第28話 神都入国

 果樹園での依頼を完了した日から一週間が過ぎ。


 認定条件であるC難度の依頼に加え、手近な場所での依頼が見つかるまでの間繋ぎとして受けたE難度、D難度の依頼を含め計四つの依頼を完了させた俺達は晴れて正規認定ハンター…D-3等級の狩人としてスタートを切った。


 出来る事ならこのまま、バンバン依頼を受けガンガンランクを上げていきたいのだが…。


 あくまで、俺達の今回の目的は精霊神国で開かれる武闘の祭典に参加する事だ。


 道中の移動や、祭典へのエントリー、アウルティアでの宿探しなど…もろもろの時間配分を考えるとそろそろ南リーフを出発した方がいいだろうという話になった。


 まだ一週間と少しくらいの付き合いであるが、何かとお世話になった狩人協会の受付嬢に別れの挨拶をし俺達は神都へと旅立つのだった。




「えへへ、みんな頑張ってきてっ! て、言ってくれて…嬉しかったねっ」


 アウルティアと傘下の国々を繋ぐ魔装連車に揺られながら、ボックス席に備え付けのテーブルに焼き菓子を広げていたアレンがそう口にする。


 人怖じしない性格のアレンは分からない事があるとその場にいる先輩狩人に話し掛け助言をもらい、話を聞く際にはしっかりとメモを取っていた。


 そんなひた向きに頑張るアレンや、無邪気で少々危なっかしく…なんとなく放っては置けないフリートのお陰もあって南リーフ支部の狩人や職員達と早くに打ち解けることが出来た俺達は。


 別れの挨拶をしにいった際、その場に居た先輩ハンターや最初の手続き以降何かと接点があった馴染みの受付嬢から温かいエールの言葉を貰った。


「そうね。 酒豪三盟しゅごうさんめいの三人なんか、休みを取って応援に来てくれるって言ってたし…頑張らないとね、グレン! 」


「お、おう。 勿論だぜ」


 先輩ハンター達の中でも、酒好きの夫婦とその従妹の三人で結成されたパーティー…酒豪三盟の面々は、俺達が正規ハンターとして認定される現場にたまたま居合わせ、これも何かの縁だとお祝いに食事をご馳走してくれた事が切っ掛けとなり、支部で見かければ毎回挨拶とちょっとした世間話を楽しむ程度には親しくなっていた。


 そのため、祭典の期間はハンターの仕事を休んでわざわざアウルティアまで応援しにきてくれるらしい。


 …俺の。


(な、何故なんだ…! )


 原作では、武闘祭にエントリーする為に必要な参加料金が序盤の金銭事情からするとかなり高額で。


 勇者と、この時点では唯一のパーティーメンバーであるグレンは話し合い。


 そもそもこの時期、聖剣の欠片が目当てであったグレンは高額な参加料を支払ってのエントリーに乗り気ではなく、勇者だけが武闘祭にエントリーする流れになっていた。


 その結果、勇者は精霊神武勇祭典を通じてヒロインの一人と友魔使いの残念な貴公子と知り合い…二人の新たな仲間がパーティーに加わるのだ。


 そんな俺の原作知識、フエーナルクエストでの正規の流れはアレンの一言により完全崩壊していた。


― 武闘祭にはグレンが参加するから! 応援よろしくねっ! ―


 突然の爆弾発言に何故俺が!? と動揺していると。


 アレンはバチコーンとウィンクを決めながら「神さまのお告げ通り…頑張ってきてね、グレン! 」と小声で俺に囁いてきた。


(神様…。 アレンへのお告げ、間違ってるぞ…)


 こうして俺は。


 自身では聞くことが出来ない神託により、後の勇者ことアレン率いる俺達のパーティー…その代表者として武闘祭にエントリーする事が決まったのだ。




 ◇◆◇



 精霊神…その依り代とされてきた歌姫が絶対的な権力を握る一大国家。


 精霊神国アウルティア。


 エルフ・オリジンが住まうこの土地は、一年を通して新緑を保ち続ける草木に囲まれながらも。


 前世でいうところの電車に相当する魔装連車を用いた交通の整備から、バンダスランダをはじめ…これまで訪れた土地では目にした事の無いような超高層の建物など。


 数ある大国の中でも、かなり進んだ近代化と大自然とが見事に調和している。


 基本的に、エルフの血族は美男美女が多いとされるが。


 エルフ・オリジンと呼ばれる彼らは、一見して男女の区別がつかない程に皆一同に女性的な美しさを持った顔立ちをしている。


 ちなみに、他種族との混血であるハーフエルフ以外の全てのエルフ…ウッドエルフやダークエルフなどは。


 実のところ、信仰する神の影響で肌の色や細部の特徴などが変化しているが…他種族の血が混じっていない血筋から見ればエルフ・オリジンと変わりはないのだ。


 そのため、ファンタジーものの映画に出てくるような男前のエルフはフエーナルクエストの世界ではハーフエルフだとすぐに判断できる。


 資料集によると、歌姫を中心とした社会構成であるアウルティアに住まうエルフ・オリジン独特の文化として。


 他種族の者が、男性のエルフを女性のエルフだと見間違う事は失礼にはあたらず…寧ろ間違えられたエルフは容姿を褒められたのだと受け取るらしい。


(ゲームでも綺麗だったが…。 実際に見ると…マジで美女しかいないんじゃないかって思えてくるな…)


 アウルティアの駅に降り立ってからというもの…どうしても視線があちらこちらと忙しくなってしまう。


(ん…? あの格好…もしかして…)


「うぐっ!? ちょっ、フリート。 急に抱き着くな…! く、首が…」


「うー! グレン。 よそ見、ばっか、ダメ」


 一瞬。


 人々が行き交う駅のホーム内に、見覚えのある後ろ姿を見かけた気がしたのだが。


 フリートからの強襲を受けている間に見失ってしまった。


(だが…)


 さっき見た人影が俺が知るウッドエルフならば、後日…武闘祭で出会う事になる筈だ。


 友魔に全力の愛を注ぐあまり、自身の友魔以外とまともに喋れなくなってしまった残念な美少女…じゃなくて、美少年。


 所謂、男の娘キャラという事で一部のファンから絶大な支持を集めていた彼。


 ルカ・オーディスティン。


 基本的には無口なのだが、こと友魔の話題となると突然早口で喋り出し。


 家柄や実力は高いが、コミュニケーション能力が壊滅的なせいで勇者と出会うまで友人が一人もいなかった…という、キャラクタープロフィールのせいでプレイヤーからは…残念な貴公子。


 そう、呼ばれていた。

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