第29話 注目株
開催を三日後に控えた精霊神武勇祭典。
国内外から集った、多数の戦士が参加するこの祭典は予選と本戦に分かれており。
予選では広大なフィールドを使い、約半日を掛けてのポイント獲得戦を行う。
獲得した総合ポイントが高い上位十六名が本戦に出場でき、ポイントにはフィールドの各地に配置されたお宝を入手し予選終了時まで所持する事で得られる宝物ポイントと。
フィールドを徘徊する魔物に見立てたられた人工の怪物…”エルーン導魔”と戦い、撃破することで加算される討伐ポイントの二種類がある。
討伐ポイントがエルーン導魔の強さに合わせ一体につき10~100のポイントに対し、宝物ポイントはどのお宝でも一つにつき1000ポイントと高いスコアが設定されている。
ただし、高得点の獲得が狙えるお宝にはペナルティーが設定されており。
お宝獲得直後から予選終了時まで、入手したお宝を”所持してるかどうかに関わらず”鈍重の呪いがお宝の獲得数に応じて掛けられてしまう。
つまり一旦お宝を手にした時点で、すぐさま手放そうが最後まで持ち続けようが動きが鈍重になり回避がしにくくなるという大きなハンデを負う事になるのだ。
一方の討伐に関しては、獲物の横取り…トドメだけを狙いに行くといった行為を防止するためエルーン導魔に設定されてる体力を最も多く削り切った参加者にポイントが入る仕組みになっている。
予選はあくまでもポイント獲得戦の為、参加者同士の戦闘行為は禁じられており。
誤判定防止の為に設けられた猶予時間の三十秒を超えた戦闘行為が確認された場合、戦闘を仕掛けた方側の参加者は強制的に失格扱いとなる。
そんな予選を経て本戦へと駒を進めた十六名の猛者達。
本戦では一対一・勝ち抜き形式による模擬戦を行い、優勝者一名を決定する。
見事優勝を収めた最後の一名は歌姫を守護する”姫守りの騎士”と戦う権利が与えられ、仮に騎士に勝利する事が出来れば祭典の褒賞とは別に、姫継ぎの儀式への同行を許可されると共に、本人が望めばアウルティアでの特例市民権が授与されエルフ・オリジン以外の種族の者でも”姫守りの騎士”になる事が許される。
予選・本戦共通の事項として、参加者が使用出来る武器は”アウルティア国内でつくられた”訓練用の武器に限られ。
また、参加者は予選・本戦に関わらず”拾い身の指輪”というアクセサリーを身に着けていなければならない。
拾い身の指輪は、装備者の体力を個別に判断し…活動困難なダメージが受けたと判断すると、安全な場所へ強制転送するマジックアイテムだ。
参加者は、強制転送された時点で敗退が決定する。
ちなみに、フエーナルクエスト内ではこの手のアイテムは二種類あり。
拾い身の指輪は装備者のHPが半分を切った・もしくは切る攻撃を受けた時点で発動し、戦闘メンバーから外れ。
もう一種類の”拾い命の指輪”は装備者のHPが残り一割になった・もしくはなる攻撃を受けた時点で発動し戦闘メンバーから外れる。
ただし、この二種類の指輪には一撃で死亡扱いとなる即死攻撃からは逃れられないという共通の欠点が存在する。
そんな欠点だが…俺に関しては特に問題はなく。
というのも、魔王の血が流れるグレンにはステータス画面に記載されていない隠しステータスとして即死無効の能力があり、仲間として同行している間は即死攻撃を受けても「グレンは回避した」というログが流れるのだが、実際には回避しているのではなく無効化しているらしい。
ボスとして完全に竜化していた時は、全状態異常攻撃が無効化されていたので、人型時に即死無効が付与されているのも分からなくはない。
だが、これは魔王の血が流れる俺に限った話だ。
早々ありえない事だとは思うが…参加者の命を守る安全装置として設定されている指輪に即死は防げないという欠点がある以上、最悪の場合死者が出る可能性もほんの僅かにだがあるわけだ。
無論俺の使命は勇者のサポート…旅路の完遂なので、この身を犠牲にする事は出来ないが。
万が一何か事が起きた時、俺の力で救える命であれば助けたいと考えている。
その結果…祭典の順位に影響したとしても、だ。
既にゲームのシナリオは崩れ始めている。
それなら。
俺は、俺が思う最善を尽くしていこう。
◇◆◇
「グレンっ! ライバル達の情報…ゲットしてきたよっ! 」
「情報…? っと、こいつは…週刊誌か」
「うんっ、さっきリーニャさんと書店で見つけたんだけど…。 今週号の特集は精霊神武勇祭典の注目株についてだって! 」
「ちょっと目を通してみたけど。 優勝候補として挙げられてた人達は、やっぱり二つ名持ちのハンターが多かったわね」
「成程、な」
リーニャから雑誌を受け取り、アレンの解説を受けながらライバル…となるであろう今大会の著名な参加者達をチェックしていく。
武勇祭典の特集には二十ページ以上も割かれており、二つ名持ちの狩人を含め…今大会の注目株が十六名紹介されていたが。
俺が特に気になったのはこの三名。
一人目は「得物砕き」の二つ名を持つ鬼人族の豪傑、オルグ・バルバンデス。
その二つ名からも分かる通り、相手の武器を破壊する武技…
二人目は「大博打」の二つ名を持つ獣人族、カイン・バースト。
目的達成の為なら手段を選ばず、禁じ手という言葉は彼の中に存在しない…要注意人物だ。
三人目は「氷凍の射手」の二つ名を持つ鳥人族の弓取り、レイ・ミンティア。
彼女は”捕捉の魔眼”と呼ばれる特異な瞳を持ち、軌道の補助の力…ゲームでいう所のロックオン能力を駆使して、魔力によって生み出した氷の矢尻を絶え間なく、かつ正確に射続ける事が出来る弓の名手だ。
(本戦に進んで、直接やり合う機会が訪れた時の事を考えれば…。 せめて、特集で紹介された十六名に関しては何か対策を考えておかねぇとな…)
「はい、皆さん。 今日の夕飯が出来ましたよ~」
「う。 フリートも、手伝う、た! 」
個室である俺以外の四人が宿泊している大部屋に、備え付けられていたキッチンからいい匂いが漂ってきた。
どうやら、今日の料理当番であるミアとフリートお手製の晩御飯が完成したようだ。
俺は料理の腕はからっきしなので、食後の洗い物や買出しなど出来る事を行っているが。
何時も、栄養面も考えながら美味しい食事を作ってくれる女性陣には心から感謝している。
とはいえここ最近では、自分でも少しくらいは料理が出来た方がいいだろうと思い始め。
武闘祭が無事に終わり少し落ち着いたタイミングにでも、料理を誰かに教わろうと思う。
(今度、ミアかリーニャにでも相談してみっか…)
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