第28話 纏の修行開始

翌日の早朝、ウォルタルのギルドに向かっている。

昨日はアンさんが声を掛けられまくったせいで、気付かなかったが、ウォルタルは美しい石造りの都市だった。湖の上にある事もあって、霧が発生し、今は朝日がその霧を照らし、幻想的な風景を作っている。

ボクはキョロキョロと周りを見渡しながら歩いていたら・・・、いつの間にかギルド前まで来ていた。

ウォルタルのギルドは、王都のギルドと比べて、少し小さく狭いが、それでも中は広いと感じた。正面に受付があり、受付の左に依頼のボードがある。右側には地下への階段と二階への階段があり、左側には、魔物の素材や薬草などの買取する場所があった。

普段は賑わっているのだろう。

今は早朝という事もあり、冒険者は少ない。


「アンさん、こんな早朝にギルドに来てクエストでも受けるんですか?」


「まさか。ぶっつけ本番で纏をしろなんて鬼畜なことしないわよ」


「ではなにをしにーー?」


と、ボクが言いかけるとアンさんが待っていなさいと言い、受付に向かった。

受付の女性がアンさんを見ると大輪の花が咲いた様な、パァっと顔が明るくなった。人気者なんだなぁ・・・。

そして、少し話し込んだあと、戻ってきて。


「ノア君、行くわよ」


そう言い、地下へ続く階段を下り、地下へ向かった。

そこには。


「ギルド内にこんな設備があるんですね」


「私も初めてここに来たときは驚いたわ」


この練習場は広さ二百メートル程の空間で高さが十メートル程ある。取り敢えず広いのだ。


「さて、早速纏の修行だけど・・・、身体強化は体の内から魔力を流して、全身に溶け込ますような感じだけど、纏は武器に魔力を流し込んで、表面に魔力を纏わすの。そうねぇ・・・、滲み込ませて、絞り出す感じかな・・・」


「武器に魔力を纏わす・・・」


ボクは前にアンさんにイメージしろ言われた。その考えたイメージは、まず、布に水が染み込むイメージで、剣に魔力を流し込む。次に、布からイメージが離れ、少々汚いが、肌から汗が出て肌に広がっていくイメージだ。そのイメージを剣と魔力に置き換え。


「こ、こんな感じですか?」


ボクの剣は薄く白い光を帯びていた。


「静止状態での纏は完璧ね。でも、剣の限界を超える魔力を纏わすと、剣が震え始める・・・、つまり震え始めたらその剣が魔力を纏える限界よ。覚えておいてね」


「無理させたら折れるということですよね??」


「そうよ、二、三回その状態で切ったらポキっと逝っちゃうわね」


「戦闘時は気をつけないといけないですね・・・」


「ええ、武器が無くなって絶対絶命だからね」


力んだりしたら終わりだ・・・。


「取り敢えずその剣の限界を知りましょうか」


「はい」


ボクは徐々に纏う魔力を強める。二十、二十五・・・。

三十を超えたあたりで剣が震え出した。


「限界みたいね。ちゃんと覚えた?」


「はい、ボクの体感ですけど三割ぐらいの強さでした」


「それを超えないように維持したまま素振りしなさい。それが乱れずに出来るようになったら、次は身体強化と同時に素振りね」


「はい!」


なんだか懐かしい気持ちになる。出会って間もない頃を思い出す。素振りを何千回もやっていた頃を。


「二十三、二十四、二十五・・・」


「ノア君、剣を振り下ろす時に少し魔力が強くなっている気がするわ」


「本当ですか!?」


普段の素振り通りやっているつもりだが、少し無駄な力が入っているみたいだ。


「良い機会だと思いなさい。無駄な力が普段から入っている事がこれでわかったのだから」


「見直す良い機会ですか・・・。でも、なんか悔しいですね」


「纏をしていなかったら私でもわからないぐらいだったけど、直すに越したことはないでしょう」


そうだ。もしここで手を抜いて後で後悔するよりは、今やっておいた方が絶対に良い。

ボクは剣に纏わせている魔力に意識を集中させ素振りを再開した。


「・・・四十七、四十八、・・・ッ!魔力が乱れた!」


くそ!魔力を一定に保つという事が思った以上に難しい!


「・・・九十三、九十四、九十五、きゅうじゅう・・・」


言いかけたタイミングで剣がカタカタと震え出した。


「まただ・・・、さっきよりは長く保っているけど・・・」


「大丈夫よ、私もノア君と同じ道を辿ったんだから」


「そうなんですか?」


「私が最初からできていたと思っていたの?」


「そこまでは・・・、でもすぐに出来るようになったんじゃないかと」


「買い被りすぎよ。むしろ私の方が苦戦していたわ。魔力の調節とか苦手だったしね。ノア君は当時の私よりも魔力の扱いが上手なのよ。だから、焦らずに一つずつ超えていきなさい」


「はい!」


まさかアンさんがボクよりも苦手な事があったなんて。


「ついでにぶっちゃけると私はミスリル百パーセントの剣を買って魔力調節は諦めたの」


今はオリハルコン百パーセントよ。と、ドヤ顔で付け加えた。アンさんにも諦めたりする事があったんだ。


「身体強化は得意なんだけどね。纏は頭で理解しても苦手だったのよ。だから私の纏は極端なのよ。一か百みたいな感じなのよ。実際は三割か全開って感じよ」


アンさんのぶっちゃけは中々の威力だった。纏を全力で使うと建物までスパッと切っちゃうからと、笑いながら失敗談を教えてくれた。

うん、魔力調節は大事だ。

ボクは一度深呼吸をし、心を落ち着かせ、素振りを再開した。

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