第352話 手練手管

 国綱は、隠れていた。

「……真田には、呪術が利かんのか?」

 国営紙のどこを見ても、『真田元山城守、体調不良』とか『近衛大将、急死』といった文字は無い。

 それ所か、

 ―――

『【陛下、近衛大将との逢瀬を楽しむ】

 御忍びで嵐山を観光した陛下は、近衛大将と共に飲食店に入り、人生で初めての「はんばーがー」なる外食を楽しんだ。

 私服で御訪問された陛下に対し、店員や多くの来店客は、気付く事は無かった様で、記念撮影等は、求められる事は無かった。

 私的な時間帯であったが、近衛大将は、陛下に尽くし、そーすの付いた頬を手巾で拭く等、良夫として努めておられた。

 今後も鴛鴦夫婦として、国民の模範になられるだろう』

 ―――

 と、言った記事しかない。

 朝顔に恋する国綱の心は、掻き乱されんばかりだ。

「……葦原は、どこだ?」

「ここに」

「何故、呪術が利かん? 奴は、化物なのか?」

「恐らく……」

 自信家であった葦原だが、段々、焦りの色が見えている。

 直後、その場所が爆発した。

 2人は、仲良く吹き飛ぶ。

 首と胴体が千切れ、内臓が焼き尽くされる。

 KGB御得意の精密爆撃である。

 B2の操縦士、弥助は、

「……」

 JDAM統合直接攻撃弾の威力に言葉が無い。

 隠れ家であった屋敷は、跡形も無い。

 カメラで確認すると、数十人の遺体が視認出来た。

「……これより、帰投します」

『了解。御疲れ様』

 本部からの明るい声に、弥助は憂鬱な気分になるのであった。


 危険な目は早めに摘む、というのが、大河の方針だ。

 爆撃の瞬間を京都新城地下の緊急対応室シチュエーション・ルームで観ていた。

「……奴を捕えたWe got Him! 正義はなされたJustice has been done!」

「うっさい」

 叫んだ直後、エリーゼから右ストレートを食らう。

 2人は、深夜。

 生中継を見ていた。

『これより、帰投します』

「了解。御疲れ様」

 弥助を労い、通信を切る。

 後は、夫婦の時間だ。

「あのペテン師、前々からKGBが目を付けていたんでしょ?」

「そうだよ」

「どうして今になって爆殺したの?」

「宣伝だよ。いつでも俺の好きな時機タイミングで殺せるってな?」

「……悪魔ね?」

 エリーゼは、大河の鼻翼びよくに口付け。

「デイビッドは、どうだった?」

「……」

 眠そうに頷く。

 元々寝ていたのだが、エリーゼが起こし、見せたのだ。

 赤子にこんなリアルな殺人ビデオスナッフ・フィルムを観せるのは、教育上、悪いだろう。

「御免な? お休み」

「……」

 再度頷き、デイビッドは、エリーゼの胸の中で眠る。

 我が子を起こさぬ様、夫婦は、筆談での会話だ。

『何故、観せた?』

『教育よ。軍人にさせたいから』

『分かるが、本人に決めさせ様よ』

『そう?』

『ああ。親が子供の将来を決める事は無い。決めるのは、子供自身だよ』

「……」

 エリーゼは、不満げだが、大河の言い分を理解している。

『……貴方』

 大河を抱き締めてると、彼は、予想通り、乳を吸う。

 乳が好きな父だ。

「もう、起きちゃう……」

「良いんだよ。次は、妹が良いな」

「もう……馬鹿♡」

 避妊を禁じるユダヤ教の超正統派は、出生率が高い。

 日ノ本もそれに倣い、子供の数を多くし様と必死だ。

 直近での出生率は、3。

 女性が一生の内に3人は産んでいるのだ。

 謙信、千姫、エリーゼは1人ずつなので、計算上、残り2人は産む事になる。

(妹か……産み分け出来るかな?)

