第148話 荊棘叢裏

 摂津国せっつのくに(現・大阪府北中部の大半、兵庫県南東部)に到着した似非村上水軍は、淀川を経由して、山城国やましろのくに(現・京都府南部)を急襲。

 然し、彼等を待っていたのは空爆であった。

 山城国に侵入した途端、M61 バルカンの一斉射撃に遭う。

 ソ連が大韓航空機を問答無用で撃墜した様に。

 領土侵犯する直前、真田軍が誇るF-22ラプターがスクランブル発進し、侵犯を確認した瞬間、これだ。

 分かっていたかの様な手際の良さに水軍は、怯む。

 然し、すぐさま対空砲で迎え撃つ。

 非戦闘員の多くは、核シェルターに避難する一方で、真田軍への志願兵も多い。

 戦う理由は、郷土愛に他ならない。

 家族や親友を守る為に自ら銃や刀を取ったのだ。

 アメリカと戦ったベトナム人の様に。

 山城国中は、戦場と化す。

「陛下、御逃げ下さい!」

「残る」

「然し―――」

「民が命を懸けて戦っているのだ。朕が逃げる訳にはいかない」

「……」

 近衛前久や女官が幾ら説得しても、帝は動かない。

 他の皇族は、避難済みだ。

 厳密に、帝は総大将とは言い難い。

 然し、過去の戦争を見ると、総大将が戦場に居ない場合、負け易い。

 関ヶ原合戦は、豊臣秀頼が大坂から動かず、更に毛利輝元も一切、戦わなかった。

 鳥羽伏見の戦いでも、幕府軍が優勢だったにも関わらず、新政府軍が錦旗を利用すると、徳川慶喜は逃亡。

 幕府軍は、総崩れとなり、歴史の転換点となった。

 御所の周りには、近衛師団が陣地を作り、守っている。

 在京駐留上杉軍も加わった大部隊は、1万人。

 真田軍、上杉軍から選抜された兵士達は、サーベルやM16を抜き、侵入者に目を光らせている。

 錦旗を掲げた彼等は、例え侵入者が、非戦闘員であっても容赦しない。

”鬼島津”以上に悪鬼だ。

 うっかり、様子を見に来た野次馬が、陣地に近付いてしまう。

 興味津々で他意は無く、見るからに非武装であるが、

「!」

 1人がM16で即応。

 1発で額を撃ち抜き、たおす。

「よくやった。昇進だな」

「有難う御座います」

 指揮官の島左近は、若武者を褒める。

『戦争や紛争、これは全てビジネス。1人の殺害は犯罪者を生み、100万の殺害は英雄を生む。数が(殺人を)神聖化する』という言葉通り。

 ここでは、殺人罪は存在しない。

 近衛師団はその名の通り、帝の軍隊だ。

 例え同胞でも不法侵入者は、許さない。

 彼等だけでない。

 都民100万人以上の多くも又、自由フランス並の抵抗レジスタンス運動を行う。

 イスラエルの様に男女問わず、徴兵制である都民は、大河の指令系統に入り、その指示を仰ぐ。

「こちら、Aアルファ地点ポイントCのピッグを発見。どうぞ」

Bブラボー攻撃アタックを許可する。殲滅しろ』

 敵を攪乱させる為に通話表が用いられる。

 英語が多用されているのは都民以外、英語を殆ど知らないからだ。

 ラテン語が主流のこの時代、英語を知る者は、日ノ本では通詞等の専門家以外、皆無と言え様。

 英語が国際共通語になったのは、大英帝国の発展及びWWII以降。

 約400年後を先んじて、英語を第一外国語にするのは、大河としても悩んだ。

 何故なら、英語が台頭する前、17~20世紀は、フランス語の時代であったから。

 日本語も英語と混合し、苦情クレーム黄金週間ゴールデンウイーク休憩所サービスエリア等の和製英語が誕生している。

 令和2(2020)年でも(*1)、

集団感染アウトブレイク(感染爆発)

小規模の感染集団クラスター

爆発的患者急増オーバーシュート

都市閉鎖ロックダウン(外出禁止令)

