第371話 哀矜懲創
日ノ本で新たな人生を歩む事になったメアリーは、山城真田家で食客の地位を得た。
元々、王族なので、侍女になっても、その辺は全くのド素人だ。
1から学ばせるより、食客の方が良い、という大河の判断である。
名も新しくなった。
―――『京極マリア』と。
「あら、貴国は、切支丹は、存在しないんじゃなかったでしたっけ?」
「居るには居ますよ。なぁ、珠?」
「はい♡」
ロザリオを見せる。
因みに大河は、少年のままだ。
珠の膝に座って、その
元の姿に戻らないのは、張本人・橋姫が「可愛いから未だ駄目」と意地悪されているからだ。
「この……きょーごく。という
「京の名家ですよ」
「……そう」
余り嬉しくはなさそうだ。
王族から位が下がったのである。
でも、拒否する事は出来ない。
命の恩人に対しての無礼は、流石に出来ない。
「それで、私は、貴方の側室になるの?」
「いえ、その必要は御座いません。あくまでも食客ですので」
メアリーと一緒に来たジョヴァンニは、高山父子と合流し、日ノ本での耶蘇教について学んでいる。
なので、メアリー―――マリアは、ここでの(元)同胞は居ない。
「噂によれば、ユダヤの方とも結婚しているそうね?」
「はい」
「会いたいんだけど、出来る?」
「大丈夫ですけど、本人次第かと。与祢」
「は」
次の番を持っていた与祢は、不満げだが、命令は命令だ。
エリーゼを呼びに行く。
その間、珠とずーっとイチャイチャである。
「若殿、今度は、どこ行きます?」
「そうだな? 春休みだな」
蝦夷地での温泉を楽しみ、後は帰るだけだ。
国家保安委員会の調査では、独立派が大河暗殺を画策していた様だが、アプトとの仲を見せ付けた手前、未遂に終わった様である。
そんなアプトも昨晩、大河との秘め事で疲れ果て、今日は休みだ。
彼女だけでない。
婚約者と愛人以外は、休んでいる。
「明日、帰るのは、寂しいですね」
「そうだな。でも、いつまでも遊ぶ訳にはいかないからな」
「そうですね」
見た目は、少年だが、中身は、大人だ。
珠の乳房を揉みつつ、大河は、真面目な顔で。
「殿下は、国賓でもあります故、御自由に生活して下さい。御困り等あれば、可能な限り、相談に乗りますから」
「……有難う」
大恩ある身。
マリアは、改めて、日ノ本で新たな人生を歩む事を感じるのであった。
エリーゼが、デイビッドを抱っこしてやって来た。
代わりに大河達は出て行く。
「殿下、何の御用でしょうか?」
デイビッドは、スヤスヤだ。
母子共に六芒星の和装を着ているのだから、この国では、ユダヤ教への差別は無いのだろう。
逆に先程、珠がロザリオを隠し持っていた様に耶蘇教への反発は強い事は明白だ。
「……平和ね。この国は、外国人と異教徒に厳しい国かと」
「昔はそうでしたね。今も少なからずありますが」
デイビッドを乳母車に乗せて、エリーゼは、座る。
「殿下は、日本人になりましたね?」
「そう見える?」
「はい。以前とは見違える程です」
「有難う。それで貴女に相談なんだけど」
「はい」
「私は、もう国に帰れない?」
「……恐らく」
わざわざ、日ノ本まで送ったのだ。
無理に戻ろうとした場合、敵対行為と見なされ、刺客が送り込まれるかもしれない。
「……貴女は、この国で暮らし易い?」
「はい」
「もう祖国には……帰らない?」
「はい。永住権も取得していますし、聖地は、オスマン帝国が占領していますから」
「……」
「聖地巡礼はしたいのですが、無理でしょうね? この子とも離れたくありませんし」
「……彼との生活は楽しい?」
