第29話 オークの集落壊滅依頼 その一

練習場にも冒険者が増え始めた頃、ボクとアンさんは修行を終え、依頼が掲載されているボードまで戻ってきた。

戻ってくるまでに、他の冒険者、特に女性から握手やら、おかえりという言葉が、アンさんを迎えた。

昨日といい、さすが剣姫、人気者だ。

王都ので声を掛けられないのは、新聞記者や雑誌記者の写真魔機からはうまく逃げている様で、もし取られた場合は、その写真魔機を切るとか・・・。なので写真での顔バレは無く、ウォルタル以外ではアンさん=剣姫とはわからないらしい。

実際にボクも知らなかったし。


「アンさん、人気ですね!」


「一応剣姫だしね。同性が多いのはナンパしてくる男を返り討ちにした所為だわ」


やっぱり・・・。


「って事はアリスも人気って事ですよね?」


「そういう事になるわね」


よく見ると、周りの男性冒険者はアンさんから距離を取っている。貴族でも容赦なく返り討ちにしていたみたいだから恐ろしいのだろう。

そうこうしているうちに。


「ノア君、今日はこれを受けましょうか」


「オークの討伐ですか、それも集落・・・」


「女の敵だし、久しぶりの依頼だからこのくらいがちょうど良いわ」


ボクとアンさんはこの依頼を受ける事になった。

アンさんはよく私怨を入れてくる・・・、ときがある。ナンパ=下心=オークやゴブリンなのだろうか。

オーク自体はCランクの魔物なので今のボクの相手ではない。しかし、今回は集落があるのだ。恐らくオークの上位種、ハイオークがいるだろう。そして数も恐らく多い。


「運が良ければロードもいたりしてね」


オークロードはハイオークの上位種だ。そんな奴いてほしくない。


「できれば出遭いたくないですよ!」


あらそう?とアンさんが笑いながら言う。

ボクは小さく息を吐き、アンさんと討伐の準備に取り掛かった。





ボクとアンさんは今、森林の中を走っている。この森林はウォルタル周辺の大規模なピピ森林である。

休憩を挟みながら、約四時間。さすがに疲労してきた。


「ノア君、お疲れみたいね。今日はここで野営をして、また明日にしましょうか」


「ごめんなさい」


「何言ってるの。身体強化をずっとしながら走って来たんだから当たり前よ」


そう言うアンさんはあまり疲れていなさそうだ。


「昼にウォルタルを出たんだからどっちにしろ野営はしたわ。もしノア君が元気でもこのままじゃ夜戦になって、怪我のリスクも上がるからね」


今回の依頼、オークの集落の壊滅と退治だ。オーク達が集落を作っているところを、近くにある村の狩人が早期発見、村人全員が避難したおかげで被害者はゼロで済んでいる。


「それにしてもノア君」


「なんですか?」


「食料は干し肉だけで充分じゃない?」


「ダメです!栄養が偏ります!」


アンさんは一人の時もアリスとパーティーを組んでた時も食料は干し肉だけだったのだ。

ありえない!ボクは干し肉だけでは無理だ。

なので。


「ボクは今から野菜スープ作りますから!アンさんはテント張って下さいね!」


野菜スープは簡単だ。鍋に水を入れ、沸騰したら切った野菜を入れ煮込む。最後に塩で味を整え完成。味の保証はしないが恐らくは大丈夫だろう。

ボクが料理を作っている間に、アンさんもテントを張り終えたみたいだ。


「ノア君、お腹空いたわー」


「できていますよ!」


「うわぁ!凄いわね!依頼中にこんな豪華な料理食べた事ないわ!」


ボクが用意したのは、パンに野菜スープ、干し肉だ。決して豪華ではない。そう、決っして、断じて、豪華ではない!


「それじゃあ」


「「いただきます」」


アンさんは美味しいと言いながら沢山食べてくれた。

明日の朝は今日の残りを食べる。たくさん作っておいたのだ。


「そう言えば」


「なに?ノア君」


「見張りはどちらが先にやりますか?」


野営をする時は見張りをするのが絶対だ。眠っている時は無防備、襲われたら死ぬ事は確定だろう。


「それなら気にしなくていいわ」


「え?」


「私は眠っている時でも感知を使えるのよ」


「感知ってなんですか?魔法ですか?」


「無色の魔法よ。纏に近いかもしれないわ」


「それはボクにも使えますか!?」


「練習すれば使えるだろうけど纏ができてからね。今は纏に集中しなさい」


「うっ、わかりました・・・」


「はぁ、そんなに落ち込まないで、どういうものかは説明するわ」


感知とは、自身の周囲にドーム状に魔力を広げ、その中にある物を知る事ができる。感知の中に入っているもの、来るもの、魔法や矢など生物以外も、目を瞑っていて、反応でわかるのだ。

ただ集中しなければいけないので、戦闘中に常時発動はできないらしい。

説明を終えて、アンさんは。


「私は色無しだから無色の魔法を磨き、新しい魔法を習得するしかなかったからね。ノア君も色無しでしょ?」


「やっぱり気づいていましたか」


突然、聞いてきた。

色無し、それは色魔法が使えない人への蔑称だ。人族、エルフ族、魔族などは、個人差はあるが、生まれながらにして無色以外の一色以上の色魔法の適性がある。

しかし、稀に色魔法が使えない、ボクやアンさんのような、色無しと呼ばれる存在が生まれてしまうのだ。

だが、ここ数十年で色無しの冒険者や騎士達が活躍した事で、以前よりはマシになっている。


「なんで突然こんな話をって思ってるわよね」


「まぁ、はい」


「理由はとくにないけど・・・。私を超えたいなら、ノア君も頑張ってねっていう発破かな」


クスクスと笑いながら話す。


「それに、無色魔法は使い勝手もいいし、シンプル故の強さもあるのよ」


確かに、森の中では赤魔法の火系や炎系と呼ばれる魔法や、黄魔法の雷系は、火事になる危険性があるし、水中で茶魔法の砂系を使っても、思うように使えない。その分、無色魔法は相手の弱点を突ける属性は無いものの、場所を選ばないのだ。


「少しは無色魔法の良さがわかったようね」


「はい!」


「・・・さて、そろそろ休みましょうか」


ボクとアンさんはテントに入り眠りに就く。もちろん同じテントだ。

一緒の部屋で眠っているおかげで随分と慣れてしまったみたいだ。

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