第6話 さらに北へ

 パチンコ屋で出会った男とその女と別れ、藤巻はさらに北上する。

 進める車は秋田に入っていく。

 ずいぶん遠くに来たな。

 就職してからは帰省以外は旅行をしてなかった藤巻は小さな達成感を得る。

 朝に別れた男と女の顔が浮かぶ。

 長く東京に居たという男と女だが、都会に生きる人間の焦りや対抗心や荒みや歪みや意地悪さや変な自分ルールをもっていなかった。

 福島に移ったからだろうか。

 自分も東京を離れれば、あのように無防備に親切になれるのだろうか。

 いや、そうではないだろう。自分にはあんなパートナーがいない。並んでいるだけで、お互いを二割増しに魅力的に見せることのできる相手が。

「そっちを探すほうが先か」

 さっき通りすぎた福島はまだまだ自分には遠いと藤巻は目を細める。

 藤巻は車を止めずにひたすら前に進んだ。

 福島のカップルが相手をしてくれたおかげで、有給に入ってから秘かに体に溜めこんでしまっていた人恋しさがすっかり消化されたのだ。

 本来、藤巻はひとりでいたいタイプなので、誰とも話さない時間はちっとも苦痛じゃない。

 それでもやっぱり腹は減る。

 藤巻は夕食をとるために、どこかに店はないかときょろきょろする。

 県を貫く国道沿いにはホームセンターやパチンコ屋が出てくるばかりで、適当なファミレスやファーストフード店が現われない。

 今夜はどこかに宿をとらないといけないだろう。そのまま車で入れるラブホテルでもないか。藤巻は周囲に目を配りながら、運転を続ける。

 やがて、古いドライブインが見えてくる。

 ガストとか吉野屋とかないのかよ。

 ひとつ舌打ちして、藤巻はその古いドライブインの駐車場に車を止めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る