第422話 無欲恬淡

 石見銀山国有化後、話し合われたのが、利益の先だ。

 信孝は、渋面だ。

「真田、三分割は出来ないかな?」

「・政府

 ・毛利

 ・尼子

 ですか?」

「ああ」

「売上次第ですね」

 綺麗に三分割出来る売上なら良いが、毎回、三分割出来るとは限らない。

 それで揉めるだろう。

「それに、返却を求めていた尼子が納得しないでしょうね。毛利にも行くので」

「気持ちは分からないではないな」

 仇敵に1銭たりとも渡したくない筈だ。

「尼子は、蜂起するかな?」

「恐らく。なので、秘密裡に派兵した方が宜しいかと」

「うむ。毛利の説得は出来たか?」

「はい。事後報告になりましたが、何とか」

「若し、毛利が蜂起したら、どうする?」

「自分が鎮圧に行きます」

「ほぉ……恩人ではないか?」

「それでも、です」

 大河に二心は無い。

 尽くすのは、国家の為。

 毛利には、大恩あるが、それとこれとは別だ。

「『忠臣は二君に仕えず』、ですよ」

「……」

 大河の言う「君主」というのは、帝の事だろう。

 国家公務員である為、政府の人間でもあるが、信孝には、どうしても不信感が否めない。

 ただ、敵対する気は更々無いが。

「分かった。毛利が蜂起した場合は、鎮圧に当たれ」

「尼子はどうします?」

「そうだな……父上の部下だからな。余り派兵はしたくないが」

 尼子氏は、対毛利という戦略から毛利と敵対する織田と良好な関係を深めていた。

 そっと襖が開く。

「首相、まだですか?」

 心愛を抱いたお市が睨む。

「もう終わります。失礼しました」

 冷や汗を掻いた信孝は、お市に一礼後、逃げる様に出て行く。

 信長から「お市に気を遣え」と厳命されている以上、この対応は正解だろう。

「……」

 お市は無言で隣に座る。

 未だに少年ver.なので、夫婦というより、母子感が強い。

「戦は、嫌よ」

「俺もだよ」

 首相を追い出した事を、大河は怒らない。

 不満はあるものの、お市の寂しさと比べると些末なものだろうから。

「zzz……」

 心愛は相変わらず、眠っている。

「皆、待ってるよ」

「分かった。帰るよ」

 2人は立ち上がって、

「その前に」

「そうだな」

 見詰め合う。

 そして、接吻した。


 大河と手を繋いで歩くお市。

 心愛は、侍女のアプトが抱っこしている為、今は、夫に全力で甘えられる。

 二条城から京都新城までは歩いていける距離だ。

 降りしきる雨の中、相合傘の2人はしっかりと握手している。

「もう骨折した所、痛くない?」

「ああ。多分、もうじきで完治だろうな」

「自分で判断しちゃ駄目よ。御医者様の許可が無いよ」

「分かってるよ」

 自分の体といっても、感じている事と、医者の見方では違う場合がある。

 医学を本格的に学んでいない大河は、その辺の事は素人だ。

 なので、完治の判断も医者に任せる場合がある。

 一行は、京都新城に入る前に、浅井邸に寄った。

 長政の仏壇に手を合わせる為に。

 まずは、お市から。

 心愛をアプトから受け取ると、

「貴方」

 肖像画に語り掛ける。

 返答は無いが、これからは、前夫との時間だ。

 空気を読んだ大河は、後ろの方で、アプトと共に座っている。 

「御挨拶が遅れて申し訳御座いません。お江以来の子供ですよ」

「……?」

 心愛は、肖像画を見て珍紛漢紛だ。

 仕方ないだろう。

 前夫とは、一度も会った事が無いのだから。

 対話が続く。

「嫉妬していますか? それとも喜んで下さいますか?」

『……』

 長政の事だ。

 恐らくだが、激賞している事だろう。

 肖像画に飽きたのか、心愛はぐずり出す。

「おぎゃあ……」

 そして、大河を見た。

 短い手を伸ばす。

「だ、だ……」

「若殿―――」

「ああ」

 対話を邪魔しない様に、お市に気を遣いつつ、心愛を抱っこ。

 そして、元の場所に戻る。

「(市様は、相当、前夫様の事が御好きだったんですね)」

「(その様だな)」

「心愛は、陛下が名付け親になって下さったんですよ。夜泣きが酷いですが、皆様が交代交代で看て下さいますので、久し振りの育児は、楽しい限りです」

 心愛が大河の下に行っても、お市は、ずーっと、語り掛けている。

 笑顔も絶えない。

「(……嫉妬しちゃうな)」

「(若殿に嫉妬される市様が羨ましいです)」

「(……済まん)」

 心愛を抱っこしつつ、大河はアプトを抱き寄せる。

「(責めてませんよ。でも、もう少し、夜伽の回数を増やして欲しいです)」

