」

「うん!」

 それまで神事の傾向が強かった相撲を大河が、興行化した為、相撲は子供にも野球や蹴鞠サッカー等と並ぶ、人気のスポーツとして確立した。

 主にアメリカでは、

NFLアメリカンフットボール

MLBメジャーリーグベースボール

NBAナショナル・バスケットボール・アソシエーション

NHLナショナルホッケーリーグ

 が、北米4大プロスポーツリーグBIG4として、人気を博しているが、日ノ本では、

・相撲

・野球

・蹴鞠

 は、ほぼ不動の地位を得た、と言えるだろう。

 元康を抱っこして、顔を見る。

「じゃあ、将来は横綱?」

「うん!」

 元気が良い返事に大河は微笑み、

「「可愛い♡」」

 義母に当たる稲姫と姫路殿は、母性本能がくすぐられ、元康と遊ぶのであった。


 双六すごろく等で散々、遊んだ後、元康に睡魔が来た為、乳母車に寝かせる。

 侍女に呼ばれた千姫が様子を見に来た。

「久々に父上と遊んで体力を余り考えなかった様ですわね」

「そうらしいな」

 元康を気にしつつ、これからは、夫婦の時間だ。

 大河は、千姫の膝に頭を預け、耳かきをしてもらいつつ、稲姫を抱擁し、姫路殿に腰を揉ませる。

 まさに至福の時だ。

 千姫が優しく言う。

「山城様、稲は寂しく思っています。もう少し接して下さい」

「分かってるよ」

「あ♡」

 稲姫を抱き締めつつ、向かい側に居る甲斐姫、松姫、綾御前、井伊直虎、小少将の5人を見た。

「「「「「……」」」」」

 5人は侍女の様に正座して、羨まし気に見詰めている。

 付け入る隙が無い、という具合だ。

 大河は目線を送り、5人を呼ぶ。

 平等に愛する。

 これが、多妻な大河の方針だ。

 5人は目を輝かせて、近付く。

「も~私の時間なのに」

 千姫は抗議するも、本気の口調ではない。

 元康を産んだ為、心に余裕が出て来た様だ。

「松」

「は。千様、有難う御座います」

 千姫と隣に松姫が座り、大河は、2人から耳掻きを受ける。

 綾御前は大河の頭を撫で、甲斐姫と直虎はその足を揉み、小少将は耳垢を集めて捨てる形だ。

「綾は山城様とは?」

「はい。隔日かくじつ位の感覚で、愛されています」

「それは良かった♡」

 千姫は、1人ずつ声をかけ意思疎通を図っていく。

 彼女達は、義理の姉妹になり、中には、名家出身も居る。

 関係悪化は、家同士の対立にもなりかねない。

 昔は、我儘わがままでストーカー気質な千姫は、まるで冷静沈着な正妻の様に振舞うのであった。

 

 昼頃、大河は江戸城内の散策を始めた。

 雪が積もった江戸城は、京都を拠点にしている以上、中々見れない光景なので、珍しさがある。

 御濠おほりは、カチンコチンに固まり、大人が歩いても割れない位の固さがある。

(スケート出来そうだな)

 氷の中で固まった鯉を見つつ、大河は、冬のスポーツの興業化を考えていると、

「にぃにぃ!」

 防寒着を重ね着した豪姫が駆けて来た。

「おお、今日は初めて会ったな?」

「うん。さがした!」

「元気だなぁ」

 この寒い中、それ程元気なのは、羨ましい位だ。

 大河が抱っこすると、

「あ~に~じゃ~!」

 今度は、更に大音量なお江が走って来た。

 大河にタックルし、御神籤おみくじを見せる。

「あ、神社に行って来たの?」

「うん。春様とアプトと一緒に」

 本当は、日光東照宮に全員で行く予定だったが、お江は待ちきれず、妊婦の2人と一緒に近くの神社に行って来た様だ。

 日光東照宮への詣では強制参加では無い為、お江の様に先走っても別に構わない。

「大吉!」

「おお」

 太くしっかり書かれたその2文字に、お江は自慢げだ。

「申し訳御座いません」

「安産祈願して来たんです」

 勝手に行った事でお江が怒られる、と思ったのか、遅れて来た早川殿とアプトがフォローする。

「全然。ただ、そういうのは、止めないけど、事前に行ってくれ。警備上や、行方不明という事で大騒動になりかねいから」

 考え過ぎ、だと思うだろうが、高位者になればなるほど、狙われ易いのは、世のことわりなので、大河が危惧するのは当然の事だ。

「「……はい」」

 2人は、首肯した。

「全く」

 やれやれ、と言った感じで身振り手振りした後、大河はひざまずき、そのお腹に接吻した。

「この子達の事もあるからね。特に警備は、非常に重要なんだよ。分かってくれ」

「「……うん」」

 2人の頬にも接吻し、大河は、今年中に生まれて来る我が子に思いを馳せるのであった。


 妊婦を寒空の下、長時間立たせるのは、悪い為、直ぐに部屋に戻らせる。

 もう少し一緒に居たいが、2人は、他の妻に気を遣う為、泣く泣く別れ、大河も自室に帰る。

 そこでは、誾千代や謙信とお市、ヨハンナ、ラナ、マリアが甘酒を飲み、阿国が舞っていた。

 流石にどんちゃん騒ぎ、という程でも無いが、それでも結構、酔っている。

 謙信とお市は、トロンとした目で大河を見た。

「あ~浮気者」

「浮気者だ~」

 2人に手招きされ、大河は仕方なくその間に座る。

「「えへへへへ♡」」

 2人は、ベタベタと頬や太腿等を触りまくる。

「んしょ」

 軽く酔っている誾千代も甘えて、大河の膝に乗った。

 唯一、残った背後に、稲姫と井伊直虎は、目を合わせて、走り出す。

 そして、ビーチフラッグの様に稲姫が先に到着し、背中の位置を確保した。

 直虎は、目に見えて、悔しがる。

「ぐぬぬぬ」

 徳川家康の重臣の2人で普段は同僚の仲なのだが、大河を巡ると、やはり恋敵になる様だ。

 稲姫は、千姫許可の下、大河に甘える事が出来る様になった為、その愛情は一段と激しい。

「……♡」

 肩甲骨をクンカクンカ。

 頬擦りも忘れない。

 誾千代と接吻後、大河は、司馬懿の様に首を回し、稲姫とも行う。

 傍から見ればホラーな光景だが、多妻な分、複数の妻を同時に愛す得意技(?)を習得したのだ。

 そんな大河の首に腕を回した謙信は、はぁ、と酒の臭いを吐きかける。

「おいおい、酒って三が日までじゃなかったか?」

「無礼講♡」

「じゃあ、明日以降は禁酒だな?」

「そんなぁ」

 泣き上戸なのか、謙信はグスグスと泣き出す。

 酒が絡むと、本当に子供の様だ。

 死が身近にあり、又、アルコール依存症の概念が薄かった戦国時代では、酒を沢山飲んでもそれ程問題視されなかったが、平和になった今では『生』が重要視され、健康志向の高まりと共に、アルコール依存症は、余り好意的に見られていない。

 愛酒家である謙信は、酒を手放すのは、やはり厳しい様だ。

 涙ぐむ謙信に愛おしさを感じた大河は、その唇に口付け。

「……酒の味がするな」

「禁酒は、絶対?」

「今日までは良いよ。でも、長生きしてもらいから、明日以降は、控えめにな?」

「うん!」

 大河の許可が出た所で謙信は、酒を呷る。

「「鼻毛」」

 誾千代とお市から責められ、大河は縮こまるばかりであった。

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