 科学的には、産み分けは実証されてはいないが、エリーゼも今度は、女児を希望していた。

 無論、授かりものなので、男児でも喜ばしいのは、当然だが。

(ライバルはお市よね。経験者だから手強い)

 出生率と同じく3人を既に生んでいるお市は、夜の性技も、大河に開発された為か、技巧家テクニシャンになりつつある。

 大河も又、彼女の手練手管にハマっているのか、最近では、彼女と寝る事が多い。

 もう少しで妊娠率が非常に下がる35歳が迫りつつある為、その事も念頭にあるのかもしれないが。

 大河に母乳を与えつつ、彼の頭を撫でる。

「貴方、愛してるアニ・オヘヴット・オタハ

 大河も返す。

愛してるイッヒ・リーベ・ディヒ

 夫婦の睦言は、深夜まで続くのであった。


 翌日。

 大河は、誾千代、千姫、阿国、謙信と共にまったり過ごしていた。

「今日は、休みなの?」

「そうだよ。今日は、皆の為に外商を呼んでみた」

 外商は、現代では少なくなったが、要は百貨店の上客を相手にする営業マンの事だ。

 もっとも、彼等の上客は、普通の上客とは違い、百貨店の中で決まっている一定額以上のお買い物をしている人が客層となる。

 彼等に対して、最上級のサービスをするのが外商員の役割だ。

 もう一つ、外商員は、顧客と家族ぐるみをする場合もある。

 様々な客層に対応出来る品揃えを基本とした百貨店ならではだろう(*1)。

 又、顧客が外商員を気に入り、一緒に旅行に行ったり、時には、顧客、又はその家族と結婚する所謂、玉の輿に乗る例もある。

 現代での外商員の上客は、

・医者

・弁護士

 等、高所得者が多い様だが、ここでは、それらよりも大名の方が、お金持ちだ。

 外商員が、玉の輿を狙ってでも営業するのは、当然の話だろう。

「茶屋四郎次郎で御座います」

 身形の良い、ダブルのスーツでの登場だ。

「今回、奥方様達に商品を御用意させて頂きました」

・化粧品

・入浴剤

・貴金属

 等が、馬車の荷台に積載され、一同の前へ。

「「「「おおお~」」」」

 4人は、大歓声を上げた。

「何? 何の騒ぎ?」

「うわ! 凄い!」

「買いよ!」

 他の女性陣も集まって来た。

 大所帯故、コミックマーケット並の人の多さだ。

 女性陣に定期収入は無いが、大河が稼いだお金を管理している為、自由に買物が出来る。

「……」

 女性物が主な商品の為、大河の出る幕は無い。

 庭の東屋に座り、1人、ゆっくり茶を飲む。

「若殿、良いんですか?」

「良いよ。皆の為だから。与祢も好きな物買い?」

「……」

 御小遣いを渡されるも、受け取っただけで与祢は、買物には行かない。

 同じ地位のアプトや珠は一生懸命、商品を吟味しているというのに。

「良いのか?」

「はい。貯金させて頂きます」

「……そうか」

 家族サービスの為に用意したが、本人が不要としている以上、無理に買わせる必要は無い。

 十人十色。

 皆違って皆良い精神だ。

 小太郎と鶫もやって来た。

 同じ愛人のナチュラは、ラナと仲良く品定めしているので、愛人であっても、やはり其々違う。

「主、1品だけ買わせて頂きました」

「有難う御座います」

 2人が持っているのは、媚薬と大人の玩具のセット。

「2人で愉しむ用か?」

「はい。それもありますが、主との夜伽用でもあります」

「……そうか」

 大河は、与祢を膝に乗せ、鶫と小太郎は、左右に座る。

「与祢、幾ら貯まった?」

「! ええっと……」

 答えに困る。

 実家から「貯金額は、極力、人に教えるな」と教わっていたから。

 大河は、微笑む。

「良い教育だな? 流石、良妻賢母だ」

「え?」

