第408話 鉄硯磨穿

「―――出羽国でのは、反乱ではありません」

 二条城で織田信孝が、今回の出来事を直々に説明していた。

 本来は報道官の仕事だが、規模の大きさから、首相直々に説明している訳だ。

 記者が疑問を呈す。

「反乱ではない? 戦車まで動かしていたのに、ですか?」

「あれはあくまでも、が拡大した時の為の予防策です。後程、鎮圧した伊達輝宗、上杉景勝の両名が山形城を公開します。その際、御確認下さい。戦車は動かしましたが、1発も撃っていませんから」

 厳密には白燐弾を撃っている訳だが、その後は国家保安委員会が巧みに情報を隠蔽。

 一切、無傷になっている。

「今後、最上は、どうなるんです?」

 中野義時、最上義光、伊万等、最上の血を引くは多い。

 記者の多くは源氏の様に、再び反旗を翻し、政権を転覆させるのでは?

 と、疑っているのだ。

「伊達の一家臣ですね。それ以上でもそれ以下でもありません」

「では、改易?」

「はい。その様になりますね」

「暴動にしては、重過ぎる処分に思いますが?」

 信孝の目が光る。

「その御言葉、被害者遺族の前で言えますか?」

「う」

「伊達は、身内の不祥事を最小限の被害にする為に使者を送りました。然し、無残に殺され、鎮圧の作戦でも我が方に多数の死傷者が出ています。我が国の顔に泥を塗り、更に暴れまくった賊は、法に基づく処分しなければなりません」

「「「……」」」

 記者達は、沈黙した。

 信孝は、続ける。

「我が国は、です。最上だろうが、罪を犯した以上、裁かれなくてはなりません。犯罪者を擁護するのは、国の崩壊を招きかねません。若し、今回の処分に不満があるのであれば、どうぞ、御自由に人治国家に移住して頂いて構いません。それすら、自由なのですから」

「鎮圧作戦に近衛大将も御参加した、との情報がありますが?」

「事実です」

「「「!」」」

 記者達は、どよめく。

「静かに。説明します」

 信孝は、睨んで黙らす。

「越後国に御滞在中の陛下の身に危険が及ぶ可能性があった為。先制的自衛権を行使したまでです」

「近衛大将から直々の御説明はあるんですか?」

「ありません」

 ぴしゃりと言い放つ。

「それとも、私の説明では、不服だったでしょうか?」

「「「……」」」

 信孝の一睨みに、記者団は、沈黙するのであった。


 出羽国での暴動を鎮圧した大河は、越後国で妻達と合流後、京に戻っていた。

「―――あの名家の最上が……勿体無いね」

 幸姫は、寂しそうだ。

「最上、好きだったのか?」

「いや、名家が落魄れるのは、寂しいから。まるで平氏みたい」

「そうだな」

 幸姫の額に接吻後、大河は抱き締める。

「何?」

「好きだ」

「分かってる。有難う」

 出羽国から帰って来て以降、大河の愛は拍車がかかっている。

 今晩は幸姫、お初、お江、楠、松姫、阿国の6人だ。

「「……」」

 姉妹は、既に抱かれ、仲良く気絶。

 残りの3人―――楠、松姫、阿国は、

「「「……」」」

 今か今かと待ち侘びている。

 大河は紳士(?)なので、3人も抱き寄せる。

 楠は膝の上、松姫、阿国は、両脇だ。

「皆、痴女だな?」

「貴女に開発された所為よ」

 楠が、耳朶じだを甘噛み。

 腰をくねらせて、接吻。

「もう出征は無いですよね?」

 松姫が潤んだ目で問う。

 尼僧なので、殺人には、否定的だ。

「多分な」

「真田様、衣装を新調しました。次の休日、劇場に来て下さい」

「分かった」

 幸姫を抱き寄せつつ、3人を愛す。

 又、山城真田家に愛欲の日々が戻って来た。


 翌日。

 小鳥のさえずで大河は目覚める。

「ん?」

 顔に圧迫感が。

 見ると、お尻がこちらに向いていた。

 愛妻……ではない。

 小さめのお尻で、どちらかと言うと、華姫くらいの大きさだ。

 華姫は、伊達家の屋敷で宿泊中なので居ない筈。

 他の候補者の累等は、流石にこれ程大きくはない。

「?」

 戸惑いつつも、抱き上げると、

「zzz……」

 伊万が、よだれを垂らして眠っていた。

 困っていると、

「……あ、お早う」

「おお、お早う」

 伊万が起きた。

「ふわぁ……」

 まだ眠たい様で、大きな欠伸をした。

「……」

 女性陣を見ると、まだ全員熟睡中だ。

 壁時計を見ると、こく(午前5時~7時)。

 まだまだ城全体が眠っている頃である。

「ここで寝る?」

「……や」

 小さく首を振った。

「おさんぽしたい」

「寒いぞ?」

「だっこ」

 親が最上義光なので、若しかしたら、誤認しているのかもしれない。

「御父さんは?」

「でわにかえった。ぼだいをとむらうから」

「あー……」

 実家があんな事になったのだ。

 暇になった伊万は屋敷を抜け出して、京都新城に来たらしい。

 ホワイトハウス並に警備が厳しい筈だが、守備兵が問題視していない所を見ると、侍女と誤認されたのかもしれない。

「じゃあ、ちょっとお散歩するか?」

「うん」

 両目を手で擦って、はにかむ。

 流石、”東国一の美少女”だけあって、子役の様に可愛らしい。

 他家の子供を無許可で抱っこするのは、誘拐犯っぽいが、最上邸で1人寂しく過ごすよりかは、誰かが遊び相手になった方が良いだろう。

(年齢的に与祢が適任かな?)

