第30話 オークの集落壊滅依頼 その二

翌日、朝食を済ませ、オークの集落があるとされる場所付近まで来た。

太陽は頭上まで昇ってきている。正午だ。


「この地図の印を見るとここから三キロ以内だと思うわ」


「村が近くにあるみたいですけど、それ以外の目印がないですね。この地図だと村からどの方向かもよくわかりませんね。探すのが大変ですよ」


地図を見ても自分達の位置と集落の位置がわからない。


「もっとしっかりとした情報が欲しかったわ」


「発見した狩人は逃げるので精一杯だったんですよ。それに村の近くですから村人も避難しないといけないですし」


「そうよね、狩人は動物を狩るのが仕事。魔物の集団相手に冷静でいられる方が不思議ね。仕方ない、ノア君少し時間を頂戴。感知を使うわ」


ボクはそれを承諾し、アンさんは静かに息を吐いた。

数分経って。


「集落の場所がわかったわ」


そう言い、アンさんは集落があるであろう方向に指をさした。


「だいたい一キロと少しだったから、身体強化で一気に駆け抜けて速攻を仕掛けるわよ」


「はい!」


二、三分程走り、集落が見えてきた。


「見張りのオークが二体、集落の中に反応が約三十体、その中に大きい反応があるわ。恐らくロードね。」


「わかりました!」


「ノア君は左のオークをお願い!」


「はい!」


ボクとアンさんはさらに速度を上げ、オークに斬りかかる。

見張りのオーク臭いでボクとアンさんの存在を知っていたのだろう、臨戦態勢を取っていた。

がしかし。


「「遅い(わ)!」」


オークが叫ぶ前に喉笛を切り裂いた。


「このまま仕掛けるわよ!付いて来なさい!」


「はい!」


集落に入ると、やはり臭いでバレている。

バレていたところでボクとアンさんの速度に追いつけなければ意味は無い。


「ノア君!ハイオークには一応気をつけてね!」


「わかってます!油断はしません!」


ハイオーク、オークの上位種でオークより一回り大きい魔物だ。Bランクの魔物の中では弱い扱いだ。注意すべきは攻撃力。一撃でもまともに受ければかなりのダメージになる。


「はァァァアッ!」


ボクはオークの集団を縫うように駆け抜ける。オークはゴブリンよりは頭が良いが、それでも馬鹿である。ボクを攻撃しようとして同士討ちなんて事をしてくれるのだ。


「もらったぁ!」


ボクはオークの喉を切っていく。

オークの攻撃を跳んで回避し、喉を切る。同士討ちして怯んでいるオークの頭に剣を刺し、トドメを刺す。

ハイオークの場合は。


「さすがに大きいな。それならッ!」


ハイオークのかかとを切りつけて膝をつかせる。これで殺りやすくなる。

しかし、ハイオークもただでは殺られてはくれない。太い腕を振り、殴りかかってくる。


「遅い!当たらなければいくら破壊力があろうとも意味無い!神速突ッ!」


ボクはハイオークの首へ剣を突き刺す。





アン(アンジェリカ)side


「ノア君も戦い方が上手くなったわね。ヌエのときより強くなっているわ」


私はノア君の方を見ながら、迫り来るオークとハイオークを斬り伏せていく。

どのオークも女・・・、私に対して欲情している。故に注意散漫、殺りやすい。


「問題はオークロードよね、ノア君には言ってないけれど反応は二つあったのよね」


今のノア君なら倒せるだろうと思い、口にしなかった。

この機会に纏に挑戦してほしいわ。


「さて、私の方はあなたで最後ね、オークロードの片割れさん」


オークロードは普通のオークと同じ大きさだ、しかし太った体ではなく筋肉質な体でスピード、パワーも格段に上がる。魔法耐性もあり、生半可な魔法は大したダメージにならない。そしてAランクに入っている。

