第147話 愛国無罪

 亀岡駅に着き、大河達はトロッコを降りる。

 小雨が降っている為、和傘を利用しなければならない。

 5人分、小太郎が用意している為、誰かが濡れる事は無いのだが。

「……本気かよ?」

「そうよ」

「そうです」

「「そうそう」」

 エリーゼ、千姫、茶々、お江の順に答えた。

「……分かったよ」

 圧に負け、大河は4人の中で最軽量の姉妹を抱き抱える。

 握手は出来ないが、左右にはヤンデレ・コンビが着任。

 これで戦争は、避けられた。

 姉妹は、左右から頬擦り。

「真田様、良い匂いですね?」

「兄者の香水、好き~♡」

 英国王室御用達の香水を平賀源内に作らせたのだが、やはり、女性をメロメロにさせる媚薬の様な類か。

 2人は、瞬時に気に入り、舐める位の勢いで嗅いでいる。

 それを受け入れつつ、大河は、歩く。

 最軽量ながらも2人を同時に抱っこして歩くのは、常人では難しいだろう。

 和傘を持つのは、エリーゼ。

 大河の肩に寄り掛かり、その感触を確かめている。

「……又、筋肉増えた?」

「分かる?」

「ええ。私は、休んだからちょっち贅肉になっちゃった」

 そう言って、自らの脇腹を摘まむ。

 ボディービルダーの様な肉体美が、数日休んだだけでこれだ。

「今まで筋肉付け過ぎだから、それくらいで良いんじゃないか?」

「そう?」

「ああ、低血糖症が心配だ」

 余りにも努力が行き過ぎ、低血糖症を起こし、急性心不全で急死したボディービルダーが居る様に。

 過度な訓練は、体に害がある。

「フィーディー?」

「違うよ」

 フィーディ-とは、体重を増加させ、パートナーに奨励される事で快感を得る人だ。

 他にも、

 ゲイナー  =自分で自分の体重を増加させる人

 フィーダー =体重を増やしたいと願うフィーディーを助ける人

 スタッファー=食べ過ぎる事に快感を覚える人

 と、細かく分類され、中にはこの内の複数の役割を兼ねている人も居る(*1)。

 世界は、広い。

「肥満嗜好なら、最初から好きになってなさいさ」

「どうだか」

 唇を尖らせつつ、大河の腰に手を回す。

 握手したいが、御覧の通り、両手が塞がっている為、仕方なく自分が先導するしかないのだろう。

「山城様♡」

 逆から、千姫も寄り掛かる。

 結局、4人分の体重を支える事になった。

 歩き難い。

 然し、

「「「「……」」」」

 2X4=8個の眼球が、言外に告げている。

 重いとか言った殺す。

 歩き辛い等言ったら殺す―――と。

「……」

 何故か大河が結婚した相手は、勝気になり易い。

 元々、その本性を隠していたのか。

 結婚を機に性格が変わったのか。

(……他に見られたら殺されるかも)

 内心、冷や汗を掻く。

 直後、噂をすれば影が差す。

 町娘達が、大河達を囲う。

 そして、一斉に和装を脱いだ。

 全員、くノ一で、クナイ等で武装していた。

「……楠か?」

「正解。何故、分かったの?」

 町娘、もとい、くノ一達を中から楠が、現れる。

 くノ一の中では、一際ひときわ黒ずくめで不審者感が強い。

 然し、大河を前にすると、おもむろに9分丈のレギンスを1分丈に剥ぐ。

 隠されていた太腿や膝が露わになった。

「……何故に?」

「太腿、好きでしょう?」

 笑顔で大河の足に抱き着く。

 幼妻とはいえ、まだまだ甘えたい盛りの御様子。

 部下達も隊長の可愛らしさに満足しつつ、撤退していく。

「……迎えに来たのか?」

「そう。朝顔様が寂しがっててね?」

「そうか」

 余り大河に驚いた様子は無い。

 少し予想していたのだろう。

 コアラの様に攀じ登った楠は、大河の胴体に器用にしがみ付く。

 そして、頬擦り。

「大好き♡」

「有難う」

 手が塞がっている為、顎で撫でる。

 痛くて固い筈だが。

「うふふ♡」

 再会に悦び、上機嫌だ。

 若しかしたら共依存なのかもしれない。

 その特徴は、以下の通り。

 ―――

『・他人の面倒を見たがる(強迫的世話焼き)

 ・自己の価値を低く見る

 ・抑圧的である

 ・強迫観念に囚われ易い

 ・相手を操作コントロールしたがる

 ・現実を直視出来ない

 ・何かに依存せずにはいられない

 ・意思疎通コミュニケーション能力に乏しい

 ・他人との境界が曖昧である

 ・信頼感を喪失している

 ・怒りの感情が正常に働かない

 ・性交が楽しめない

 ・行動が両極端である』(*2)

 ―――

 この内、楠は、

・他人の面倒を見たがる(強迫的世話焼き)→朝顔の願いを聞く

・強迫観念に囚われ易い         →異常な程、大河の心配性

・相手を操作コントロールしたがる  →大河との接触を好む

・何かに依存せずにはいられない     →大河に依存

 と、解釈出来るだろう。

(……心配だな)

 幼少期より、島津の家臣として戦争を経験している為、それが契機に発症したのかもしれない。

 精神科医等の専門家では無い為、あくまでもしか出来ないが。

 楠と合流後、一行は、真っ先に宿舎へ向かう。


 就寝前。

 大河は、光秀の館に呼ばれる。

 温泉宿の経営者が、明智氏の一族だった事もあり、敷地内に光秀の別荘があるのだ。

「申し訳御座いません。御休み中の所」

「いえいえ」

 大河には、鶫達しかついていない。

 一方、光秀は1人。

 人数差では、大河次第で彼を殺し、明智家を乗っ取る事も出来る。

 丹波国も制圧する事も可能だ。

 それでも、光秀が1人なのは、相当、大河を信頼している他ならない。

 織田家では、信長の顧問の様に振る舞う大河を疎ましく感じる者が多い中、異例だろう。

「瀬戸内海で陶晴賢が、動いています」

「……ほう」

「知っていましたか?」

「ええ。情報網を持っていますから」

「なら、話が早い。派兵して下さい」

「既に対策済みです」

 ニヤリ、と大河は、嗤う。

「標的は、帝ですね?」

「はい。ただ、一部情報では、朝顔様を担いで、南北朝の様に分裂を企図する事も想定されている様です」

 朝廷は、1336~1392年、南朝と北朝に分裂していた。

 明徳の和約によりに、南朝が北朝に合流する形でその混乱は、終わったが。

 この度、担がれる朝顔は、溜まったものではないだろう。

「上様より軍資金を預かっています。お納め下さい」

 大判を渡そうとするも、大河は断る。

「お気遣いなく。自分の上司は、朝廷だけですので。では」

 2人を連れて、大河は去って行く。

 京都防衛戦争の開戦の火蓋が切って落とされた。


[参考文献・出典]

*1:https://jp.rbth.com/lifestyle/82651-kanojo-futoraseru-roshia-feeders

*2:メロディ・ビーティ 『共依存症いつも他人に振りまわされる人たち』 講談社 1999年

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