「殿下の仰る様に好色家ではありますが、それ以外は不満はありませんね。生活も出来ますし」
出産以降、エリーゼは現実主義者になりつつあった。
「殿下、難しい事でしょうが、折角、お若くなったのですから、新たに恋をしてみては如何でしょうか?」
「恋?」
「はい。私は病んでいましたが、恋をした事で変われました」
「……」
「他の皆もです」
癩病の鶫、寡婦のお市、心にトラウマを抱えた三姉妹、悪女の汚名を着せられた千姫……
大河に嫁いだ女性の殆どは、誰しも特徴的だ。
「……恋、ね」
マリアは、珠から貰ったロザリオを握る。
3人と結婚し、その誰もが不幸な死をと遂げた手前、恋には非積極的ではあるが、生まれ変わった事を契機にリセットされているかもしれない。
「……考えとくわ」
「うふふ♡」
与祢は、大河をテディベアの如く、抱き締めている。
普段は、逆だが、背丈が近くなった為、昔からの夢だったという。
「ちちうえ、かわいい♡」
華姫も頭を撫でる。
愛でる会には、朝顔も参加していた。
「与祢、私にも抱っこさせてよ」
「陛下は、昨日、1刻ずーっとされていたじゃないですか?」
「今日もしたい」
「え~……」
与祢がぎゅーっと抱き締める。
「与祢、俺の人権は?」
「無いです」
「清々しいな」
大河は苦笑いしてから、朝顔と華姫の手を取った。
そして、朝顔をバックハグ。
華姫は、横に座らせる。
「少年の癖に力強いわね?」
「中身は、大人だからな。あねうえ♡」
「! ……もう♡」
朝顔の琴線に触れたたのだろう。
物凄く幸せそうな顔だ。
「このまま外出ちゃう?」
「寒いから良いよ」
大河は、朝顔の背中に頬擦り。
「む」
嫉妬した与祢は、大河に甘える。
「若殿、温めて♡」
「よし来た」
一旦、朝顔を下すと、大河は、和装を開け、与祢を抱っこし、その中へ誘う。
「若殿、温かい♡」
「私も」
朝顔も入り、着膨れ。
「ちちうえ、わたしは?」
「もう一杯だよ」
「え~……」
不満げだが、手を握ると、少し、表情が和らぐ。
「そう言うな。ほら、お食べ」
大河が懐から飴玉を取り出すと、鳶の様に綺麗に掻っ攫う。
「ちちうえ、だ~いすき♡」
それから、頬に接吻。
単純な娘である。
軽食を摂った後は、帰る準備だ。
女性陣が各々、明日の為に帰り支度をしている頃、大河は、
「……」
自室で考えていた。
「なぁ、橋の肩書、如何すれば良いかな?」
助言を求めた相手は、誾千代とラナ。
2人は早々に済まし、大河の部屋で、彼に甘えていた。
「肩書?」
「無位じゃないの?」
「そうだけど、名刺渡す時用に要るんだよ」
「私は?」
「
2人は、不満げにずいっと、言い寄る。
「無いよ」
「この差は何?」
誾千代が、
「定職と無職の差だよ。橋は、外回りがあるからね」
橋姫は、大河に付いて、外に出る事が多い。
それは、眷属としての契約も兼ねているのだが、如何せん、与祢達や鶫達と違い、何の肩書も無いまま連れ歩くのは、世間体が悪い。
なので、現状は松姫や阿国同様、『聖職者』だ。
然し、結婚した以上、他者との区別化を図りたい。
これを機に松姫も、
・尼僧
阿国
・聖職者兼舞踏家
と正式に書き換えたいのだ。
「
「じゃあ、『王女』にする?」
「良いですわね♡」
「じゃあ、私は?」
「嫌だよ。外に出したくない」
「嫉妬?」
「そうだよ。こんな美人に惚れるのは、俺だけで良い」
「有難う♡」
嫉妬深い大河は、愛妻が男に見られるのを嫌う。
外出禁止する程ではないが、本当は束縛したいのは、明白であった。
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