「例え俺からの質問にも答えるな。大事な事だからな?」

 与祢を背後から抱き締める。

 年齢差及び体格差がある為、傍から見れば、大河が抱き枕を愛でている様に見えるかもしれない。

「あ、今年8歳だったよな?」

「はい」

「去年、七五三だったな?」

「あーそうでしたね?」

 行事を大切にする大河であったが、すっかり忘れていた。

 七五三は、天和元(1681)年11月15日(グレゴリオ暦換算だと同年のクリスマス・イブ)に館林城主である徳川徳松(江戸幕府第5代将軍である徳川綱吉の長男)の健康を祈って始まったとされる説が有力である(*2)。

 その為、史実では安土桃山時代に無いのだが、時間の逆説タイムパラドックスにより、この異世界では当然の様にある。

「気にする事は無いかと。実家で済ませたので」

「! そうだったか。良かった」

 ―――

『今とは違い、江戸時代は医療が進んでいなかった為に乳幼児の死亡率も高く、子供を七五三の年齢まで無事に育てる事は並大抵な事ではなかったのです。

「七つまでは神の内」

 と言う様に、それまでの子供の成長は神様に御任せするしかありませんでした。

 我が子の成長を喜ばない親は居ません。

 七五三では、子供が無事に育つ事が出来た事を皆で祝い、これまで見守って下さった氏神様や御先祖様にお参りをして感謝の気持ちを表し、これからの健やかなる成長をお祈りしましょう』(*2)

 ―――

 とある様に、御盆の墓参り同様、重要な行事なのだ。

 怠れば、御先祖様はさぞお怒りになる事だろう。

 なので、大河は、極力、この手の伝統行事には、積極的であった。

「母上が頭を抱えてましたよ。『真田様は、”猿”並の好色家だ』と」

「う……」

 大河が呻き、鶫が与祢を睨み付ける。

 大事な人を”猿”と同等に扱われたのだ。

 怒るのも無理はない。

 もっとも、大河と与祢は、それ位出来る良好な関係性とも言えるだろう。

 鶫を抱き寄せて、刃物を出させない様にする。

「”猿”は嫌だな。義母上ははうえも厳しい方だ」

 そして、苦笑い。

「その時、ご注意したのですが、母は、若殿への好印象が、低下している様です」

「だろうな」

 大河が、与祢の父親で、彼女の嫁ぎ先がどんどん新妻を増やすと、心配にもなる。

 最悪、帰郷を命じるだろう。

「……何か贈って機嫌をとるか」

「商品には、御注意下さい。父上が嫉妬するかもしれないので」

 山内一豊は、妻を千代しか知らない。

 余りにも仲良くすると、疑われるだろう。

 何せ大河は、誾千代やお市と寡婦にも手を出す輩なのだから。

「分かってるよ。与祢の方から根回し頼む」

「はい」

「あと、小太郎」

「は―――ええ!?」

 思いっ切り、抱き寄せられ、与祢の隣に座らされた。

 婚約者と同位になった訳で、当然、与祢は気分が悪い。

「若殿?」

「奴隷だけど、今は愛人だよ。与祢が成長するまでの間、俺の与祢への愛は、小太郎が肩代わりする」

「……」

「成人するまでの間だよ」

 唇を尖らせる与祢の頭を撫でつつ、大河は、小太郎の胸を揉む。

「主♡」

「直ぐに発情するな」

「分かっています」

 小太郎は、自制しつつも、大河の頬を犬の様に舐める。

「若殿……」

 反対側の鶫は、大河に寄り掛かった。

 一緒に居るだけでも幸せだ。

 まったりとした休日の昼下がり。

 4人は茶を飲みつつ、優雅に過ごすのであった。


[参考文献・出典]

*1:元アパレル勤務の転職アドバイザーがアパレル転職徹底分析!

*2:神社本庁 HP

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