第133話 美麗出兵
摂津国の港から、大河達は、出航する。
少数精鋭の真田軍が乗る航空母艦を、摂津の民は、見送る。
「ほえ~鼠色の舟は、初めて見たわ。重そうだが、速いんか?」
「馬鹿! ”一騎当千”の船よ! 遅い訳じゃない!」
軍団は、5千人。
”鬼島津”相手には、少な過ぎる数だ。
然し、装備は、世界中のどの国にも負けていない。
兵装は、
・ファランクス
・シースパロー短SAM 8連装発射機×2基
・RAM近SAM 21連装発射機×2基
搭載機は、
・
・
・
・
・
・
・
等。
専門家が見れば分かるが、これは、ニミッツ級航空母艦を模範としている。
交戦する気は全く無いが、相手が攻撃して来た以上、反撃に備えなければならない。
左派系等は9条を盲信しているが、実際に戦争を経験した大河には9条は(笑)だ。
汝平和を欲さば、戦への備えをせよ。
家訓の一つにしている様に賢者の精神を遵守し、万が一に備えている。
「まるで『戦国米軍』ね?」
「語呂が悪いな」
「そうね……」
甲板でエリーゼは、新たな名前を考える。
が、対案は、無さそうだ。
「上様、出航の準備が出来ました」
「おお、平馬。早いな」
「初陣ですから」
表舞台に出る前に戦国時代が終わってしまった為、平馬は、活躍場所を失っていた。
然し、燃え尽き症候群になる事も腐る事も無く、地道に訓練を続けた結果、今回、初陣が叶った訳である。
「じゃあ、引き続き頼んだぞ?」
「は!」
びしっと敬礼し、持ち場に戻って行く。
「……大河、操縦士は居ないの?」
「自動操縦だからな」
「……」
楠は、ちらちらと操縦室を見る。
無人運転は、正直、山城国で見慣れているが、やはり、まだ恐怖心があるのだ。
「もう出航するみたいよ」
南蛮甲冑を装着した誾千代が、大河の横に立つ。
まだ戦争になるか如何か分からないのに、気が早いのは、大友氏の1人として島津氏を警戒しているのだろう。
基準排水量:7万2916トン以上
満載排水量:10万トン以上
全長 :333 m
最大幅 水線:41m / 最大76・8 m
吃水 :11・3m~12・5 m
の航空母艦は、最大30ノット以上(56+km/h)の速力で進む。
「「「!」」」
その大きさに対しての速さに摂津国の国民は、大いに度肝を抜かれた。
余りの驚き様に、心臓発作を起こす者が続出し、見送りに来た摂津守・池田恒興もその看護に追われる。
直後、瓦版の号外が配布された。
———
『【近衛大将、薩摩へ派遣】
近衛大将に就任したばかりの真田山城守大河氏が、中央政府の指示に基づき、薩摩国へ向かった。
島津貴久氏に対し、美麗島への出兵を止める様、説得する為、と思われる。
病み上がりにも関わらず、遠征は、山城守と親しい朝廷から異論が続出したが、山城守は、快諾した模様だ。
新居の残留者は、明かされていないが、名代を上杉謙信氏が務めると見られている。
又、京都新城の近辺を、特別高等警察や上杉軍、織田軍、真田軍、徳川軍等が物々しく雑踏警備しており、政変等の非常事態に備えている―――』
———
瀬戸内海を進む航空母艦。
16世紀には、見る事が出来ない化物に、漁師や海女も口をあんぐり。
「「「……」」」
仕事が手に付かない。
星条旗ではなく、旭日旗を掲げたそれは、九州へと向かうのであった。
島津氏の城と言えば、鶴丸城(現・鹿児島城)の心象が強いだろう。
然し、鶴丸城は万和2(1577)年現在存在しない。
慶長6(1601)年に島津家久が築城するまで島津氏の本城は、この内城だ。
「……来たか?」
臨戦態勢で甲冑を身に纏う貴久の前に、大河が跪く。
「真田山城守大河です―――」
「近衛大将が忘れているぞ?」
孫の出世を喜ぶ好々爺の様に微笑む。
世間では、両家の戦争説が囁かれているが、残念ながら、両家は、至って友好関係だ。
「楠、大きくなったな?」
「は。上様に再会出来て光栄です」
西陣織には、島津氏の家紋、丸に十文字が意匠計画されていた。
島津氏の血縁者では無いが、家紋を使用する程、楠の島津に対する忠誠心は篤い。
然し、全員が全員、友好的とは限らない。
「「「……」」」
家臣団は、航空母艦で来た彼等を遠くから、睨み付けている。
又、好敵手・誾千代と、初めて見るエリーゼへの警戒心も凄まじい。
全員、右手が日本刀に伸びている。
抜刀する事は無いが、念には念を入れよ―――という事なのだろう。
「島津殿、申し上げ難いのですが、撤兵を御願い出来ますか?」
「ならん!」
断固拒絶した。
「奴等は、親類を殺害した。これを見ろ」
大河達の前に骨壺が置かれる。
「絶対に撤兵しない! 美麗島を制圧する迄は!」
感情的になっている貴久。
家臣団も頷いている。
領主と同じ気持ちの様だ。
「……分かりました」
感情的になっている相手程、話し合いは、難しい。
こちらも感情的になれば、口喧嘩の末、最悪、戦争だ。
