地図
入間しゅか
地図
全寮制の高校入学から今に至るまでほとんど帰らなかった地元の駅に降り立つ。
相変わらずの閑静な住宅街だったが、かつて田畑に囲まれていた駅前は大きめのスーパーに姿を変えていた。
そのおかげかロータリーは心無し賑わっている。
駅から徒歩35分の場所に実家がある。生憎バスが通っていない。
駅から徒歩5分でつく今の家のことを思うと、タクシーに乗りたくなるが、地元の懐かしさから歩くことにした。
頭の中に地図を描く。マンション、喫茶店、寿司屋。記憶にない建物に出会うと地図を更新していく。
歴史のありそうな御屋敷と四角い形をした洋風の現代家屋が混じりあった細い道を歩く。洋風の家が建っている場所は元々田畑だったはず。
家に挟まれた細い抜け道を歩く。
学校が終わったのか女の子が三人縄跳びで遊んでいた。
ここを抜けると確か古びた神社があったはずだ。神社は確かにあった。
鳥居が塗り直されて鮮やかな朱色になっていた。
本殿も改修されたようで木材の木目がはっきりと分かる。壁も綺麗な真っ白。
あ、時間が流れたんだ。
駅前の大きなスーパーを見た時よりもずっしりと時の流れを感じた。
ボロボロ煤けた神社の記憶。今ではかくれんぼした思い出も埃が被っている。
地図を更新しなくちゃ。
せっかくだからお参りをする。
小さな頃は興味がなかった神社の由来を読んでみる。何百年も前に起きた災害。神の怒りを鎮めるために造ったと書かれていた。
なるほど、私がこの街で過ごした期間、大きな災害に見舞われなかったのも、この神社のおかげかもしれない。
財布に丁度よく五円玉があったので、少し嬉しい。
いつも、お参りすると願い事に悩むけど、今日は直ぐに決まった。
また来た時もこの神社がありますように。
また来る時、いつだろうか。
すぐかもしれないし、何年後かもしれない。
また、今日のように脳内地図を更新するのだろう。
そして、この神社にたどり着く。今度は煤けてるかもしれない。それもまたいいかもね。
幼い頃の遊んだ記憶とともに今日のことを思い出そう。
お参りをすませまた歩く。
早く「ただいま」って言いたくなった。
時ながれ
街はかわれど
我あるく
こともなき日に
また逢う日まで
地図 入間しゅか @illmachika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます