第4話 俺が欲しいのは大剣であって、断じてフラグではない(後)
「ガハハッ、災難じゃったのぉ兄ちゃん」
「ほんとだぜ……。 んでも、本当に俺が持ったままで良いのか? この大剣……
なんでも、ドワーフの爺さんの娘さんはこの都市の安全を守る警守衛隊と呼ばれる組織の総隊長を勤めているらしく。
都市の観光名所としても機能していた剣を引き抜いてしまった俺の処遇はワシら親子に任せてくれという爺さんの一声によって、あの場の騒ぎは収まった。
そんなわけで現在、魔装カラクリが組み込まれた仕込み杖…ならぬ仕込み大剣の初代武蔵は、ボンデ武具店お手製の
「なぁに、構わねぇじゃろ。 ソイツは遠い遠いご先祖様が残した遺物じゃが、今の今まで扱える者が現れぬどころかあの場から動かす事すら出来なかったのじゃ。 それをいとも容易く引き抜く者が現れたんじゃから、大剣の所有者として誰も文句はあるまいて」
「だが…この都市の観光名所だったんだろ? 」
「なーに、観光名所と言ってもバンダスランダの見所が大剣だけというわけじゃなしに、あまり気にせんでもいいのじゃよ。 何なら、大剣を引き抜いた兄ちゃんの様子でも石像にして建てちまうかのっ! 新たな名所じゃ言うて! ガハハハッ! 」
「そ、それは勘弁してくれ…」
「カッカッ! まあそれは冗談だとして、お主…えーと」
「ああ、すまねぇ。 名乗るのが遅れちまった…俺の事はグレンと呼んでくれ」
どうにもこの体に生まれ変わってから。
グレンという器に精神が引っ張られているのか、荒っぽい口調や相手によっては不遜な態度と取られかねない言動がすっかりデフォルトになってしまった。
前世の感覚から、初対面や目上の人などには敬語を使おうと心掛けてみても、原作のグレンというキャラが崩れないよう強制的に補正されてしまうので俺の意思ではどうする事も出来ず今では半ば諦めかけている。
「おお、グレンか! 勇ましき名じゃのぉ! ワシはダン・ボンデ。 まあ今までのように爺さんでも構わぬ、グレンの好きなように呼ぶがよい。 それで、じゃ。 先程皆の前で言った通り、一応初代武蔵を引き抜いた件については警守衛隊にも話を通さなくちゃいかんのじゃが……」
「警守衛隊…ダン爺さんの娘さんが総隊長を勤めているていう、組織だったか? 」
「そうじゃ。 主な役割は都市を魔物から護る事じゃが、都市で起こる事件やいざこざの解決にも尽力しておる。 ワシの娘、リーニャは少しばかし人当たりが強いところがあるんじゃが根はいい娘じゃけ。 一応ワシから一連の経緯をまとめた手紙を書いておくけ、娘に会ったらソイツを見せながら説明してくれぃ」
「何から何まですまねぇな…」
「カカッ! 剣を抜くよう焚きつけたワシにも責任はあるんじゃ。 このくらいの事はやって当然じゃよ。 ……む、そういえばお主、この都市にどれくらい留まるといった予定はあったのかの? 」
「予定、か。 実を言うと、この都市にはバンダス山岳で行う修行の為にやって来たんだが……。 恥ずかしながら、今のところ寝床すら決まってねぇ状況で…もう山に籠るしかねぇか、なんて考えてたところだ」
「山に籠るたぁまた豪快じゃのう! カカッ! その意気込み気に入ったぞい! それならワシが手紙を書くついでに警守衛隊への推薦状も書いてやろう、コレで一先ず食い扶ちには困らんじゃろうて」
「なっ…! いや、ありがてぇ話だが…俺がこの都市に滞在するのは修行の間だけなのに、警守衛隊に入れちまっていいのか…? 」
「そこら辺はあれじゃ。 都市を離れる時は長期遠征の任務なり、なんなりと適当にワシらの方で処理しとくけ、問題ないぞい。 …………よし、ほいじゃぁこの手紙と推薦状を持って警守衛隊の駐屯地へ向かうんじゃ。 ワシがついていければ話は早いんじゃが、捲れ上がった大剣の跡地を早々に均してしまわねぇといかんのでな、悪いが地図を見ながら一人で行ってきてくれぃ」
「色々と世話になっちまったな…。 ありがとな、ダン爺さん! 今度何か礼をさせてくれ! 」
「おうよ! …っと、もう見えなくなっちまったわい。 あんな重い剣を担いだまま駆けて行くたぁ…流石ワシが見込んだ男じゃて、ガハハハッ! 」
◇◆◇
警守衛隊駐屯地、その訓練場。
「吹き飛びなさいッ! そりゃぁぁッ!! 」
「しまっ!? グハッ! 」
ゲーム内でもお目に掛からなかった奇妙な鎧…聞く話によれば魔装アーマーと呼ばれるカラクリ防具に身を包み。
実戦さながらの激しい模擬戦を繰り広げる警守衛隊のドワーフ達。
「流石は総隊長! 」
「今日も素晴らしい吹き飛ばしであったな…」
「こら~! みんな自分の対戦相手に集中しなさいよ…! っと、あら? ちょっと貴方、見慣れない顔だけどココは一般人の立ち入りは禁止よ? 」
巨大な訓練用の戦槌を振り回し一撃で対戦相手を吹き飛ばした総隊長ことリーニャ・ボンデは、俺に気付くと兜を外し不思議そうに首を傾げた。
ツインテールに結われた栗毛色の髪、パッチリと開かれた橙色の瞳。
話す際見え隠れする犬歯と、頬から鼻筋にかけて薄っすらと広がるそばかすが彼女の快活な印象を際立たせている。
そんな彼女の容姿だけ見れば完全に幼女と呼ばれるソレであるが、ドワーフの女性の年齢は見た目では判断出来ないので、もしかすると俺より年上という可能性すらある。
「あっ隊長! この方はダンさんからの紹介で……」
「え? お父さんの? 」
「ああ、俺はグレン。 訓練中にお邪魔する形になってすまねぇんだが…この手紙と、推薦状をキリがついたら一読してもらえるか? 」
「いいわ。 丁度私の相手は気絶しちゃったし…今見てあげるわよ」
どうやらリーニャ嬢と手合わせしていた相手は、先の一撃で完全にダウンしてしまったらしく。
魔装アーマーが取り外され、同僚と思しき者達によって担がれて行った。
「ふ~ん、成程。 その背中にある大剣を見る限り、この手紙の内容は嘘じゃないみたいね」
「初代武蔵を引き抜いちまったのは…その、本当だ」
「へぇ、面白いじゃないっ! ならそうね…貴方、私と模擬戦をしなさいよ。 それで大剣の件……主に捲れ上がった地面の修繕費についてはちゃらにしてあげるわっ! 」
「本当か!? 」
「ええ。 それに、警守衛隊への推薦についても私とやり合えば小難しい手続きなんていらずに合否がハッキリする、悪い話じゃないでしょ? 」
「お、おい人族の坊主。 悪い事は言わねぇ…総隊長との模擬戦だけはやめておけ…! 」
「そうだ、体がもたねぇぞ…! 」
一般人である俺を気遣ってか、そっと耳打ちにて模擬戦だけは辞めるようにと忠告してくれる警守衛隊のオジサン達。
(心配してくれる気持ちはありがてぇが…俺にとっちゃあ、悪い話じゃねぇ! )
グレンのステータスが初期から高いという知識は持ち合わせているが、現実の俺はまだ何の経験も詰んじゃいないひよっこだ。
模擬戦という形で自分の現状を把握できるなら、このチャンス逃す手はない。
(それに、修繕費の支払いは何としてでも避けてぇ…!! )
「こっちとしても、それで色々と片がつくんなら好都合だ。 模擬戦、受けさせてもらうぜ」
「お、おい…! 」
「ふふっ、そう来なくっちゃねっ! 」
機動性や独特な動きに慣れるまで時間が掛かるという魔装アーマーを着込んでは、逆に俺が不利になるという話し合いの元。
リーニャ嬢は魔装アーマー、俺は急遽倉庫から引っ張り出されたメイルコートを羽織り模擬戦を行う事となった。