 早起きな与祢の部屋に行く。


 障子の前まで来ると、

「与祢、起きている?」

『はは!』

 起きていた様で布団から飛び出した音がした。

 ものの数秒で障子が開く。

 寝癖で髪はぐちゃぐちゃ。

 夜着もしわくちゃだ。

「済みません。遅れて」

「良いよ。急に来た俺が悪いんだし。何してた?」

蟹文字かにもじを勉強していました」

 洋書とノートを見せる。

 筆記体の練習をしていた様で、ノートは、真っ黒だ。

「勉強家だな。でも、睡眠は大丈夫か?」

「はい。早寝しています」

「なら、良い」

 大河に頭を撫でられ、与祢は、笑顔で鼻息を荒くする。

「……」

 その光景を、伊万は興味深く見詰めていた。

「若殿、その娘は?」

「伊万。最上義光の娘だよ」

「こんな朝から、何故御一緒しているんです?」

 目が怖い。

「まさか、夜這いを?」

「寝惚けて、俺の寝所に入って来たんだよ」

 本当に事故アクシデントなので、強調して伝える。

「……そうですか」

 大河の体を嗅ぐ。

 そして、納得した。

「分かりました。本当の様ですね」

 若し、本当だったら、どうなっていた事やら。

 伊〇誠の様に刺殺され、胴体と首が物理的に別れていたかもしれない。

 ヤンデレな与祢なら、いとも簡単に行うだろう。

「入っても良い?」

「どうぞ」

 与祢の部屋に入る。

 教科書が綺麗に本棚に収められている。

 表彰状も壁に飾られ、優等生振りが見てとれる。

「若殿の奥様になる為に勉学に励んでいるんですよ」

「そうなのか」

 大河は伊万をおろし、与祢が用意した座布団に座る。

「勉強家なのは、良いけどさ。やっぱり、家格を気にしてる?」

「まぁ……はい」

 恥ずかしそうに与祢は、頬をポリポリ。

 大河の妻は、名家出身者が多い。

 1番は、朝顔だ。

 やんごとなき一族なのは、日ノ本のどの名家でも敵わぬ事だ。

 次点で、為政者の三姉妹とお市が当たるだろう。

 与祢の様な、名家とは言い難い家柄出身は、戦国時代、戦果で立身出世を果たす事が求められたが、平和になった今では戦果よりも勉強が求められている。

 与祢も実家から発破をかけられているのかもしれない。

「俺は気にしていないからな? 最低限、義務教育を修了していればいい」

「え? 良いんですか?」

「良いよ。人を学歴で判断するのは、出来ないからな」

 その1番の例が田中角栄だろう。

 彼は、

 昭和8(1933)年、15歳の時に二田高等小学校を卒業。

 翌年、上京し、中央工学校(夜間)に入学。

 そして、昭和12(1937)年、19歳で中央工学校を卒業した。

 現代感覚だと15歳で小学校は、違和感を覚えるだろうが、この1907〜1941年までの学制は、

・尋常小学校:6年(6〜7歳から入学)

・高等小学校:2年(14〜15歳で修了)

 となっている為、高等小学校は今で言う所の中学校に近い。

 又、角栄が通学した中央工学校は、今で言う所の工業高校に相当するものとと考えられる。

 その為、角栄の正式な最終学齢は、工業高校になるだろう。

 然し、これには落とし穴があって、当時の中央工学校は、学制上の学校ではなかった。

 なので、制度上、中卒と言えるのだ。 

 角栄自身は、最終学歴を「中央工学校卒業」と名乗る事が多かった一方で、大蔵大臣就任時の挨拶では「私が田中角栄だ。ご承知の通り小学校高等科卒だ」といった発言もしている。

 この発言から「角栄=小学校卒業」と言う心象イメージが国民に根付いた、と言われている(*1)。

 彼以降の総理大臣は、当然の事ながら、大卒者が多数派だ。

 然し、実績と人気は彼には到底及んでいないだろう。

 なので、大河は人を学歴で差別する事は無い。

 与祢を抱っこし、頬擦り。

「あんまり頑張らなくて良いからな? 今の与祢でも十分好きだし」

「……若殿♡」

 発狂しそうな位、頑張って勉強して与祢には、その言葉が重かった。

 圧力プレッシャーに押し潰されそうになっていたが、大河の優しさに溺れる。

 これが、言霊なのか。

 とても癒された与祢は、嬉し涙を流した。

「若殿、私も大好きです♡」

「おお」

 2人のイチャイチャに伊万は、

「……」

 凝視。

 両親は仲良かったが、これ程では無かった。

「もう、伊万様が見ています♡」

「見せ付けたら良いよ」

 嗤って、大河は与祢を膝に置き、その項に接吻。

「あは♡」

 交わらないが、こういうスキンシップは、朝顔同様、激しい。

「……」

 じー。

「若殿、恥ずかしい♡」

「俺に隠れて勉強した罰だ。今後、暫く勉学を禁じる」

「え?」

 良いの?

 と嬉しそうな反応。

 育児に家事と侍女は忙しい。

 その上、勉強ともなると、当然、容量を超える。

「勉学は、余裕がある時で良い」

「分かりました♡」

 先程までの嫉妬は消え、今は超ラブラブモード。

「抱き枕になってくれ」

「はい、どうぞ」

 与祢に抱き着き、その頭の上に大河は顎を乗せる。

「若殿は子供ですね?」

「与祢もだけどな?」

「あ、認めるんですね?」

「そうだよ。嘘は吐かない主義だから」

 朝から胸焼けを起こしそうな位、熱々な2人。

(こんなふーふ、はじめてみた)

 つぶさに観察する伊万であった。


[参考文献・出典]

*1:歴史を分かりやすく解説! ヒストリーランド HP

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