 侍女兼婚約者の3人―――アプト、珠、与祢は、日中、侍女の仕事もしている為、夜伽は、当然の事ながら、休養日でないと難しい。

 大河も疲労困憊な彼女達を抱くのは、本意ではない。

 無理をすれば、小林一茶の妻の様に、早逝させてしまう恐れもある。 

「(分かった。じゃあ、今晩良いか?)」

「(お願いします)」

 愛妻の前で婚約者と夜伽の約束をするのは、心が痛むが、お市は今、幸せの絶頂である。

 大河との愛の象徴を得て、然も、育児まで出来る為、今更、彼が他の女と愛し合おうが嫉妬はしない。

 逆に優越感すらある位だ。

 対話が終わるまで、2人は、心愛を本物の子供の様にあやすのであった。


 その夜、大河は、アプトを抱いた。

 当然、朝顔が入浴中の間だけだ。

 流石に目の前でするのは、気が引ける。

 アプトの部屋で散々、彼女を愛し合った後、部屋に戻ると、

「にゃ、にゃあ……」

「にゃあ!」

「にゃあ♡」

 3匹の猫が居た。

 猫耳付きの寝間着を披露しているのは、恥ずかしそうな朝顔と、照れを睨みで隠すお初、そしてノリノリなお江だ。

それぞれ、白猫、黒猫、茶猫である。

「どう?」

「真田様、どうです?」

「恥ずかしいですよぉ……」

 楠、阿国、松姫は、『彼シャツ』というのだろうか。

 大河のシャツを勝手に着用している。

 楠の胸は余り言いたくは無いが貧相なので、それ程凹凸が無い。

 一方、阿国は、現役の舞踏家なので、引き締まっている。

 松姫も、精進料理の為か、太ってはいない。

 6人に、大河は囲まれた。

「その恰好は何だ?」

「あら、御不満?」

「我ながら良い意匠計画だと思うけどね」

 誾千代、謙信が、胸を張って押し入れから出て来た。

 大河の反応を伺っていた様だ。

 2人も彼シャツと猫の寝間着。

「久し振りに皆で寝様かと」

 だぼだぼの袖をぷらんぷらんさせつつ、誾千代がそう言う。

 キングサイズの寝台には、この大所帯はきついが、この準備を見ると、今晩は本気らしい。

 大河も彼女達を追い返す程、冷たい人間ではない。

「じゃあ、寝るか」

「賢明よ」

 朝顔が嬉しそうに手を引いて、大河を寝台に引き入れる。

 寝かせると、その上に寝転んだ。

 某双子芸人の幽体離脱の様な形になった。

 朝顔は、珍しく皆の前で甘える。

「えへへへ♡」

 猫に変身した為、テンションが高いのだろう。

 大河を抱き締めて、背中に頬擦り。

「あ~、陛下狡い~」

 お初は、頬を膨らませて、逆側から抱き着いた。

 他の女性陣は、流石に畏れ多すぎて、朝顔にそんな事を言う勇気は無い。

「お江よ、ここは、私に譲るべきではないか?」

「陛下。私は、我慢していたのですから、ここは一つ御譲りするべきではないでしょうか?」

「「……」」

 2人は、大河を挟んで睨み合う。

「おいおい、寝るんじゃないのか?」

「そーよ」

「そうだよ」

「じゃあ、寝るんだ。喧嘩は、御免だよ」

 2人に苦言を呈した後、大河は、

「「「「きゃ♡」」」」

 器用に楠達も抱き寄せる。

「あら?」

「私達も?」

 誾千代達も忘れない。

 結局、大所帯になった。

 重量に耐え切れなくなった朝顔は、這い出て、お江同様、御腹の上に寝る。

 代わりに、大河が1番下になった。

 左脇に誾千代、阿国、お初。

 右脇に謙信、楠、松姫である。

 当然、推定年齢10歳児の体には、相当な負荷がかかる。

「うう」

 うめく大河。

 朝顔が呼んだ。

「橋、元に戻して」

 世界で最も有名な妖精の様に、橋姫は現れた。

 彼女も又、彼シャツだ。

 相当、気に入っているらしく、その襟は、口紅で汚れている。

 大河に白眼視されると、彼女は舌を出し、取り繕う。

 反省の色、無しだ。

「は。今すぐに」

 朝顔に平服した後、大河に向かって、

「―――」

 呪文を唱える。

 すると、空也上人像の様に口から言葉が具現化され、大河の下へ浮遊していく。

 そして、大河の体に吸い込まれていった。

 直後、大河は、文字通り、大きくなる。

 スモ〇ルライトが、てられた様に。

 元の姿に戻った。

わらべも良いけど、やっぱり、これが1番ね」

「だね」

 誾千代、謙信は、惚れ惚れした様子だ。

 少年ver.の方が良かった朝顔だが、この姿も嫌いではない。

 大河は、

 ①朝顔

 ②誾千代

 ③謙信

 ④お初

 ⑤お江

 ⑥楠

 ⑦阿国

 ⑧松姫

 の順に接吻していく。

(俺も猫の作ってもらおうかな?)

 割と本気で猫のそれに興味津々な大河であった。

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