「何時でもかかってきなさい」
自身の背丈の倍以上もある戦槌を片手に、余裕の構えを見せるリーニャ嬢を見据え俺は訓練用の大剣を両手で握り締める。
「なら、お言葉通り…こっちから行かせてもらうぜッ! 」
(武技解放…! )
「
地面を蹴ると同時、リーニャ嬢の目前へと一瞬で躍り出た俺はその勢いのまま大剣を振り下ろす。
ゲーム内ではユニットの移動行動以外で相手との距離を詰められる貴重な移動系攻撃スキルとして存在していた武技、縮地一刀。
自分でも使えるかどうか不安であったが、流石はグレンの初期スキルというだけあってか自然と体は動いてくれた。
「早い……! いきなり、なかなかのご挨拶じゃないっ…! でも、ねっ…! 」
大剣が直撃する寸前のところで身を翻し、驚異的な回避を見せたリーニャ嬢。
(来る…! )
「これで終わりよ! ぶっ飛びなさい…!! 」
ブンッ。
と、空気を切り裂く音と共に弧を描きながら振るわれる戦槌を視界に捉え。
俺は避ける……ではなく、その一撃を”受けに”動いた。
「ぼ、坊主……!! 」
「直撃したぞっ! あの人族、大丈夫なのか!? 」
「いや、待て……! アイツ、まだ終わっちゃいねぇぞ……! 」
渾身の横薙ぎを、その身に受けてなお。
立ち続けている俺が余程衝撃だったのか、リーニャ嬢の動きが一瞬停止した。
「えっ、ウソでしょ…!? 」
(今だッ…! )
「コイツはお返し、ってな!! 」
受けたダメージを反撃の糧とする。
剣身を包みし紅き闘気のオーラがさながら炎のように揺らめき、燃え盛る大剣が動きを止めたリーニャ嬢に襲い掛かる。
前のターンに受けたダメージを斬撃に乗せて放つカウンタースキルだ。
動揺から立ち直り、慌てて後方に飛び退くリーニャ嬢だが。
「ッ…!! 避け切れないっ…! 」
闘気により模られた炎刃は剣先を離れ、地面を滑るようにして彼女の魔装アーマーを直撃した。
肉を切らせて骨を断つ、耐久力には自信があるグレンならではの戦法だ。
(決まったか……って! )
訓練用の武器だからと甘く見積もっていたが。
怨炎の刃は予想以上の威力を出してしまったらしく、ふらつきながら起き上がったリーニャ嬢の魔装アーマーは半壊していた。
「おい、大丈夫かっ…! 」
「え、ええ。 平気よ…………っ」
「総隊長? 」
「ど、何処かお怪我でも…? 」
平気だと口では言いつつも、俯いたまま体を震わせているリーニャ嬢の様子に周囲から心配の声が上がる。
「……た」
(た…? )
「やはり、何処か痛むのでは…? 」
そんな中。
ふいに彼女は、バッと勢いよく顔を上げ――
「見つけたっ!! 」
そう叫んだ。
「え? 」
「見つけた、見つけたわっ! 私のライバル! 確か貴方、グレンって言ったわよねっ! 警守衛隊には、勿論合格よっ! 」
半壊のアーマーを気にする様子も無く、興奮気味にそうまくしたてるリーニャ嬢。
(ら、ライバル……? )
「総隊長、ライバルとは…? 」
「ふふん! いい? 皆。 聞きなさいっ! この男、グレンは今日から私のライバルっ! 生涯の好敵手に決まったわ! 」
「「「おおおおお! 」」」
「お、オイ。 急に何を言って…! 」
「えへへっ、これからよろしくねっ。 私のライバルさんっ♪ 」
ど、どうしてこうなった……!
(俺が欲しかったのは大剣であって、断じてライバル登場のフラグじゃねぇ…!! )
花が咲いたように笑うリーニャ嬢に対し、俺は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
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