妻の実家(正確には、違うが)との流血は、大河の本意ではない。
「では、この戦争、我が軍に委任出来ませんか?」
「! 手柄を横取りする気か?」
「その気は、一切ありません。自分が、他国を侵略した事ありますか?」
「……」
大河の真っ直ぐな目に、貴久は、沈黙する。
薩摩国でも、大河の専守防衛振りは、轟いているからだ。
”一騎当千”の異名を持ちながら平和主義者―――不思議な侍、として。
「……仇討ちを代行する、という事か?」
「はい―――」
「では、我々の気持ちは、何処にぶつければ―――」
「最後まで話を聞いて下さい」
珍しく、大河は、語気を強める。
「「「! ……」」」
温和な性格を知っている彼等は、ビクッとした。
「犯人は、我々が生け捕りにします故、その後の処遇は、貴家に御任せします」
「! 良いのか?」
「はい」
意外な内容に貴久の憎悪も少し、和らぐ。
元々、大河を早くから認めていた男だ。
信頼度は、強い。
「……出来るのか?」
「既に我が軍の間者が、現地にて情報収集を行っており、数人程の容疑者を絞り込んでいます」
「「「!」」」
どよめきが起きる。
真田軍の情報収集能力の高さは知っていたのだが、まさか、主権外の華麗島に迄及んでいたとは知らなかったのだ。
「……間者?」
「はい。宣教師が間者だった例に倣い、我々も信者や貿易業者を間者に仕立て上げているのです」
「……」
国家機密の暴露に貴久は、戸惑う。
秘密主主義者で有名な大河が、手の内を明かすのは、予想外であったから。
「……何故、そんな事を?」
「大規模な戦争を避ける為です。我々が出来る和平案は、これが最大限です。若し、快諾して頂けなければ、残念ながらそれ相応の方法を採らざるを得ません」
「……方法、とは?」
「解釈次第です」
「……」
美麗島にまで情報網を広げている事から、島津領に間者が居ても不思議ではない。
否、居る筈だ。
大河が指示すれば、彼等は、忽ち、便衣兵と化し、一気に島津は、滅ぼされる可能性がある。
スペイン帝国、ロシア皇国を打ち破った実績が、論より証拠だ。
航空母艦で来たのも、砲艦外交の一環だろう。
唯一の救いは、大河が、楠と結婚し、平和主義者である事。
「……分かった。停戦し様。その代わり、約束は、遵守するんだぞ?」
「はい」
「楠、観戦武官として、夫を見ていてくれ」
「は」
貴久の軟化により真田VS.島津の開戦は、一時的だが、破談になった。
「立花殿」
「はい」
誾千代が進み出る。
「貴君も良き夫を持ったな?」
「はい。自慢です」
「じゃが、楠にも配慮してくれよ。彼女は、大事な姫なんだから―――」
「残念ですが、それは、無理ですね。彼は、私に夢中なので」
ぐいっと大河を抱き寄せる。
「……」
逆側からは、エリーゼが抱き着き、大河は、長身の美女2人に挟まれた。
貴久の額に青筋が浮かぶ。
「ほぉ~、これは、又、開戦だな?」
「良いですよ? 九州の覇者、決めましょうよ?」
大友氏VS.島津氏の対立が再燃する。
「も~! 2人共止めて下さいよぉ~!」
困り顔で楠が、両者の間に割って入る。
が、その表情は、笑顔であった事は言う迄も無い。
その晩は、貴久が用意した宿で泊まる。
大河達の寝息が隣室から聞こえ、光秀は、苦笑いだ。
「……元気な
用意された酒を飲みつつ、鹿児島湾を眺めている。
「……」
想うのは、愛妻・煕子の事だ。
彼女は、去年(1576年)に病死した。
光秀が重病となった際の看病疲れが元で病死したのだ。
夫婦は、一夫多妻が多い戦国の世に於いて、珍しい一夫一妻であった。
身重であった煕子を背負って越前へと逃げ延びた事。
浪人だった光秀を、自身の髪を売って迄経済的に支えた事。
……
様々な思い出が不意に蘇る。
取り分け、2人の逸話で最も有名なのが、天然痘であろう。
彼女は、光秀との結婚前、天然痘に罹ってしまい、美女にも関わらず、左頬にその痕が残ってしまった。
然し、光秀は、気にせず、彼女を妻にする(*1 )。
因みに後世の新選組局長・近藤勇も、似た様な話がある。
勇によれば、「男だらけの新選組が美人に現を抜かす事があっても、つねが相手ならば現を抜かす事は絶対に無い」という理由だったが、夫婦関係は、問題無かった様だ。
子供を儲け、新婚生活を謳歌し、夫が不在の際、つねは、愚痴を綴った手紙を書き、彼が処刑後、家族等に再婚を勧められるも断り続け、自殺を図った事も何度かあったといわれる(*2)。
兎にも角にも、光秀は、愛妻家であった。
彼女の葬儀の際も、当時は、
煕子を想って詠む。
「月さびよ 明智が妻の
と。
月は、何も返さない。
ただただ、光秀と鹿児島湾を照らすのみであった。
[参考文献・出典]
*1 :柴裕之 『図説 明智光秀』戎光祥出版 2019年
*2 :ウィキペディア
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