世界的大流行パンデミック

自己隔離セルフ・アイソレーション

社会的戦略距離ソーシャル・ディスタンス

与えられた休暇ファーロウ

 等、片仮名が、平気で蔓延っている。

 一部からは、「分かり難い」と悪評が立つ程、余り評判が宜しくない。

 大河は、それを不安視して、常に日本語との併記を義務付けている。

 その為、都民の多くは、ほぼ二言語話者バイリンガルだ。

『山、川』等、在り来たりな合図ではなく、又、未知の言語である為、敵は気付いても訳が分からない。

「ぐは!」

 密林ジャングルでギリースーツの狙撃手スナイパーが、狙撃スナイプ

 米神から綺麗に血を噴出し、敵兵は斃れる。

 一方的なは、終わらない。

 混乱する敵軍には、F-100スーパーセイバーの出番だ。

「……」

 空軍を率いるのは、二宮忠八。

 普段は空軍で教官をしているが、今回ばかりは、映画の大統領の様に「空の男」に戻る。

 サングラスを装着し、カウボーイハットを被った彼は、

「糞共め。原始人に戻してやる」

 敵軍陣地に目掛けて、ナパーム弾を投下。

 その充填物は人体や木材等に付着すると、その親油性の為に落ちず、水をかけても消火が出来ない。

 消火する為には界面活性剤を含む水か、油火災用の消火器が必要である。

 又、その燃焼の際には大量の酸素が使われる為、着弾地点から離れていても酸欠によって窒息死、或いは一酸化炭素中毒死する事がある(*2)。

 敵兵達は、

・爆死

・焼死

・窒息死

・一酸化炭素中毒死

 を選ばされる。

 ベトナム戦争を象徴する写真の一つ、『戦争の恐怖』の如く、敵兵は逃げ惑う。

『朝のナパームの匂いは格別だ。昔12時間ブッ続けで丘を爆撃してな、その跡を散歩したが死体一つ転がっていなかった。そこら中に揮発油ガソリンの匂いがした……勝利の匂いだ』