だが。


『ブォァアアア!』


「私には物足りないわ。神速剣ッ!」


オークロードが棍棒で攻撃して来た瞬間に切り刻む。

オークロードは何が起きたのかわからないという顔をしていた。


『ブ、ガ、ガァァ・・・』


「纏をするまでもないわね」


私の纏は魔力制御が苦手という弱点があるため、強力な魔物にしか使わない。いや、使えないと言うべきかな。私のせいで被害が増えたら困るしね。


「さて、ノア君の方はどうかな」


私はノア君の方へ向かった。





「ふぅ・・・、これで最後か」


ボクの方はオークが十一体とハイオークが四体いた。それを全員倒し・・・。


「今、目の前にいる筋肉質のオークがロードって事になるのかな」


まさかよりにもよってボクの方にいるなんて・・・。アンさんがフラグを立てたせいだ。


「先手必勝!神速剣ッ!」


ボクは速度を上げステップで一気に間合いを詰める。


『ブモッ!』


「はァァァアッ!」


ズガガガガッ


オークロードは手に持っている棍棒でガードした。


「今のボクの速度じゃ反応されちゃうか・・・」


『ブォァアアア!』


オークロードは棍棒を振りかざし、反撃してきた。

ボクはそれをステップで後ろに避けた。

オークロードの攻撃は地面に小さなクレーターを作っていた。


「攻撃力は高い、でも遅い!」


ボクはステップし、再びオークロードの正面に迫る。

オークロードは棍棒で薙ぎ払ってくるが。


「お前のスピードじゃボクに当てることはできない!」


ボクはオークロードの頭上を跳んで回避する。同時にオークロードの頭を切りつける。

しかし頭まで筋肉質であった。


「硬いな、傷が浅い。それなら!」


ボクはオークロードのかかとと背中を剣で切りつける。

かかとはそこまで硬くないみたいだが、それでも傷は深くない。


『ブアァァァア!』


オークロードは悲痛な叫びと同時に、棍棒で反撃してくる。

さっきの薙ぎ払いよりも速度が速くなっている。

ボクは急いで再びオークロードの頭上を跳んで回避する。


「今のボクの剣だと一撃のダメージか低い。纏を使うしか・・・、でも、今のボクでは三割で戦ったら出力オーバーしてきっと折れてしまう」


ボクはまだ実戦で纏を使った事がない。でも一か八かやるしかない。結局ぶっつけ本番になってしまうんだな・・・。

ボクは一旦、オークロードから距離を取り、剣に魔力を纏わせる。


「行くぞッ!」


オークロードは攻撃が当たらないことで苛立っているのか攻撃が荒くなっている。そのせいで攻撃速度も速くなっていた。


「集中しろ、よく見て避けろ・・・」


ボクはオークロードの攻撃を観察し、ステップで回避し、オークロードの頭上を跳んで回避し、隙を探る。無闇矢鱈と攻撃したら纏の出力を誤るからだ。

十数回回避を続けて大振りの攻撃が来た。


「ここだっ!」


ボクはステップで大振りの攻撃を避け、ガラ空きの顔面へ剣を向かわせる。


「神速剣ッ!!」


スパスパッ


『ブアァァ・・・』


切断という程では無かったが命を奪うには充分な切れ味になっていた。


「纏を使うだけでこの切れ味・・・、でも神速剣の連撃の最後の方は三割を少し超えてしまった」


ボクは剣を見るがヒビや傷は入っていなかった。恐らく大丈夫だろう。

剣の心配をしていると。


「終わったようね」


アンさんが来て、お疲れ様と労ってくれた。


「私とノア君の戦い方は人型の魔物と相性がいいのよね」


「そうですね・・・、言われてみれば戦いやすいです」


ヌエの様に大きい魔物は纏を覚えても時間がかかるだろう。アンさんレベルになれば関係なくなるかもしれないが。


「スピードと手数が売りみたいなものだからね。纏がものになれば鋭さも加わるわ。これからも頑張りましょう!」


「はい!」


この後、実はオークロードは二体だったと知って驚いたのは言うまでもない。

相性が良いのだが攻撃が当てれば致命傷になるのかもしれないのだ。

教えてほしかったな。


「アンさん、またこの森を走るんですよね?」


「そうよ!行きましょうか!」


ギルドへ報告するまでが依頼なのだ。帰りが一番辛いと思うボクであった。

余談、集落の建物は村の人達が再利用するらしい。逞しい村人だ。

こうしてオーク集落の依頼は完了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る