 と中佐が評した様に、戦争は優勢な側からすると、非常に楽しい。

「糞!」

「一時撤退だ!」

「引け! 引け!」

 運良く逃げても、反対側に居たシコルスキー S-58から機銃掃射に遭う。

 射撃手は、宮本武蔵である。

「逃げる奴は皆、倭寇だ! 逃げない奴はよく訓練された倭寇だ!」

 ヒャッハー! と、世紀末漫画のモヒカンの様に嗤う。

「俺1人で現地豚157匹を始末したぜ」

 従軍記者は、苦笑い。

「よく楽しんで殺せるな?」

「簡単さ。は、鈍いからな。本当、戦争は地獄だぜ」

 カチカチ……

 撃ち尽くすと、武蔵は、飛び降りる。

 そして、自ら斬り込みに行く。

 部下達は、慌てた。

「切り込み隊長に続け!」

「「「応!」」」

 50人が300人に突撃。

 数では6倍差だが、軍刀には掠り傷でも死ぬ猛毒が塗り込まれていた。

 荊軻けいか(? ~紀元前227 始皇帝暗殺未遂犯)が始皇帝を狙った時の様に。

 その為、

「! 熱い! 熱い!」

「死ぬぅううううううううううううううううう!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああぁ!」

 そこかしこで掠り傷の敵兵は、のた打ち回る。

 熱さを感じるのは、毒が瞬時に皮膚から浸透している証拠だ。

 死刑囚で人体実験した結果がここに活きるとは、大河も夢にも思わなかった。

 元々、劣勢であった敵兵達は、その余りの苦しみ振りに恐怖し、次々と武器を手放す。

 軍刀に自動小銃、大砲……全て中古品だ。

 刀狩りの様にそれらは、積み上げられた。

「「「何卒、御慈悲を」」」

「却下」

 問答無用で武蔵が、首を刎ねる。

「「「!」」」

 敵兵達が驚く中、斬首競争が始まった。

「さぁ、一番多い奴は、副隊長にするぞ!」

「「「応!」」」

 現代でもテロリストに法的に捕虜の資格が無い様に、倭寇にもそれは適応される。

 蚊を殺す様な感覚で根切りが始まった。


 市街戦は、逃げ遅れた非戦闘員を巻き込み易い。

 その結果、多くの場合、悲惨な事になっている。

 例:応仁の乱

   南京攻略戦

   マニラの戦い

   ……

 その中でスターリングラード攻防戦は、ナチスの決定的な敗戦の遠因になった一方、1年にも満たぬ戦いで約200万人が亡くなった。

 これは、太平洋戦争に於ける日本軍の死者数230万人に匹敵する。

 死者数だけでも、その激戦と凄惨さが判るだろう。

 史実の禁門の変も市街戦に分類され、京都市内と御所の周辺が戦地となった。

 倭寇は、100万人以上の国民皆兵と相対する事になり、今更後悔する。

 然し、逃げ遅れた婦女子を相手に性犯罪や乱取りを行う余裕さも見せ、真田軍を激昂させた。

 指揮官は、大谷平馬だ。

 狙撃手スナイパー部隊長・雑賀孫六と共に指揮に当たっている。

 大河に「100万の兵を与えたい」と言われたが、まさか、これ程、早く夢が叶うとは思わなかった。

 総大将・大河は、全ての指揮権を平馬にゆだね、自分は京都新城に籠っている。

 敷地内を避難場所として民に提供し、非常に感謝されている姿を見ると、直臣の1人として、平馬も嬉しい。

「大谷様、山岳戦は、優勢だそうです」

「宮本殿の御蔭だな―――孫六、本陣は何処だ?」

「大江山です」

「鬼の棲む山、か……」

 鬼伝説がある大江山には、心霊現象が後を絶たない為、地元民は寄り付かない。

 倭寇がそれを突いて、本陣を敷くのは、当然だろう。

「よし、奴等は、酒吞童子だ。討伐し様」

「は」

「山狩りだ。3千やる。貢献せよ」

 初陣の孫六に3千もの兵隊を与えるのは、異例だ。

「陶晴賢を討って来い。俺は、七卿の方をる」

 

 大江山山頂では、晴賢は唇を噛んでいた。

(……まさか、想像の遥か上をいくとは)

 軍備では中古とはいえ、善戦出来る、と自信満々であったが、蓋を開けてみれば、ザンジバル保護国と大英帝国並の戦力差であった。

(かくなる上は、特攻で、最期の散る花を―――)

「陶殿」

「!」

 突如、織田信長の家臣・波多野秀治がやって来た。

 供は、少数のみ。

 揉み上げが特徴的な彼は、晴賢の前に座る。

「御助力致す」

「! 裏切る者になるのか?」

「はい。真田が嫌いですので」

 史実でも秀治は、信長を裏切り、失敗。

 最後は、磔刑に処された。

 異世界でも、秀治は、大河への嫉妬心と、元々あった信長への反感から、秘密裏に接触したのである。

「貴軍の標的である帝は、御所に居ます。秘密の隧道があります故、それを御利用下されば、帝を出来るかと」

「ほ、本当か?」

「はい」

 急転直下で仏が微笑んだ。

 藁をも縋る思いだった晴賢は、大喜び。

「有難う。是非、案内してくれ」

「はい」

 反乱に波多野軍が加わり、戦局の拡大は必至となる。


「探せー!」

「見付け次第殺せ!」

「「「応!」」」

 真田軍雑賀孫六隊の山狩りが行われる中、晴賢は、秀治と共に決死隊を率い、下山。

 山に残るのは、影武者と300人の部下。

 彼等は、関ヶ原合戦直前の鳥居元忠の様な死に役だ。

 時間稼ぎに徹し、決死隊50人の為に死ぬ。

 傭兵の癖に忠誠心があるのは、晴賢が、彼等の家族に見舞金を送った為だ。

 家族の生活が保障された以上、彼等は大江山を死地と定めた。

『武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり』―――後年の『葉隠』の有名な一文である。

 余りにも有名過ぎて、更に後年、誤って解釈され、戦陣訓等の様に悲劇的な利用されてしまったが、専門学者によると、『葉隠』が著された時代背景や全文の文脈から「武士らしく命を懸けてで働け」というのが、真意の様だ(*3)。

 傭兵の多くは、老兵。

 仕官先も見付からず、ぐうたら生活するだけで、武士から成り下がった前科者も居る。

 然し、武士として生まれた以上、彼等は武士として死にたいのだ。

「やぁやぁ、我こそは、陶晴賢である!」

 夏目漱石の祖先・夏目吉信が三方原で家康の名を語り、彼の代わりに討ち死にを果たした様に。

 影武者が大声で名乗り、孫六隊に突撃する。

 最期は武士らしく、日本刀で。

 然し、長篠の時の様に刀は銃に勝てない。

「てー!」

 孫六の掛け声と共にM16が一斉に火を噴く。

「ぎゃあ!」

「ぐわ!」

 傭兵達は、次々と斃れていく。

 額や首、顔、胸部等、正確に急所を狙った精密射撃によって。

 影武者も被弾する。

「ぐ……!」

 西郷隆盛の様に股と腹に傷を負い、動けない。

 陶晴賢、と誤認した孫六隊は、止めを刺さず、取り囲む。

「賊軍、陶晴賢! 御覚悟!」

「来い!」

 孫六のサーベルが、胸部を貫く。

 殿しんがりを務めた影武者と300は、僅か小一時間で全員、彼等の夢通り、武士らしく討ち死に遂げたのであった。


[参考文献・出典]

*1:https://www.japanjournals.com/uk-today/14490-200407-1.html 

*2:ウィキペディア

*3:https://jinjigate.jp/column_detail/id=207

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